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作成: 2000/12/10 秋山芳久

データ番号   :030196
スライディングウィンドウ方式による強度変調放射線治療
目的      :スライディングウィンドー方式による強度変調放射線治療について、多葉コリメータの動きを説明する。
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :高エネルギー直線加速器
応用分野    :医学、治療

概要      :
 癌の放射線治療では治癒したい部位に選択的に放射線を集中し、その周囲の正常組織はできるだけ少なく照射することを目標とする。この方法の一つとして、近年、強度変調放射線治療(IMRT)が注目されている。この照射を行うためには多葉リーフコリメータ(MLC)が使われるが、MLCの動きについて説明する。

詳細説明    :
 
1.放射線治療計画(inverse planning)
 放射線治療の治療計画において2つの手法がある。


図1  a)Forward planning。各パラメータを与え、線量分布等の計算を行う。b)Inverse planning。治癒したい部位、線量、照射したくない部位等を入力して各パラメータを計算により求める。(原論文1より引用)


 1つはforward planning(図1左)という考え方である。すなわち、放射線治療に際し選択できるいくつかのパラメータを順次変えて線量分布をコンピュータシミュレーションし、その中から治療に最適と思われるパラメータを選択して実際に照射するものである。
 もう一つはinverse planning(図1右)という考え方であり、治癒したい部位およびその線量ならびに放射線を照射したくない正常組織の部位等をコンピュータに入力し、この照射に必要なパラメータを計算により求めるものである。強度変調放射線治療(IMRT, Intensity Modulated Radiation Therapy)は後者の方法に属する。
 
 従来、一般的に行われている(forward planningによる)外部照射では照射野内の線量強度は一定であるか、または用意されている数種類のウェッジの中から適当なウェッジを選んで線量強度に勾配をつける程度である。これに対して、(inverse planningによる)強度変調放射線治療では各角度ごとの照射野内の放射線の線量強度をコンピュータのinverse algorithmで計算されたとおりに変調することが必要である。
 このことを実現するための方法としていくつか考えられるが、スライディングウィンドウとステップアンドシュートといわれる方式が代表的であり、いずれも多葉リーフコリメータ(MLC, Multi Leaf-Collimator)が使われる。ここではスライディングウィンドウ方式について説明する。
 
 
2.スライディングウィンドウ方式による強度変調放射線治療
 この方法は左右のリーフのペアを同じ方向に動かすが、その際に両方のリーフのスピードを別々に変化させることにより、放射線強度がどのように変調していてもその強度になる照射を可能としたものである。


図2  Sliding window方法。リーフ b の左端が通過してから、リーフ a の右端が通過するまで照射されている。(原論文1より引用)


 図2で左右のリーフはinverse algorithmで計算されたビームプロファイルを得るようにスピードを調節しながら右の方向に動いているわけであるが、点Cに着目すると右のリーフbの左端の通過から左のリーフaの右端の通過まで照射されていることになる。すなわち、点Cの放射線の線量強度が小さいときは右のリーフが通過した後、短時間の後に左のリーフが通過する。反対に線量強度が大きいときは右のリーフが通過した後、照射したい線量に比例するだけの時間をおいて左のリーフが通過する。


図3  Sliding window方法。前の通過点の線量強度よりも次の通過点の線量強度が高いときは、リーフ b は機械的な最高スピード、リーフ a はF(Xi+1)-F(Xi)だけ余分に線量を与えるようなスピードを遅く調節して動く。逆の場合はリーフ a は機械的な最高スピード、リーフ b はスピードを遅く調節。(原論文1より引用)


 いま例として、図3のXiとXi+1のように次の通過点の線量強度が前の通過点の線量強度よりも大きいときはリーフbは機械的に可能な最高スピードでXiからXi+1に移動する。リーフaはそれよりも後にXiとXi+1を通過するわけであるが、Xi+1とXiの間のスピードはXi+1とXiでの線量強度の差が得られるようにスピードを遅くして移動する。このことによりF(Xi)よりもF(Xi+1)-F(Xi)だけ多い線量になる。Xiの線量強度はF(Xi)であるので、Xi+1の線量強度はF(Xi+1)になる。
 
 逆にXjとXj+1のように次の通過点の線量強度が小さいときは、リーフbはXjとXj+1の線量強度の差が得られるようにその間はスピードを遅くする。リーフaはその後XjとXj+1を通過するわけであるが、機械的に可能な最高スピードで移動する。このことによりF(Xj)よりもF(Xj)-F(Xj+1)だけ少ない線量になり、Xjの線量強度がF(Xj)であるのでXj+1の線量強度はF(Xj+1)になる。
 以上はリーフの一つのペアの動きを説明したものであるが、数十のペアのリーフ(多葉リーフコリメータ)により放射線の線量を二次元的に強度変調できる。

コメント    :
 強度変調放射線治療を実現させるための代表的な方法としてスライディングウィンドウとステップアンドシュートの方式がある。ステップアンドシュートと比較してスライディングウィンドウは短時間で照射が可能であるし、照射野内の線量強度の細かな差も反映して照射できる。但し、実際に治療計画どうりに多葉リーフコリメータが動いて、治療計画どうりに患者に放射線が照射されているかどうかを確認する作業が大変である。

原論文1 Data source 1:
Intensity modulated radiation therapy(IMRT)ーマルチリーフコリメー
タの動きを中心にー
秋山芳久、成田雄一郎、幡野和男
千葉県がんセンター
日本放射線技術学会雑誌、56(1)、pp17-21、2000

原論文2 Data source 2:
Optimized Radiation Therapy Based on Radiobiological Objectives.
Brahme A
Karolinska Institute and Stockholm University, Stockholm, Sweden
Seminars in Radiation Oncology, 9(1), pp35-47, 1999

参考資料1 Reference 1:
放射線治療へのコンピュータの利用
入船寅二
癌研物理部(現:東京都立保健科学大学)
放射線医学大系34,pp277-284、中山書店、1984

参考資料2 Reference 2:
最適化 Optimization
稲邑清也
大阪大学医療技術短期大学部(現:大阪大学医学部保健学科)
放射線治療計画システム、pp171-186、篠原出版、1992

キーワード:強度変調放射線治療 Intensity Modulated Radiation Therapy、放射線治療 radiation therapy、スライディングウィンドー sliding window、治療計画 treatment planning、多葉リーフコリメータ multi leaf-collimator、くさびフィルター wedge filter、至適線量 optimum dose、最適化 optimization
分類コード:030201,030402,030703

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