放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 2001/02/01 藤居 賢

データ番号   :030203
内分泌ホルモン測定用の放射性体外診断用医薬品
目的      :内分泌ホルモン測定試薬の測定方法と臨床的有用性の紹介
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :125I
応用分野    :医学, 診断

概要      :
 1959年BersonとYalowにより開発されたラジオイムノアッセイ(RIA)は、非常に広い分野において種々の物質の測定に用いられるようになり、内分泌ホルモン領域においても数々の測定試薬が開発されてきた。内分泌腺から分泌されるホルモンは、その標的臓器の機能を調整する重要な役割を持っており、ホルモンが関係する疾患では重要な診断項目である。ここでは、現在でも重要な検査として使用される検査試薬の測定方法を紹介する。

詳細説明    :
1.ホルモンとは
 ホルモンという語は、ギリシャ語で「刺激する」または「興奮させる」という意味の語に由来し、内分泌腺から分泌されるものと定義される。血液中に分泌されたホルモンは、作用する特定の臓器(標的臓器target organ)まで血流にのって運ばれ、ごく微量でその標的臓器の活動を調整する。ホルモンの作用を一括するとつぎのようになる。
1) 発育と成長を調節する
2) 物質代謝を調節する
3) 生体の内部環境を一定に維持する
4) 性行動、自律運動などの特殊な行動を調整する
 ホルモンのバランスがくずれると、一般に様々な症状が現れる。体外診断用医薬品は、ホルモンの血液中または尿中濃度を測定し、ホルモン分泌臓器あるいは標的臓器の機能把握〜診断を行うことを目的として使用される。
 ホルモンは、その化学的特徴から4種類に分類される。以下の表1に生体内で発見される主だったホルモンとその標的臓器、主たる作用をまとめた。
1) ステロイド化合物(例:アンドロゲン、プロゲステロンなど)
2) アミン、アミノ酸またはその誘導体(甲状腺ホルモンなど)
3) ポリペプチド(副甲状腺ホルモンなど)
4) 蛋白質及び複合蛋白質(甲状腺刺激ホルモンなど)

表1 ヒトの主なホルモンの分泌臓器とその標的臓器
-----------------------------------------------------------------------------------------------
分泌線            ホルモン名                       標的臓器                  ホルモンの機能
-----------------------------------------------------------------------------------------------
視床下部          TRH                              下垂体                    TSH分泌促進
                  CRH                              下垂体                    ACTH分泌促進
                  GRH                              下垂体                    GH分泌促進
                  GIH                              下垂体                    GH分泌促進
                  GnRH                             下垂体                    FSH、LH分泌促進
                  PRH                              下垂体                    PRH分泌促進
下垂体前葉        副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)       副腎皮質
                  卵胞刺激ホルモン(FSH)            卵巣・精巣
                  成長ホルモン(GH)                 骨・筋組織など
                  黄体形成ホルモン(LH)             卵巣・精巣
                  甲状腺刺激ホルモン(TSH)          甲状腺
                  プロラクチン(PRL)                乳腺・卵巣の黄体
下垂体後葉        オキシトシン                     子宮筋・乳腺
                  バソプレッシン                   腎臓・血管
甲状腺            サイロキシン(T4)                 骨組織など
                  トリヨードサイロニン(T3)         種々の組織に広範に
                  カルシトニン                     骨・腎臓
副甲状腺          パラソルモン(PTH)                Ca代謝臓器(骨・腸管など)
副腎皮質          アルドステロン                   腎臓
                  コルチゾール                     肝臓・血液細胞など
                  アンドロゲン                     男性生殖器
副腎髄質          アドレナリン                     種々の組織に広範に
                  ノルアドレナリン                 種々の組織に広範に
膵臓              インスリン                       肝臓など
                  グルカゴン                       肝臓など
                  ソマトスタチン                   膵臓ラ島細胞               分泌抑制
精巣              テストステロン                   男性生殖器
                  インヒビン                       下垂体                     LH分泌抑制
卵巣              エストロゲン                     女性生殖器
                  プロゲステロン                   子宮(子宮粘膜・子宮筋)
胎盤              絨毛性ゴナドトロピン(hCG)        黄体
                  レラキシン                       骨盤・子宮
                  エストロゲン                     女性生殖器
                  プロゲステロン                   子宮(粘膜・筋)
消化管粘膜        ガストリン                       胃
                  セクレチン                       膵臓
------------------------------------------------------------------------------------------------

2. ホルモン検査の測定原理及び操作方法
 内分泌ホルモン検査の多くは、血液(血清・血漿)または尿をサンプルとして用いることがほとんどであり、1回の測定に必要とされる検体量は数10μL〜100μL程度で十分である。放射性体外診断医薬品のキットは、放射性物質にI-125を用いており感度のすぐれたキットである。測定原理は、RIA法とIRMA法に大きく分類される。RIA法では抗原に標識抗体を直接結合させ血液中の抗原と競合させる競合法が多く、IRMA法では2種類の抗体を用いて抗原をサンドイッチする方法が取られている。表2に検査試薬の例を記載する。

表2 各測定項目の代表的な試薬の測定原理と特徴
-----------------------------------------------------------------------------------------------------
項目   商品名                測定原理        検体          量      測定時間       測定範囲
-----------------------------------------------------------------------------------------------------
TSH    スパック-S TSHキット  IRMA            血清・血漿   100μL    2時間       0.1〜20μU/mL
FT4    モデルFT4キット       平衡透析法RIA   血清         200μL   20時間       0.5〜700ng/mL
LH     スパック-S LHキット   IRMA            血清・血漿   100μL    2時間       0.5〜200mIU/mL
FSH    スパック-S FSHキット  IRMA            血清・血漿   100μL    3時間       0.5〜200mIU/mL 
-----------------------------------------------------------------------------------------------------

 ホルモン検査のほとんどは,抗原抗体反応を測定原理としており、特異的に結合する抗体を用いて測定対象を検出するキットである。代表例としてスパック-S TSHキットの測定方法を記載する。
<スパック-S TSHキットの操作手順>
1) 抗体チューブに標準試薬または検体と標識抗体を加え反応(2時間振とう)
2) 洗浄
3) γカウンターにより放射能量を測定する
4) 得られた標準曲線から検体濃度を換算する
 最近では、放射性同位元素(I-125)を非放射性物質に置き換えたEIA(enzyme immunoassay)やCLIA(chemiluminescence immunoassay)などの全自動測定キットが数多く開発されている。これらのキットは、測定時間の短縮・検体量の少量化・測定感度にすぐれており、1-125を用いたキットに代わって使用されるケースが年々増加している。例えばTSHでは、I-125標識抗体を用いた従来のキットの実効感度は0.1μU/mL程度だったが、非放射性物資を用いたCLIA法キットの実効感度は0.01μU/mLまで向上している。
3. ホルモン検査の臨床的意義について
 ホルモンの分泌は、一般的には上位臓器からの分泌刺激ホルモンまたは下位標的臓器から分泌されるホルモンのフィードバックにより、その分泌量が左右される。ホルモン検査を行うことにより、測定対象となったホルモン分泌臓器が臨床的に機能亢進状態なのか機能低下状態なのか判断しうる。内分泌疾患を考える場合、これらのホルモン検査を総合して臓器機能の把握を行う。

コメント    :
 内分泌ホルモン検査は、臓器の機能把握を行う上で重要な診断指標として活用されている。従来、微量ホルモンの測定では、しばしば検出抗体の交差反応性や感度の問題等があり、十分な診断指標として活用できない項目もあった。しかし、現在これらの項目も非放射性物質を用いることにより、高感度化・測定範囲の広域化・短時間測定・検体量の微量化など様々な改良が行われ、臨床検査部門において有効に活用されている。

原論文1 Data source 1:
日本アイソトープ協会 医薬品部
体外診断用(インビトロ)放射性医薬品資料集

参考資料1 Reference 1:
ホルモン
山本敏行他
新しい解剖生理学p339〜366 株式会社南江堂

参考資料2 Reference 2:
核医学検査技術(インビトロ編)
日本核医学学会(出版)


キーワード:体外診断用医薬品, in vitro diagnostics, 放射線免疫測定法, radioimmunoassay, RIA, 免疫放射定量測定法, immunoradiometric assay, IRMA, 酵素免疫測定法, enzyme immunoassay, EIA, 化学発光免疫測定法, chemiluminescense immunoassay, CLIA, 内分泌腺, endocrine gland, ホルモン, hormone,
分類コード:030303, 030501, 030504

放射線利用技術データベースのメインページへ