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作成: 2001/2/1 幡野和男

データ番号   :030198
前立腺癌に対するIMRT
目的      :前立腺癌の放射線治療におけるトピックスとしてIMRTの現状を述べる
放射線源    :高エネルギーX線
照射条件    :空気中

概要      :
 IMRTは放射線治療分野における画期的な治療法である。これまでは腫瘍に対しては均一な線量分布しか与えられなかったが、コンピュータ技術の進歩により、マルチリーフコリメータを細かく動かすことにより腫瘍の形状、厚みに応じた不均一な線量分布を与えることが可能となった。これにより、危険臓器(周囲正常組織)への線量増加を伴わずに、腫瘍線量を増加させ、治療成績の向上が期待される。まだ、施設は限られている。

詳細説明    :
 Intensity Modulated Radiotherapy(IMRT)とは腫瘍形状に沿った高線量分布を作るだけでなく、周囲の危険臓器(周囲正常組織)への低線量分布を同時に作製できるものである。日本語では強度変調放射線治療と言われる。これまでも、原体照射といわれる腫瘍への線量集中性を高める照射法はあったが、同一照射面において線量強度を変化させることはできなかった。近年のめざましいコンピュータ技術の進歩により可能となったものである。その原理については別項で詳述されるので省略するが、1)step and shoot法、2)sliding window法 3) tomotherapyなどいくつかの手法がある。そのほとんどはマルチリーフコリメータを高速で移動させることにより強度変調を行うものである。臨床応用は主として欧米において徐々に拡がりつつある。現在どの施設においても可能な治療法ではないが、欧米において前立腺癌に対する応用が始まっている。他に頭頸部癌、乳癌、子宮癌、肺癌などへの適応も検討されている。 我が国においては前立腺癌への放射線治療は一般的ではないが、欧米では盛んに行われており、前立腺内に限局した癌に対しては手術でも放射線でもほぼ同様の効果が得られる。 前立腺癌は、これまで、線量依存性の腫瘍であると言われてきている。すなわち、照射線量を上げれば、局所制御率も向上する腫瘍である。これまでのいわゆる3-D治療計画による原体照射ではStage Cの患者群における局所再発率は照射線量60Gy未満、60-70Gy、70Gy以上において、それぞれ38%、20%、12%である。また、腫瘍マーカーであるPSAを指標とした場合、75.6Gyまたは81Gy照射群においては初回CR率が90%であるのに対し、64.8Gy、70.2Gy照射群においてはそれぞれ56%、76%といわれている。治療後5年でのPSA無再発生存率は75.6Gy以上照射群では78%であるのに対し、70.2Gy未満照射群では54%と局所制御率に線量依存性が認められる。しかし、前立腺は膀胱、直腸などいわゆる危険臓器に囲まれており、これらの臓器への過照射は高度の障害をひきおこし、それがDose limiting factorとなっていた。2-D治療計画から3-D治療計画への変化とともに、これらの晩期有害事象は減少してきている。しかし、さらなる線量増加を行うには、これまでの単なる3-D治療計画ではどうしても限界があり、IMRTによる治療計画が必要となってきた。IMRTにより急性期、晩期有害事象ともに低減できれば腫瘍への高線量投与による局所制御率向上の可能性がある。通常の3-D治療計画による原体照射では治療後2年における直腸、膀胱からの出血などのGrade2-3の晩期有害事象は約10%に見られるが、IMRTによる治療では約2%にまで減少するいわれている。(図1)


図1 IMRT および通常の3次元原体照射による前立腺癌治療におけるGrade2-3の直腸出血の頻度。通常の3次元原体照射では治療2年後、約10%にみられるが、IMRTでは約2%にすぎない。(原論文1より引用。 Reproduced from Radiotherapy and Oncology, 2000; 55(3):241-249, Figure 4(p.247), Zelefsky M.J, Fuks Z, Happersett L, Lee H.J, Ling C.C, Burman CM, Hunt M, Wolfe T, Venkatraman E.S, Jackson A, Skwarchuk M, Leibel S.A, Clinical experience with intensity modulated radiation therapy (IMRT) in prostate cancer, Copyright(2000), with permission from Elsevier Science. )


 治療の実際は、まず、CTシミュレータにて治療計画用CTを撮像し、この画像を基に、腫瘍、危険臓器などの輪郭を入力し、そのデータを治療計画装置へ転送する。ここで腫瘍への最大、最低照射線量を入力する。また、同時に危険臓器への照射線量をどこまで許容するのかを入力し、計算を行う。いわゆるinverse planingを行う。この計算を満足のいく結果が得られるまで繰り返すのである。最終結果が得られた後、通常の放射線治療では実際の照射を行うことになるが、IMRTにおいては治療前に治療計画装置での計算結果のとうりに照射されているかどうかを確認する必要がある。現在、標準的な指標はないが、フィルム法による確認、線量計による実測などが行われている。図2および図3にIMRTの線量分布およびDose Volume Histogram(DVH)を示す。


図2 IMRTによる前立腺癌照射の線量分布. a. 精嚢腺の高さでの線量分布。b.前立腺中心部での線量分布。c.Dose Volume Histogram(DVH).




図3 IMRTによる前立腺癌照射の線量分布. 3-D線量分布


 実際の照射法は、5-7門照射が一般的である。治療体位については背臥位または腹臥位が用いられるが、施設により体位は異なる。それぞれの方向から強度の異なる照射を行い、前立腺への線量集中をはかると共に、危険臓器である膀胱、直腸への線量軽減をはかるのである。千葉県がんセンターにおいては、現在、背臥位で治療している。ガントリー角度は0゜,75゜,135゜,225゜,285゜の5方向である。総照射線量は諸施設において差があるが、80Gy以上のdose escalation studyも行われている。現在、76Gyとホルモン療法で検討している。

原論文1 Data source 1:
Clinical experience with intensity modulated radiation therapy (IMRT) in prostate cancer.
Zelefsky M.J, Fuks Z, Happersett L, Lee H.J, Ling C.C, Burman C.M, Hunt M, Wolfe T, Venkatraman E.S, Jackson A, Skwarchuk M, Leibel S.A.
Department of Radiation Oncology, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, 1275 York Ave., New York 10021, NY, USA
Radiother. Oncol. 2000 Jun;55(3):241-9.

参考資料1 Reference 1:
Late rectal toxicity after conformal radiotherapy of prostate cancer (I): multivariate analysis and dose-response.
Skwarchuk MW, Jackson A, Zelefsky MJ, Venkatraman ES, Cowen DM, Levegrun S, Burman CM, Fuks Z, Leibel SA, Ling CC.
Department of Radiaiton Oncology, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, 1275 York Ave., New York 10021, NY, USA
Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2000 Apr 1;47(1):103-13.

参考資料2 Reference 2:
Three-dimensional conformal therapy or standard irradiation in localized carcinoma of prostate: preliminary results of a nonrandomized comparison.
Perez CA, Michalski JM, Purdy JA, Wasserman TH, Williams K, Lockett MA.
Radiation Oncology Center, Washington University Medical Center, St. Louis, MO, USA
Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys. 2000 Jun 1;47(3):629-37.

キーワード:放射線治療 radiation therapy, 前立腺癌 prostatic cancer, 強度変調放射線治療 intensity modulated radiotherapy, マルチリーフコリメータ  multi-reaf collimater, 3次元原体照射 3-D conformal radiotherapy, 前立腺特異抗原 PSA, 危険臓器 critical organ, ステップ&シュート法 step and shoot method, スライディングウィンドウ法 sliding window method
分類コード:030201

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