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作成: 2000/08/12 白土博樹

データ番号   :030200
体幹部病巣に対する直線加速器を用いた定位放射線照射
目的      :新しい高精度放射線治療法の開発と臨床応用
放射線の種別  :エックス線,電子
放射線源    :電子加速器(4,6,10MeV)
線量(率)   :0.5Gy/s
利用施設名   :北海道大学医学部附属病院
照射条件    :空気中、室温
応用分野    :癌治療、良性腫瘍治療、動静脈奇形

概要      :
 小体積であれば人体に大線量を与えることが可能であることを利用した、新たな放射線治療。直線加速器(リニアック)を用いた脳定位放射線照射では、頭蓋骨の体外からの固定により放射線治療の精度・治療成績が上がった。しかし、「柔らかくしかも動きの伴う体幹部の定位放射線照射」では、毎回の治療部位の再現性を保つための工夫、治療中の呼吸性移動への配慮などが必要となる。ここでは肺癌や肝癌など脳以外への利用を紹介する。

詳細説明    :
 
 放射線診断学の進歩に伴い、体内の細かな病変の位置が正確に把握できるようになった。
 放射線治療は、素粒子(光子、粒子)線を用いて体内深部の細胞に電離現象を起こし、その細胞を死滅あるいは静止状態にさせる治療法である。CTなどで病巣を1mmの精度で把握し、X線を3次元的多方向から病巣に集中させて照射することで、スポットライトのように病巣のみに有意な電離現象を起こす方法を定位放射線照射という(図1)。周辺への正常組織への無駄な照射体積が小さければ、病巣に大線量を与えることが可能であるため、従来よりも治癒率が高い。柔らかくしかも動きの伴う体幹部の放射線照射では、毎回の治療部位の再現性を保つため、治療中の呼吸性移動への同期照射などが必要となる。


図1 3次元的多方向から病巣に集中して照射するされた肺癌の線量分布。腫瘍周辺だけに放射線が集まっている。

 近年、通常のX線リニアックの性能を全て備えながら、動きを持つ体内病変の照射を(1mmで行うことを目的とした動体追跡照射装置が開発された。リニアックは5mmのmulti-leaf collimatorを有し、4MVと10MVのX線を作り出す。腫瘍内部あるいはその周辺に真球(径1-2mm)の金マーカーを内視鏡下、あるいはCT/US/MRIガイド下に刺入する。この後、CT3次元治療計画を行い、腫瘍とマーカーの3次元的位置関係のデータを動体追跡装置に送る。動体追跡装置は、4対のX線透視装置をリニアック周辺に装備し、それらの透視用X線ビームがすべて治療用X線のアイソセンターを通るようにする(図2)。
 
 患者の治療計画は、金マーカーを挿入後、CT検査を行う。患者を皮膚マークでまずリニアック台にセットアップする。4対のうちの2対のX線透視装置を用いて、X線画像上に、あらかじめ3次元治療計画装置から転送されていた腫瘍とマーカーの3次元的位置を透視画像上に投影し、実際のマーカー位置をこの計画マーカー位置に重ねるように患者治療台を動かすことで、患者セットアップを行う。マーカーの形状はテンプレート画像として装置に記憶させておき、放射線治療中は、これと透視画像との位置比較をパターン認識技術にて0.033秒毎に行う。計画された3次元位置に金マーカーが来た瞬間のみ、X線照射がなされる。実際には、計画位置と実際の位置がどの程度の誤差範囲であれば照射するかを決める「許容誤差」のパラメーター設定可能である。位置認識から照射までの遅れは0.09秒で、この遅れは速度と加速度の補正を行って、0.09秒後の位置を予測して照射できる。


図2 動体追跡放射線治療装置

 他にも体幹部定位放射線治療用のさまざなな装置が開発されている。CTを治療室内に設置して治療前の精度を高める工夫、呼吸深度を皮膚表面の動きから類推して同期照射する方法などである。
 サイズの小さな原発性肺癌、転移性肺癌においては、60Gy/8-10回、35Gy/4回、25Gy/1回などの大線量少分割治療を行う。周辺臓器・周辺組織内に重要な臓器がない末梢性癌の場合の安全性は確認されている。中枢側で気管や気管支が照射野に入る場合は北大では線量を約20%下げている。いままでのところ、実測2年局所制御率が90%である(図3)。
 
 この高い腫瘍制御率は、高線量を短期間に与えることにより、細胞の再増殖を防いでいると解釈される。放射線肺炎の出現は、照射標的体積内だけの画像的変化のみであることがほとんどで、臨床的な症状を伴う副作用が出ることは約3%であった。原発性肝癌、転移性肝癌も同様にサイズが3-4cm以下であれば、同様に大線量を与えられる。傍脊髄腫瘍では、脊髄への線量は40Gy/20回程度にしながら、腫瘍そのものにはそれ以上の線量を与えることを可能にしている。 脊髄神経から発生した神経鞘腫はいままで開胸を伴う大手術が必要であったが、頭蓋内の聴神経鞘腫と同じ組織形であり、体幹部定位照射で十分制御できる可能性がある。


図3 図1に示した症例。体幹部定位照射が行われた肺癌 (a) 治療前 (b) 治療後



コメント    :
 パターン認識技術と同期放射線治療との組み合わせは新たな領域を生み出した。

原論文1 Data source 1:
Real-time tumour-tracking radiotherapy..
Shirato H, Shimizu S, Shimizu T, Nishioka T, Miyasaka K.
Department of Radiology, Hokkaido University School of Medicine
Lancet 1999 Apr 17;353(9161):1331-2

原論文2 Data source 2:
Impact of respiratory movement on the computed tomographic images of small lung tumors in three-dimensional (3D) radiotherapy.
Shimizu S, Shirato H, Kagei K, et al.
Department of Radiology, Hokkaido University School of Medicine
Int J Radiat Oncol Biol Phys 2000;46(5):1127-33.

参考資料1 Reference 1:
Intrafractional tumor position stability during computed tomography (CT)-guided frameless stereotactic radiation therapy for lung or liver cancers with a fusion of CT and linear accelerator (FOCAL) unit.
Uematsu M, Shioda A, Suda A, Tahara K, Kojima T, Hama Y, Kono M, Wong JR, Fukui T, Kusano S
Division of Radiation Oncology, National Defense Medical College, Tokorozawa, Saitama, Japan.
Int J Radiat Oncol Biol Phys 2000 Sep 1;48(2):443-8.

参考資料2 Reference 2:
Stereotactic high dose fraction radiation therapy of extracranial tumors using an accelerator. Clinical experience of the first thirty-one patients.
Blomgren H, Lax I, Naslund I,et al.
Department of Oncology, Karolinska Hospital, Stockholm, Sweden
Acta Oncol 1995;34(6):861-70.

キーワード:放射線治療 radiotherapy, 定位放射線照射 stereotactic irradiation, 定位手術的放射線照射 stereotactic radiosurgery, 直線加速器 linear accelerator, 癌 cancer, 臓器移動 organ motion, 患者固定誤差 set-up error, 同期照射 gated radiotherapy, 動体追跡照射 real-time tumor-tracking radiotherapy, 金球 gold ball.
分類コード:030201, 030402, 030703,030103

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