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作成: 2000/01/27 竹田 寛

データ番号   :030177
MRIによる冠血流と血流予備能の評価
目的      :虚血性心疾患や心筋症の診断におけるMRIを用いた冠血流と血流予備能計測の有用性を提示
放射線の種別  :中性子
応用分野    :医学、診断、循環器診断

概要      :
 冠血流予備能は冠動脈狭窄の機能的重症度を示す指標であるが、従来はドップラワイヤの冠動脈内挿入などの侵襲的手法を要した。MRIは冠動脈や冠動脈バイパスグラフトの血流と血流予備能を非侵襲的に計測できる特長を有する。MRI血流計測は冠動脈血管形成術後の再狭窄の診断、バイパスグラフト術後の開存性と狭窄の有無の診断、心筋症などにおける冠微小循環障害の診断などに有用性が示されている。

詳細説明    :
 冠動脈病変の診断にはX線アンギオが使用されているが、冠動脈病変の形態的狭窄度から機能的重症度を正確に予測することは困難である。冠動脈狭窄の機能的重症度は冠血流予備能(=負荷後最大冠血流量/安静時冠血流)によって評価できる。正常冠循環ではジピリダモールなどを投与すると心筋内細動脈レベルの抵抗血管が拡張し、冠血流量は3-4倍に増加する。一方、冠動脈に有意狭窄がある場合、その下流の心筋内細動脈は心筋血流を維持する自己調節機能の働きですでに拡張しているため、冠血流予備能は低下する。冠血流予備能はこれまでドップラ法やPETを用いて評価されており、冠動脈狭窄の重症度の判定に有用であることが示されている。K-空間分割法による高速撮像法を利用したシネ-フェーズコントラストMRI(シネPC MRIと略す)を利用すると、呼吸停止下に冠動脈血流と血流予備能を非侵襲的に計測できる(図1、2)。


図1  ジピリダモール負荷前後における呼吸停止フェーズコントラストシネMRI。(a)負荷前マグニチュード画像。(b)負荷前位相差画像。(c)負荷後マグニチュード画像。(d)負荷後位相差画像。矢印:左冠動脈前下行枝。 (原論文1より引用。 Reproduced from Journal of Magnetic Resonance Imaging、10, pp.728-733,1999, Figure 1 (p.729), Hajime Sakuma, Nanaka Kawada, Kan Takeda, Charles B Higgins, MR Measurement of Coronary Blood Flow, Copyright(1999), by permission of John Wiley & Sons, Inc., All Rights Reserved.)



図2  呼吸停止フェーズコントラストシネMRIから計測したジピリダモール負荷前後における左冠動脈前下行枝の血流カーブ。 (原論文1より引用。 Reproduced from Journal of Magnetic Resonance Imaging、10, pp.728-733,1999, Figure 2 (p.729), by permission of John Wiley & Sons, Inc.)


1.正常ボランティアおよび左冠動脈前下行枝に有意狭窄を有する患者のMRIによる冠動脈血流速度と予備能を比較したところ。安静時の拡張期血流速度は正常群13.5cm/s±3.3、患者群13.1cm/s±6.1であり、有意差は認められなかった。一方、ジピリダモール負荷後の拡張期血流速度は患者群では20.5cm/s±8.9であり、正常群(41.9cm/s±13.2)よりも有意に低下し(p<0.01)、血流予備能にも有意の低下が認められた(3.14±0.59 vs.1.62±0.50, p<0.01)。
2.冠動脈インタベンション後の再狭窄はPTCA・ステント患者(PTCA:経皮的冠動脈形成術、Percutaneous TransCatheter Angioplasty)における大きな臨床的問題である。PTCA・ステントを実施した冠動脈の末梢側における血流予備能をMRIデータから経時的に評価したところ、非再狭窄症例における血流予備能は術後1ヶ月後1.97±0.37、術後6ヵ月後2.29±0.31であった。一方、6ヶ月後X線アンギオにて再狭窄を示す症例の血流予備能は1ヶ月が2.27±0.49、6ヶ月後1.52±0.15と経時的低下が認められた。この結果は、MRIによる冠血流予備能計測のPTCA・ステント後の再狭窄の診断における有用性を示している。
3.冠動脈バイパス術後患者においては、バイパスの開存と狭窄の有無の評価が必要となる。MR血流計測による内胸動脈バイパスグラフト狭窄の検出能をX線アンギオ所見と対比し検討したところ、非狭窄グラフトのMR血流パターンは拡張期主体を示し、拡張期血流速度/収縮期血流速度の比は1.89±0.91、グラフト血流量は76.4±38.4ml/minであった。一方、グラフト有意狭窄群では拡張期血流速度/収縮期血流速度比(0.43±0.32)、グラフト血流量(14.3±1.34ml/min)ともに有意に低下しており、安静時血流パターンと血流量のMR計測が冠動脈バイパスグラフト狭窄の診断に有用であることが示唆された。
4. 冠静脈洞は心筋静脈血の約96%までが通過すると報告されており、MRIを用いて心筋重量と冠静脈洞血流量を計測することによって心筋1gあたりの平均冠血流量を定量化できる。肥大型心筋症29例を対象とした検討では、安静時の心筋1gあたりの冠血流量は正常群 0.74±0.23 ml/min/g、肥大型心筋症群 0.62±0.27 ml/min/gであり、両群間に有意差は認められなかった。一方、ジピリダモール投与後の肥大型心筋症群における冠血流量は1.03±0.40 ml/min/gであって、正常群の値 2.14±0.51 ml/min/gよりも有意に低く、左室全体の冠血流予備能も有意に低下していた(1.72±0.49 vs. 3.01±0.75, p<0.01)。


図3  冠静脈洞のMR血流計測。(A)マグニチュード画像。(B)位相差画像。(C)スカウト画像における冠静脈洞に直行するスライス面の設定。(D)冠静脈洞の血流カーブ。(原論文1より引用。 Reproduced from Journal of Magnetic Resonance Imaging、10, pp.728-733,1999, Figure 7 (p.732), by permission of John Wiley & Sons, Inc.)



コメント    :
 心臓の機能的検査に対応した高速MRIの進歩により、MRIの心臓領域における臨床的有用性は心筋灌流や冠動脈血流などの機能評価の分野を含む領域に拡大している。冠血流計測はPTCA・ステントやバイパスグラフトなどの再狭窄を非侵襲的に提示できるため、冠動脈疾患の治療効果の判定に高いポテンシャルを有していると考えられる。

原論文1 Data source 1:
MR Measurement of Coronary Blood Flow
Hajime Sakuma, Nanaka Kawada, Kan Takeda, Charles B Higgins
三重大学医学部放射線科
Journal of Magnetic Resonance Imaging、10, pp.728-733,1999

参考資料1 Reference 1:
Hypertrophic cardiomyopathy: MR measurement of coronary blood flow and vasodilator flow reserve in patients and healthy subjects
Nanaka Kawada, Hajime Sakuma, Tetsu Yamakado, Kan Takeda, Takeshi Nakano, Charles B Higgins
三重大学医学部放射線科
Radiology 211, pp.129-135,1999

キーワード:磁気共鳴画像, Magnetic Resonance Imaging, 高速イメージング, Fast Imaging, 血流計測, Flow Measurement, 位相コントラスト, Phase Contrast, 冠動脈, Coronary Artery, 冠静脈洞, Coronary Sinus, 血流予備能, Flow Reserve, 薬物負荷, Pharmacological Stress
分類コード:030106,030401

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