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作成: 1999/10/27 山本 和高

データ番号   :030191
仮想内視鏡(virtual endoscopy)
目的      :CT画像より、気管支、消化管、血管内腔等を内視鏡で観察するのと同様な三次元的画像を再構成して表示する。
放射線の種別  :エックス線

概要      :
 ヘリカルCTに続いてマルチスライスCTが登場し、より薄いスライス厚で広い範囲の撮影が短時間で可能になった。このCT画像を再構成して、気管支や消化管などの中空の器官の内壁を表示すると、内視鏡と同様の画像が得られ、仮想内視鏡(virtual endoscopy, VE)と呼ばれる。VEは、視点や方向を任意に設定できるので、内視鏡では観察できない部分も表示することができる。内視鏡に置き換わるものではないが、シミュレーションや経過観察等に有用である。

詳細説明    :
 マルチスライスCTは体軸方向に複数の検出素子を配置し、現在は1回のスキャンで同時に4枚のCT像を得ることができる装置が多く、1回のスキャン時間も短縮されたので、従来のヘリカルCTに比較して6〜8倍もの高速撮影が可能になった。その結果、目的とする臓器の全体を、スライス厚の薄い多数のCT像で短時間に撮影することができるようになった。このようなCT像を用いた三次元画像再構成法の1種として仮想内視鏡(virtual endoscopy, VE)像が作成される。スライス厚が薄いほど分解能の高いVE像を再構成することができるが、現状では2.5mm幅での撮影が一般に用いられている。
VEをCT像より再構成するには、目的とする管腔臓器の内面を求めておかなくてはならないので、壁と内腔のCT値にあまり差がないと良好なVE像を再構成することが困難となる。
 気管支では特別な処置は不要であるが、胃や結腸では、内視鏡検査と同様の前処置を行い、食物残渣を除去し、消化管の壁面と内腔とのコントラストをつけるために、胃ではあらかじめ発泡剤を服用させ、結腸では空気を注入したりして、内腔を適当にふくらませておく。血管では造影剤を用いて、内腔と血管壁とのコントラストをつけるが、造影剤の注入と撮影とのタイミングに気をつける。
 図1は健常者の気管分岐部のVE像で、直線は右気管支入口部の長さを計測していることを示している。右上のsubwindowは気管支の外観の三次元像に視点の位置などが表示されている。


図1 健常者の気管支分岐部の仮想内視鏡像。Subwindowには気管支の外観、Slice windowには視点の位置でのCT像を示す。(原論文1より引用)

 図2は、胃壁の粘膜下腫瘍のCT像と擬似カラー処理されたVE像および同じ患者の胃内視鏡像である。CT像では胃の後壁に腫瘤が認められる。VE像では腫瘤の表面は平滑で、foldの断裂等の所見はなく、胃内視鏡の像と良く一致している。


図2 胃粘膜下腫瘍。CT横断像(左上)、矢状断像(右上)、内視鏡像(左下)、仮想内視鏡像(右下)。仮想内視鏡像は、実際の内視鏡の所見と良く一致している。(原論文2より引用)

 VEは、内視鏡を挿入しないで管腔内の観察ができるので、患者への侵襲が少なく、操作に熟練を要しない。また、視点や方向を任意に設定できるので、内視鏡では観察不可能な部分、例えば、内視鏡が挿入できない細い末梢部や、内視鏡が通過できない閉塞部位よりも遠位の状態、血液のため直接見ることは難しい血管の内壁も画像化できる。さらに、内視鏡とは異なり管腔外の情報も得られるので、周囲臓器や近傍の血管との関係の評価にも有用である。管腔の直径や長さ、腫瘍の大きさ等の計測も、簡単に正確に行うことができる。狭窄部へのステント挿入といった外科的処置のシミュレーションにも応用できる。
 しかし、本来の内視鏡像と比較すると空間分解能は劣り、内面の色彩、質感といった情報はなく、薬剤の散布や組織生検といった処置はできない。現状ではVEの再構成に数時間を要し、日常検査として利用するのは困難である。
 内視鏡検査に置き換わるものではないが、繰り返して実施できるので悪性疾患に対する治療効果、ステント留置後の診断や、良性病変の経過観察等には適しており、内視鏡検査の必要性をある程度減らすことはできる。気管支、消化管、血管以外に胆嚢や胆管、関節内腔等も同様に表示することが可能である。
 コーンビームCTなど、マルチスライスCTよりもさらに短時間で薄いスライス厚の画像を広範囲に撮像できる装置の実用化が進んでいる。再構成に要する時間も短縮されている。VEはCT画像の解りやすい表示法として、今後、さらに普及するものと考えられる。

コメント    :
 CT検査における画像枚数の著しい増加は、すべての横断断層像をフィルムに記録し、読影することを困難にしてきている。大量の画像情報に対して様々な処理を加え、三次元画像等のより理解しやすい表示に変更ために、今後も様々な方法の開発が進められていくであろう。ただ、画像情報の一部を抽出して解りやすく表示することは、同時に、表示されない情報を切り捨てることにつながる可能性があることにも留意するべきである。

原論文1 Data source 1:
仮想化内視鏡システムの開発
鳥脇 純一郎
名古屋大学大学院工学研究科情報工学専攻
INNERVISION 14巻10号、1999

原論文2 Data source 2:
CT LightSpeed QX/i
GE横河メディカルシステム
映像情報 31巻20号 1999年10月

参考資料1 Reference 1:
複数検出器列CTを用いたダイナミックスタディ
小林 成司、白神 伸之、平松 京一
慶応義塾大学医学部放射線診断科
映像情報 31巻20号 1999年10月

キーワード:仮想内視鏡(virtual endoscopy, VE)、内視鏡(endoscopy)、マルチスライスCT (multislice CT)、複数検出器列CT(multi detector-row CT, MDCT)、気管支(bronchus)、胃(stomach)、結腸(colon)、血管(vessel)
分類コード:030102

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