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作成: 2000/09/11 白土博樹

データ番号   :030201
聴神経鞘腫に対する定位放射線照射
目的      :聴神経鞘腫に対する放射線治療法の開発
放射線源    :電子加速器(6MV)
利用施設名   :北海道大学附属病院
応用分野    :脳腫瘍、体幹部腫瘍

概要      :
 定位放射線照射とは体内の小病変に対して選択的に治療する放射線治療技術で、良性腫瘍の聴神経鞘腫にも効果がある。腫瘍の細胞周期を止め、増殖を止めるためと考えられている。一回照射であれば14Gy、少分割照射であれば21Gy/3回、多分割照射であれば50Gy/25回が推奨線量である。5年の腫瘍制御率は90%、顔面神経・三叉神経麻痺はまれで聴力温存率は5年聴力温存率 60%で手術より安全で優れた治療である。

詳細説明    :
 
 定位放射線照射(Stereotactic Irradiation:STI)とは体内の小病変に対して選択的に治療する放射線治療技術である。定位照射法では線量の集中が可能となり,中央部の線量は従来放射線治療より増しても,周囲の正常組織に照射される線量は大幅に減らすことが可能となり、従来は副作用への配慮から適応とされていなかった聴神経鞘腫への治療が可能となっている。頭蓋内病変への定位放射線照射は、1)患者あるいはそれに連結された座標系において照射中心を固定精度内に納めるシステムであること。2)定位的手術枠を用いた方法,または着脱式固定器具を用いた方法であること。3)照射装置の照射中心精度が±1mm以内であること、と定義される。
 
 定位放射線照射(STI)は照射方法の違いにより次の二つに分けられている。一回照射は定位手術的照射法(Stereotactic radiosurgery:SRS),分割照射は定位放射線治療(Stereotactic radiotherapy:SRT)とそれぞれ定義され両者の総称が定位放射線照射(STI)である。 定位放射線照射には60COガンマ線を用いる方法と直線加速器(リニアック)を用いる方法の二つがある。脳定位放射線照射の専用機であるガンマ線治療機は頭蓋内病変に対する一回照射(SRS)だけが可能であるが、リニアックによる定位放射線照射は一回照射だけでなく分割照射が可能である。 定位放射線照射の限界は、病気の大きさが概ね直径3cmを超えないこと、である。これ以上の病変のサイズでは、放射線ビームを集中させても、周辺組織への線量も増えてしまうため、従来よりも線量を上げることが困難になる。
 
 定位放射線照射が聴神経鞘腫にも効果がある理由は、腫瘍周期を止め、増殖を止め、腫瘍の成長を止めるためと考えられている。実際、良性腫瘍は定位放射線照射後、腫瘍が消失することもあるが、そのまま10年以上サイズに変化がないことが多い(図1)。従って、“100年間、腫瘍増殖を止めることが治療の目標"と捉えることもできる。一回照射であれば14Gy、少分割照射であれば21Gy/3回、多分割照射であれば50Gy/25回が推奨線量である。


図1 治療を加えずに経過観察した場合と、定位照射を加えた場合の腫瘍の非増大率の比較。治療を加えないと40%は5年以内に増大するが、定位照射後は5%以内である。

 腫瘍制御率はガンマナイフの報告では縮小50〜55%,不変35-43%で有効率90〜96%である。リニアック定位放射線治療では縮小55%,不変42.6%で有効率は97.6%で腫瘍制御効果は同等であった (図2)。5年の腫瘍制御率は90%を超え、それ以降の再発もまれである。顔面神経麻痺は、多分割照射ではまず起きず、1回照射では14Gyを超えると低頻度だが起きている。一過性の三叉神経麻痺は腫瘍が大きい場合などに起きることがあるが、重症化することはまれである。


図2 定位放射線治療にて縮小した聴神経鞘腫。(a)照射前 (b)照射後

 ガンマナイフの顔面・三叉神経障害は線量が高い場合はそれぞれ27-67%,36-59%と高率で完全麻痺例も報告されていたが,線量を下げてからそれぞれ16-17%,20-23%と減少している。リニアックSRTではそれぞれ2.2%,9.6%でいずれも一過性不全麻痺であり,ガンマナイフより明らかに低率である。聴力温存率は、平均的に多分割照射のほうが良いが(5年聴力温存率 60-70%)、分割回数が少なくとも、同等の成績を出している施設もある。 
 
 照射後のGardner分類による聴力保存率はガンマナイフの報告では聴力保存率は32〜60%とガンマナイフにおける聴力低下は高頻度に発生するとされ,GR分類によるそのうち聾に至る症例が18〜37%発生している。最近の施設では一回線量を下げており聴力保存率は60-70%と向上している。リニアックSRTでは70-80%で、聴力障害率はガンマナイフの報告と比べ、明らかに低い。50Gy/25回では嚢胞性腫瘍でも充実性腫瘍と腫瘍制御率・合併症率は変わらず、腫瘍縮小率は嚢胞性腫瘍のほうが良い。
 いずれにしても、手術を受けるべき患者は3cm以上のものに限られてきており(その場合も減荷手術+術後照射でよい)、経過観察か定位放射線照射の選択が議論の中心である。

コメント    :
 放射線が良性疾患の治療に使われるべきであことを示した画期的な適応例。
 一回大線量照射のSRSにくらべ、この治療後の顔面神経麻痺が分割照射でなくなったことは、生物学的な悪性腫瘍への予測:分割照射で治療比が向上するーが、良性腫瘍でも成り立つことを示した。

原論文1 Data source 1:
Comparison between observation policy and fractionated stereotactic Radiotherapy (SRT) as an initial management for vestibular schwannoma.
Shirato H,Sakamoto T ,Sawamura T.
Department of Radiation Medicine, Hokkaido University School of Medicine
Int J Radiat Oncol Biol Phys 44:545-550,1999.

原論文2 Data source 2:
Small-field fractionated radiotherapy with or without stereotactic boost for vestibular schwannoma.
Kagei K,Shirato H,Suzuki K,et al.
Department of Radiation Medicine, Hokkaido University School of Medicine
Radiother Oncol 1999;50(3):341-7.

参考資料1 Reference 1:
Long-term outcomes after radiosurgery for acoustic neurinomas.
Kondziolka D,Lunsford LD,Mclaughlin MR.
Department of Neurosurgery, University of Pittsburgh
New Engl J Med 1998;339(20):1426-33.

参考資料2 Reference 2:
聴神経鞘腫に対するリニアック定位放射線照射後の聴力予後に関する聴覚学的解析.
坂本 徹:
北海道大学医学部耳鼻科
日耳鼻 101(10):1250-1259,1998

キーワード:定位放射線照射 Stereotactic irradiation, 定位手術的放射線照射 stereotactic radiosurgery, 定位放射線治療 stereotactic radiotherapy, 聴神経鞘腫 vestibular schwannoma, 聴神経腫瘍 acoustic tumor, 直線加速器 linear accelerator, x線 x-ray, 脳 brain
分類コード:030201

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