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作成: 2000/02/29 山本 和高

データ番号   :030175
MR血管造影法(MRA)とCT血管造影法(CTA)
目的      :MRIまたはCT画像からの三次元血管イメージの作成

概要      :
 MR血管造影法(MR angiography: MRA)、CT血管造影法(CT angiography: CTA)は各々MRIやCTを利用した非侵襲的に血管イメージを得る画像検査法である。MRAは脳ドックで脳動脈瘤の検出に広く利用されている。撮像法や機器の開発、改良により、脳ばかりではなく、躯幹部や四肢の血管病変に対しても、従来の血管造影検査に匹敵する所見を得ることができるようになってきている。

詳細説明    :
 MR血管造影法(MR angiography: MRA)は、侵襲が無く、脳動脈瘤の検出等を目的に脳ドックでも広く用いられている。MRAの撮像法には幾つかの方法が用いられる。
 TOF(time of flight)法は、撮像スライス面に流入してくる血液を高信号として描出し、頭蓋内動脈の撮像によく用いられている。撮像スライス面に垂直な血流ほど信号強度が強く、スライス面に平行な血流の描出は低下するので、例えば、多軸方向のflow compensationで乱流による信号欠損を少なくする。撮像範囲をオーバーラップさせたり、MTC(Magnetization Transfer Contrast)、Ramped RFなどの併用、従来の2〜4倍のスライス枚数を同一時間に撮像可能なZIP(zero-filling interporation)の追加等により、さらなる撮像時間の短縮と高分解能化が図られている。
 移動するプロトンの位相のずれを信号とするPC(phase-contrast)法は、velocity encodingといわれる撮像条件を変更することにより、最も感度の高い流速の範囲を設定することができる。逆にvelocity encodingの設定を誤まると目的とする血管を描出することができず、例えば、大きな動脈瘤の内部は血流速度が低下し良好なイメージが得られないといった問題がある。
 造影MRAは、Gd-DTPAなどのMR造影剤を含みT1緩和時間が短縮し高信号となった血液を描出する方法で、血流の方向や流速に依存しない。血管内の血液と周囲組織とのコントラストが大きい状態で撮影するために、造影剤の注入速度、撮像タイミングの最適化が重要となる。血管の描出をより明瞭にするために脂肪抑制法、subtraction法などの併用も行われる。撮像とテーブル移動を連動させ、1回の造影剤投与で腹部から下肢までといった広範囲の撮像を実施する試みも行われている。駆幹部や四肢の血管の閉塞性動脈硬化症や動脈瘤の評価等に利用されている。造影MRAは、非造影MRAよりも良好な画像を得ることができるが、MR造影剤にはヨード造影剤より少ないが副作用がみられ、そのコストの問題、撮像タイミングの制約などがある。

 CT血管造影法(CT angiography: CTA)は、ヨード造影剤を静注し、血管内を造影剤が通過してCT値が上昇しているタイミングで撮像された多数のCT画像から、血管を抽出し、三次元画像に再構成するものである。複数の検出器列を並べ、一度に複数のCT画像を撮像できるマルチスライスCTが利用されるようになり、薄いスライス厚で、短時間に、広い範囲のCT像を得ることが可能になったため、CTAの画質はめざましく向上した。CTAの撮影時に注意すべき点は、造影剤の注入プログラムと撮影開始タイミングである。
 図1は、多発性脳動脈瘤のMRAとCTAで、両側中大脳動脈の動脈瘤が明瞭に描出されている。


図1 脳動脈瘤 (a) MRA。前頭部の血流のみを選択した前後像。両側中大脳動脈に動脈瘤(矢印)が認められる。(b) CTA。MRAと同じ部位のCTA。血管をピンク、頭蓋骨を白の擬似カラー表示している。MRAと同じ部位に動脈瘤(矢印)が描出されいる。(原論文1より引用)


 MRAの診断率は、5mm以上の動脈瘤の検出率は90%程度と良好であるが、5mm以下では56%と低下し、それに対してCTAの脳動脈瘤の診断率は約95%と高率であったと報告されている。また、CTAは、MRAでは困難な血管壁の石灰化病変も明瞭に描出される。動脈瘤や狭窄、動静脈奇形といった血管病変ばかりではなく、血流の豊富な腫瘤への流入血管の診断にも応用されている。
 図2は肝限局性結節性過形成(FNH)の症例で、左胃動脈から分岐する左肝動脈が、血管造影像と同様に描出されている。FNHの血流は緑色で表示されているが、三次元的に多方向から観察することができ、流入する動脈等の位置関係が容易に理解できる。


図2 肝限局性結節性過形成(FNH)。a)上腸間膜動脈造影動脈相。左胃動脈から分岐する左肝動脈(矢印)が認められる。b)ヨード造影剤静注後早期動脈相のCT像より再構成したCTA正面像と右側面像。動脈および腎臓を赤、肝左葉のFNHを緑で表示している。動脈系の立体的位置関係が容易に把握できる。上腸間膜動脈造影と同様に左胃動脈から分岐する左肝動脈が描出されている。(原論文2より引用)


 CTAでは、放射線被曝が避けられず、ヨード造影剤による副作用の危険性がある。骨と血管が重なると、両者の分離が容易でない場合がある。また、多数のCT像から血管を抽出し三次元画像に再構成するのに手間と時間がかかるといった問題点がある。
 MRAとCTAは、それぞれの目的に応じて適切に使い分けられるべき検査法である。


コメント    :
 非侵襲的なMRAやCTAの普及により、単なる診断目的の血管造影検査は不要になりつつある。血管内に長時間残留し、MRAに適した新しいMR造影剤の開発も進められている。造影剤のコストや、それによる副作用等を考慮すれば、造影剤を用いないMRAの分解能の向上、および検査時間の短縮が大幅に実現されることが期待される。

原論文1 Data source 1:
三次元画像の臨床応用の手引き 頭部
片田和廣
藤田保健衛生大学衛生学部診療放射線技術学科
臨床画像 15(9): 1050-1060, 1999

原論文2 Data source 2:
複数検出器列CTを用いたダイナミックスタディ
小林成司、白神伸之、平松京一
慶應義塾大学医学部放射線診断科
映像情報(M) 31(20): 1146-1153, 1999


キーワード:MR血管造影法(MR angiography: MRA)、CT血管造影法(CT angiography:CTA)、動脈瘤(aneurysm)、複数検出器列CT(multi detecter raw CT)、マルチスライスCT(multi slice CT)、血管病変(vascular lesion)
分類コード:030102、030106

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