甲状腺癌のI-131治療

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作成： 2000/11/23 笠木寛治データ番号　　　：030214 甲状腺癌のI-131治療目的　　　　　　：転移性甲状腺癌の治療放射線の種別　　：ベータ線,ガンマ線放射線源　　　　：¹³¹I 線量（率）　　　：4-7 GBq 利用施設名　　　：京大病院応用分野　　　　：医学、核医学、治療概要　　　　　　：　甲状腺ホルモンはサイログロブリンという大分子蛋白の表面で、ヨードを原料として合成される。このように細胞外液からヨードを取り込み甲状腺ホルモンを産生する機能は甲状腺癌の95 %以上を占める分化型甲状腺癌においても保たれている。¹³¹I療法は、乳頭癌や濾胞癌などの転移巣や再発巣に ¹³¹I(半減期8日)を取り込ませ、606 keVのβ線により細胞を破壊に導くものである。詳細説明　　　　：　　¹³¹Iによる甲状腺癌の治療について、治療の適応、条件、実際および成績、患者の予後、予後決定因子、転移の検出法、副作用などにつき述べることとする。　 1.治療の適用　分化型甲状腺癌は一般に放射線抵抗性であり、外科的療法による病巣の摘出やリンパ節郭清などが主な治療法である。腫瘍の増殖は比較的遅く、患者の予後も良好(10年生存率、乳頭癌で80-90 %、濾胞癌で45-80 %)であるが、遠隔転移のある場合や病巣の外科的摘出が不完全であった場合には積極的に¹³¹I療法が行われる。　 2.治療を行うための条件、準備と実際　正常甲状腺が存在していると、投与した¹³¹Iのほとんどがより摂取能の強い正常部に集積し、そのため腫瘍部への集積は著しく妨げられる。したがって、治療前に甲状腺全摘出術を行う必要がある。さらに、血清TSHの作用により甲状腺のヨード摂取能が高まるので、治療時には人為的に原発性甲状腺機能低下状態にさせる。すなわち、治療数週間前に甲状腺ホルモン製剤投与を中止する。ヨード制限も約3週間前から行う。4-7 GBqの¹³¹Iを内服させ、3日間治療病室に入院させる。退院時に364 keV のγ線により全身シンチグラム像を作成し、甲状腺ホルモン補充療法を再び開始し、退院後ヨード制限を解除する。　 3.治療成績　転移巣へのヨード摂取能が強い症例ほど、年齢が若く、TSH濃度が低い。図1　a)肺野に多発性の肺転移が認められた症例の¹³¹I治療後のシンチグラム像。back ground activityと比較して (-) (+)と(++)の3つに分類した。aは弱陽性(+)、bは強陽性(++)例を示す。(++)例では、右鎖骨上部と左上頸部のリンパ節転移にも¹³¹Iが集積している。b)図1aと同じ基準で判定した場合の肺転移巣への集積強度と治療時の患者の年齢との関係。若い患者ほど転移巣への¹³¹I集積が強い。（原論文1より引用）図2　図1と同じ基準で判定した場合の肺転移巣への集積強度と治療直前の血清T3、T4、TSHおよびサイログロブリン(Tg)濃度との関係。 ○肺転移以外にも遠隔転移を有する症例。●肺転移のみを有する症例。平均値および有意差の検定は全例において行った。点線は最低検出感度を示す。#および*は骨への強い集積のため肺への集積が妨げられていると考えられる症例。転移巣への集積度が強い症例ほどT3、T4、Tg濃度が高く、TSH濃度が低い。（原論文1より引用）　このように高度に分化された転移性甲状腺癌は¹³¹Iを取り込むのみならず甲状腺ホルモンを産生し、甲状腺全摘出後の甲状腺機能低下症を部分的あるいは完全に補償する。著効例における胸部CTの変化を示した症例を図3に示す。図3　著効例における第1回目の治療 (7.4 GBq) 前後の胸部X線像。甲状腺全摘出後、¹³¹I治療前の甲状腺機能は正常であった［TSH 3.3 μU/mL (基準値0.3-3.9)］。2回の¹³¹I治療(計11.8 GBq)後、TSH抑制時のTg値は2210 ng/mLより89 ng/mLまで低下し、甲状腺機能も著明に低下した(TSH 110 μU/mL)。（原論文2より引用）　肺転移例に限った場合には¹³¹I陰性群の方が¹³¹I陽性群と比較して死亡率が有意に高い。一般に微細な小結節性の転移巣を有する症例の方が大結節性の転移巣に比較して治療効果は大きい。機能性腫瘍の単位重量当たりの¹³¹I量が治療効果を決定するもっとも重要な要因であり、その意味においてシンチグラムによってはじめて転移が確認されるoccult metastasisがもっとも予後がよい。　 4.予後決定因子　患者の生存率を高めるための因子を列挙すると①¹³¹Iの集積が陽性であること、②年齢が若いこと、③組織の分化度が高いこと、④病気が進行していないこと、⑤転移を早く見つけることの5つである。転移をできるだけ早く若いうち見つけるためには甲状腺癌の腫瘍マーカである血中サイログロブリン濃度の測定と画像診断を活用する。　 5.画像診断　転移巣発見のための画像診断としては、①胸部X線、②CT、③MRI、④頸部超音波検査、⑤¹³¹I、⑥⁹⁹^mTc-MIBI、⑦²⁰¹Tl、⑧¹⁸F-FDG 、⑨⁹⁹^mTc-(H)MDP骨シンチグラムなどがある。②、③は全身スクリーニング検査としては適していない。⑤～⑨は全身スキャンが可能である点、スクリーニング検査として有用である。図4　肺・胸骨転移例における¹³¹I(A)、⁹⁹^mTc-MIBI(B)、²⁰¹Tl(C)シンチグラム像。いずれも後面像である。複数の転移巣と2個の胸椎転移巣(矢印と矢頭)に¹³¹Iの集積が認められる。これらの転移巣へ⁹⁹^mTc-MIBIも集積しているが、²⁰¹Tlの集積はそれほど明らかではない。（原論文3より引用）　⑤は¹³¹I治療の適応を考える場合、不可欠な検査である。occult metastasisの場合には特に有用性が高い。また、⑤は甲状腺全摘出後の症例しか検査ができず、さらに検査前に甲状腺ホルモン剤の内服を中止したりヨード制限を行ったりする必要がある。⑥～⑨の検査は血中サイログロブリン濃度が高く、¹³¹I集積陰性の患者において転移部位を見つけるのに特に有用であり、外科的治療や放射線外照射の適応の決定に役立つ。　 6.副作用　治療早期に起こる副作用としては急性胃炎、放射線宿酔、唾液腺炎、局所の浮腫と出血などがある。晩発性の副作用としては膀胱癌や白血病の発生頻度の上昇、性腺障害などがある。広範囲な肺転移や骨転移の場合にはそれぞれ肺線維症や骨髄抑制が起りうる。コメント　　　　：　巨大な骨転移巣が神経を圧排し麻痺や激痛を来すような場合には例え131I治療効果が期待される症例であっても手術の適応となる。131I陽性例ではたとえ不完全摘出でもよいから、可能な限り腫瘍摘出を行った方がよい。骨転移による痛みを訴え、かつ131I治療効果があまり期待できない場合には、術後あるいは単独で外照射を行うこともある。進行例においては大きな腫瘍の中に低分化細胞が混在している可能性が強く、手術、131I療法、外照射を適当に組み合わせる併用療法が有効と思われる。原論文１ Data source 1： Increased uptake of iodine-131 in metastasis of differentiated thyroid carcinoma associated with less severe hypothyroidism following total thyroidectomy. Kasagi K, Miyamoto S, Endo K, Sasayama S, Takeuchi R, Hidaka A, Iida Y, Misaki T, Hatabu H, Konishi J. Department of Nuclear Medicine, Kyoto University Hospital Cancer 72 : 1983-1990, 1993 原論文２ Data source 2：核医学による治療の進歩笠木寛治、岩田政広、御前隆、小西淳二、阪原晴海京大病院、核医学科日本医学放射線学会雑誌　729-737, 2000 原論文３ Data source 3： Evaluation of technetium-99m MIBI scintigraphy in metastatic differentiated thyroid carcinoma.. Miyamoto S, Kasagi K, Misaki T, Alam SM, Konishi J Department of Nuclear Medicine, Kyoto University Hospital J Nucl Med 38: 352-356, 1997 参考資料１ Reference 1： Mini review; Radioiodine treatment for thyroid cancer. Kasagi K, Misaki T, Alam SM, Konshi J Department of Nuclear Medicine, Kyoto University Hospital Thyroidol Clin Exp 10: 1-6, 1998 参考資料２ Reference 2：笠木寛治、御前隆、岩田政広、小西淳二甲状腺外科におけるアイソトープ診断と治療の進歩：甲状腺癌のI-131治療について Department of Nuclear Medicine, Kyoto University Hospital Endocrine Surgery 17: 141-146, 2000 キーワード：甲状腺癌 thyroid cancer, 肺転移 lung metastasis, 骨転移 bone metastasis, ヨード-131　iodine-131, サイログロブリン thyroglobulin, 分化型甲状腺癌 differentiated thyroid cancer, 乳頭癌 papillary cancer, 濾胞癌 follicular cancer, シンチグラム scintigram, ヨード集積 iodine uptake, 甲状腺刺激ホルモン TSH 分類コード：030302, 030201, 030303, 030301
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