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作成: 2000/10/23 横井 孝司

データ番号   :030210
エミッションCTにおける吸収補正用外部線源
目的      :エミッションCT(SPECT/PET)において、γ線の吸収補正に必要な線減弱係数マップを測定する外部線源核種、および、その実際の機構の紹介
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :Co-57,Tc-99m,Te-123m,Ba-133,Cs-137,Ce-139,Gd-153,Am-241,Ge-68
応用分野    :核医学診断

概要      :
 エミッションCT(PET/SPECT)では放射性同位元素(RI)で標識した薬剤を体内に投与し、集積したRIから放出されるγ線を計測する。しかし、γ線は光電効果などの相互作用により、その一部が体内で吸収されてしまうので、この影響を補正する必要がある。吸収の割合は物質の線減弱係数によって決まるので、これを別の測定で求める必要がある。この測定を透過断層撮影(TCT)と呼び、外部線源を用いて行う。測定に用いる放射性核種、および機構を紹介する。

詳細説明    :
1. SPECTにおける外部線源
 今までに提案されているシングルフォトン核種は、非密封ではTc-99m(141keV、半減期6.02hr)、密封線源では、Am-241(57keV、半減期458y)、Co-57(122keV、半減期271d),Gd-153(100keV、半減期242d)、Ba-133(357keV、半減期10y)である。あまり一般的ではないが、Ce-139(166keV、半減期137.7d)やTe-123m(159keV、半減期120d)なども提案されている。この他にCs-137(667keV、半減期30y)の後方散乱線を用いた方法も提案されている。外部線源に用いられる核種として望ましい条件は、1)比較的、入手しやすい、2)放出エネルギーが使用するトレーサ核種のエネルギーに近い、3)半減期が長くランニングコストが安いこと、などがあげられる。また、現在では非密封線源の人体への使用は認められていないので、密封線源であることが要求される。線源の形状やその機構を以下に示す。
a. 面線源
 検出器面とほぼ同じ大きさの平面状の線源を対向位置に設置する方法である。この場合の線源は、アクリル製の薄い平面容器にTc-99m水溶液を満たす構造となっている。線源強度は約740Mbq程度である。この場合、検出器面に取り付けられるコリメータは平行コリメータである。
b. シートライン線源
 これは面線源方式とよく似ているが、線源を満たす構造が容器状ではなく、細いチューブが敷き詰めた構造を持つ(図1)。面線源と同様にTc-99m水溶液(925MBq)をチューブの一方の端より注入することによって、ほぼ一様な線源分布を実現している。この場合もコリメータは平行コリメータを使用する。


図1  SPECTにおける吸収補正機構:シートラインソース方式(原論文1より引用。 Reproduced from European Journal of Nuclear Medicine, Quantitative analysis of scatter- and attenuation-compensated dynamic single-photon emission tomography for functional hepatic imaging with a receptor-binding radiopharmaceutical, Ichihara T, Maeda H., Yamakado K, Motomura N, Matsumura K, Takeda K, Nakagawa T, Vol.24, No.1, Figure 3 in page-61, 1997, Copyright(1997), with permission from Springer-Verlag. )

c. ライン線源方式
 1本の線状の密封(あるいは非密封)線源を用いる方式である。ファンビームコリメータの焦点位置におく固定型ラインソース方式(図2)と、ラインソースを平行コリメータを装着した検出器面に沿って移動させて照射する走査型ラインソース方式がある。ファンビーム方式では、線源から放出されるγ線を効率よく検出できるので線源強度は比較的小さくて済む。一方、走査型では平行コリメータに併せて細くコリメートした線源を用いるので、短時間でスキャンを完了させるために、線源強度を強くする必要がある。
d. 複数ライン線源方式
 線状の密封(あるいは非密封)線源を複数本設定する方式である。個々の線源強度を変えることによって、吸収体が最も厚くなる視野の中心部において照射強度を強くなるような配置が可能となる。これも平行コリメータと組み合わせて用いられる。
e. 点線源方式
 Ba-133の点線源を検出器の側面に配置し、対向の検出器に斜め方向から照射し、これを体軸方向に走査することによって測定を行うという方式である。Ba-133から放出される高エネルギーのγ線を用いるのでコリメータを突き抜けて検出器に入ることになり、どのような形状のコリメータでも用いることができる。
f. 後方散乱線方式
 Cs-137から放出されるγ線を直接照射するのではなく、鉄のような容器に封入してエネルギーの低くなった後方散乱線を取り出して用いる方式である。利点はエネルギーの高い核種であっても、SPECTの吸収補正に適したエネルギーを取り出して利用できることである。


図2  SPECTにおける吸収補正機構:線線源ファンビーム方式(原論文2より引用)

2. PETにおける外部線源
 PETの外部線源は、ポジトロン核種であるGe-68(娘核種Ga-68、半減期270日)が用いられている。Ge線源は非密封線源の形式で供給されていたが、現在ではステンレス容器に封入されたライン状密封線源の形で入手可能である。最近では、シングルフォトン核種Cs-137を用いて、同時計数を取らずに吸収補正をおこなう方式も提案されている。この利点は半減期が圧倒的に長くなりランニングコストがさがることである。

コメント    :
 心筋SPECTにおいては、最も吸収の影響が大きい心筋下壁部の定量性を向上させる。また、腫瘍のPET/SPECTの検査においてもその有用性は報告されている。しかし、頭部のような比較的な単純な構造で、近似計算による吸収補正でもよい場合での使用は必須ではない。また患者に対する被曝はもちろんのこと、長期に使用する診療放射線技師や医師に対する漏洩線量による被曝を十分に注意する必要がある。よって検査毎に使用の必要性を見極める必要がある。

原論文1 Data source 1:
Quantitative analysis of scatter- and attenuation-compensated dynamic single-photon emission tomography for functional hepatic imaging with a receptor-binding radiopharmaceutical
Ichihara T, Maeda H, Yamakado K, Motomura N, Matsumura K, Takeda K, Nakagawa T
Toshiba Medical Engineering Laboratory, Fujita Health University, Mie University School of Medicine
European Journal of Nuclear Medicine, 24(1):59-67,1997

原論文2 Data source 2:
吸収補正機構STEP
Picker社/島津製作所
パンフレット

参考資料1 Reference 1:
SPECT liver imaging using an iterative attenuation correction algorithm and an external flood source
Malko JA, Van Herrtum RL, Gullberg GT, Kowalsky WP
Emory University, Vincent's Hospital, University of Utah
Journal of Nuclear Medicine,27(5),pp.701-705,1986

参考資料2 Reference 2:
A scanning line source for simultaneous emission and transmission measurements in SPECT
Tan P, Bailey DL, Meikle SR, Eberl S, Fulton RR, Hutton BF
Royal Prince Alfred Hospital, University of New South Wales
Journal of Nuclear Medicine,34(10),pp.1752-1760,1993

参考資料3 Reference 3:
Implementation of a Tc-99m and Ce-139 scanning line source for attenuation correction in SPECT using a dual opposing detector scintillation camera
du Raan H, du Toit PD, van Aswegen A, Lotter MG, Herbst CP, van der Walt TN, Otto AC
University of the Orange Free State
Medical Physics,27(7),pp.1523-1534,2000

参考資料4 Reference 4:
Multiple line source array for SPECT transmission scan: simulation, phantom and patient studies
Celler A, Sitek A, Stoub E, Hawman P, Harrop R, Lyster D
Vancouver Hospital and Health Sciences Center, University of British Columbia
Journal of Nuclear Medicine,39(12),pp.2183-2189,1998

参考資料5 Reference 5:
A comparison of Gd-153 and Co-57 as transmission sources for simultaneous TCT and Tl-201 SPECT
Frey EC, Tsui BMW
University of North Carolina
IEEE Transactions on Nuclear Science,42(4),pp.1202-1206,1995

参考資料6 Reference 6:
トランスミッションCT装置
福士政広、横井孝司、他
東京都立保健科学大学、島津製作所
公開特許番号H11099148,1997

参考資料7 Reference 7:
Singles transmission in volume-imaging PET with a Cs-137 source
Karp JS, Muehllehner G, Qu H, Yan XH
University of Pennsylvania, UGM Medical Systems
Phys Med Biol 40:929-944, 1995

キーワード:外部線源 external transmission source, 吸収補正 attenuation correction, 線減弱係数 linear attenuation coefficient, 単光子放射型断層撮像装置 single photon emission computed tomography (SPECT), 陽電子放射型断層撮像装置 positron emission computed tomography (PET), 透過型断層撮像装置 transmission computed tomography (TCT), 放射性同位元素 radioactiveisotope, 後方散乱線 backscatter
分類コード:030301,030403,030501,030704

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