放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 2000/02/04 鷲野 弘明

データ番号   :030159
パーキンソン病を含む錐体外路系疾患の診断に用いられる核医学診断剤
目的      :パーキンソン病などの診断剤の特徴の説明
放射線の種別  :ガンマ線
応用分野    :医学、診断

概要      :
 パーキンソン病などの大脳錐体外路系疾患に対する核医学診断剤が研究開発されている。これらは、ドパミン作動性神経細胞の代謝機能あるいはその神経終末における興奮伝達機能を画像化する。例えば123I-FP-CITは、線条体におけるドパミンの再取り込み部位に結合し、シナプス密度と相関する画像を与える。これらの診断剤は、従来の臨床診断や患者の投薬管理に客観的指標を与えるものとして注目される。欧州では、近い将来発売開始が予想される。


詳細説明    :

1. 錐体外路系疾患とは
 大脳の錐体外路系(黒質〜線条体)の異常により発生する多くの疾患は、運動障害・姿勢反射喪失・動作緩慢・振せん・筋硬直・種々の不随意運動などを特徴とし、錐体外路系疾患と総称される。これらの疾患の中に、突発性パーキンソン症候群(パーキンソン病)と症候性パーキンソン症候群(症候性パーキンソニズム)がある。

 パーキンソン病(PD)は、特に筋肉の律動的振せん・運動の硬直・無動・姿勢反射障害などを主徴とする慢性の神経変性疾患であり、大脳基底核の黒質線条体系におけるドパミン作動性神経細胞の選択的な変性・脱落によって症状発現に至る。一方、症候性パーキンソニズム(PS)では、血管性・炎症性・薬剤性変化など様々な要因で起こるドパミン作動性神経の神経伝達障害の結果惹起されるパーキンソン病と似た神経疾患である。両者は、ドパミン作動性神経の伝達障害が疾患の基礎にある点で同じである。しかし、発生メカニズム的には必ずしも同じではない。即ち、PDにおけるドパミン神経細胞の変性脱落とは、神経伝達の場である神経終末(シナプス)におけるシナプス前神経の脱落であり、神経細胞が興奮したときに神経終末より放出される神経伝達物質ドパミン(DA)が欠乏するため興奮伝達が障害される。一方、症候性パーキンソニズムにおける伝達障害は、それに加えてシナプス後神経の脱落等他の原因でも起こり得る。


図1 ドパミン作動性神経の脳内分布及びその神経伝達メカニズム。上の図は、ドパミン神経細胞の中枢神経系における存在及びその連絡の様相を示している。,旅質を含む中脳ドパミン神経細胞群より大きな上行投射路が始まり、これらは線条体(被殻()や尾状核())に終わる。線条体には、ドパミン作動性神経の神経終末(シナプス)が分布する。下の図は、そのシナプスの構造を模式的に示したものである。シナプス前神経にインパルスが伝えられると、それに応じて神経伝達物質であるドパミン(DA)が放出される。DAはドパミンD2受容体(D2-R)に結合し、それにより刺激は後方へ伝えられる。DAは、ドパミントランスポーター(DA-T)により回収され(再取り込み)、信号の伝達が収束する。FP-CITなどは、このDA-Tに結合する。一方、IBFなどはD2-Rに結合する。(原論文1より引用)


 ドパミン作動性神経細胞における信号伝達は、DAがシナプス間隙の反対側にあるシナプス後神経のドパミンD2受容体(D2-R)に結合することにより伝達される。DAは、そのあとシナプス前神経終末に大部分回収される。(回収されないものはシナプス間隙で分解される) この回収は、シナプス前神経終末の表面に存在するドパミントランスポーター(DA-T)を通じて行われ、DATはシナプスにおける神経伝達を終結させる機能を持つ。
 文献報告によれば、線条体におけるDA-T分布密度は、ドパミン作動性神経の神経終末密度を反映する。従って、PDにおけるドパミン作動性神経の消失は、DA-T存在量の低下を引き起こす。一方、PSではさらにD2-Rの消失なども考えられる。
 錐体外路系疾患は、かって、臨床症状と試験的投薬による症状の推移から診断されてきたが、CTやMRIによる脳の形態学的診断や核医学による脳血流検査も可能となった。しかし、このような診断法は、必ずしも疾患の確定診断には至らないときがあり、新たな診断法の開発が望まれていた。ドパミン作動性神経の神経伝達メカニズムに着目した核医学画像診断は、このような中で1980年代より研究されてきた。

2. 錐体外路系疾患の画像診断剤
 錐体外路系疾患の画像診断剤として使用されるRI標識トレーサーを以下に示す。これらは、かって研究された化合物の代表例であり、臨床試験データが文献報告されている。このうち、FP-CIT・β-CITは開発中であり、IBZMは欧州で販売されている。

(1) ドパミン作動性のシナプス前神経の機能に関連したもの
化合物略称 特異性 画像診断コンセプト
123I-FP-CIT DA-Tに選択的に結合 シナプス前神経終末の機能を画像化
123I-β-CIT DA-Tに選択的に結合 シナプス前神経終末の機能を画像化
99mTc-TRODAT DA-Tに選択的に結合 シナプス前神経終末の機能を画像化
18F-DOPA ドパミン合成前駆体 神経細胞の代謝機能を画像化
(2) ドパミン作動性のシナプス後神経の機能に関連したもの
123I-IBF D2-Rに選択的に結合 シナプス後神経終末の機能を画像化
123I-2'-ISP D2-Rに選択的に結合 シナプス後神経終末の機能を画像化
123I-IBZM D2-Rに選択的に結合 シナプス後神経終末の機能を画像化

3. ドーパミントランスポーター診断剤
 DA-T診断剤は、DA-Tに結合しDAの回収を阻害する作用を持つコカインにヒントを得て開発されている。FP-CIT、β-CIT、TRODATいづれもコカインと類似のフェニルトロパン骨格をもつ化合物である。このうち123I-FP-CIT((123I)-N-(3-fluoropropyl)-2β-carbomethoxy-3β-(4-iodophenyl) nortropane)は、欧州と日本で臨床試験が行われた。本剤の線条体への集積は、PD患者では正常人より低い集積を示すこと、線条体集積低下の程度はPDの重症度と相関することが明らかにされている。また、ドパミン神経終末の密度を示す123I-FP-CITの集積は、ドパミン神経細胞自体の代謝機能を反映する18F-DOPAとも良く相関することが知られている。123I-FP-CITのSPECT検査薬としての有用性は、臨床試験で証明され、欧州で近い将来販売が開始されるものと考えられる。特に副作用も認めらず、安全性の高い薬剤である。臨床例を図2に示した。


図2 62歳男性(健常人)における123I-FP-CIT のSPECT像。投与3〜4時間後において、線条体に一致する場所が明瞭に描出されている。PD患者の場合、この描出が低下することが知られている。(原論文2より引用)


4. ドーパミンD2受容体診断剤
 錐体外路系疾患では、シナプスにおけるD2-R密度の減少が報告され、薬剤性パーキンソニズム(PS)では治療薬剤によるD2-R占拠率と症状との間に相関が見られることも報告されている。これらの背景から、D2-Rの画像化によるPS診断の可能性が研究された。欧州では、D2-Rに特異性が高い123I-IBZM((123I)-(S)-(-)-2-hydroxy-3-iodo-6-methoxy-N-[(1-ethyl-2-pyrrolidinyl)methyl] benzamide)がSPECT検査薬として販売されている。D2-Rに対する親和性・選択性が更に高い123I-IBF((123I)-(S)-5-iodo-7-N-[(1-ethyl-2-pyrrolidinyl)methyl] carboxamide-2,3-dihydrofuran)が、我が国で研究された。臨床例を図3に示す。


図3 PD患者及びPS患者における123I-IBFのSPECT像。PD(パーキンソン病):57歳男性で、H&Y/I、L-DOPA有効、右上肢の固縮及び安静時振戦あり。このイメージは、正常例と変わらず、シナプス後神経は変性していないことが分かる。VP(血管障害性パーキンソニズム):患者は67歳男性で、H&Y/III、L-DOPA反応性不良。IBF集積低下が見られる。SND(線条体黒質変性症):59歳男性で、H&Y/IV相当、L-DOPA反応性不良、小脳失調あり。IBF集積は低下し、シナプス後神経の障害が示唆される。PSP(進行性核上性麻痺):63歳男性、H&Y/III相当、L-DOPA無効、下方向に核上性眼球運動障害あり。IBF集積が顕著に低下している。MRIでは中脳領域に萎縮を認める。(原論文3より引用)



コメント    :
 このような画像診断剤は、従来臨床症状から診断されてきた錐体外路系疾患の診断に新たな客観的診断根拠を与え、患者の投薬管理などにおいてより適切な指針となるものである。これからのevidence-based medicineを支える診断法といえる。


原論文1 Data source 1:
図説(I) 大脳基底核の構造とドーパミン系 (Anatomical structure of basal ganglia and dopaminergic system)
中村 重信、片山 禎夫 (S.Nakamura and T.Katayama)

日本臨床(Jap.J.Clin.Med) vol.55(1), p.2-3, 1997

原論文2 Data source 2:
Parkinson病の分子生化学的病因論 (Molecular pathogenesis of Parkinson's disease - Recent advances -
一瀬 宏、永津 俊治 (H.Ichise and T.Nagatsu)

日本臨床(Jap.J.Clin.Med) vol.55(1), p.4-7, 1997

原論文3 Data source 3:
ドパミントランスポータイメージング剤123I-FP-CITの第1相臨床試験(第2報) - 脳組織中放射能濃度の分析 -
高野 勝弘, 松村 要, 渡辺 ゆり 他

核医学 vol.36, p.1013-1022, 1999

原論文4 Data source 4:
ドパミンD2受容体イメージング剤123I-IBFの第2相臨床試験 - パーキンソン病およびパーキンソン症候群における安全性および有用性の検討 -
鳥塚 莞爾, 水野 美邦, 久保 敦司 他

核医学 vol.36, p.845-864, 1999

参考資料1 Reference 1:
Iodine-123-β-CIT and iodine-123-FPCIT SPECT measurement of dopamine transporters in healthy subjects and Parkinson's patients
J.P.Seibyl, K.Marek, K.Sheff et al.
J.Nucl.Med. vol.39, p.1500-1508, 1998

参考資料2 Reference 2:
Effects of age on dopamine transporters in healthy humans(99mTc-TRODAT-1)
P.D.Mozley, P.D.Acton, E.D.Barraclough et al
J.Nucl.Med. vol.40, p.1812-1817, 1999

参考資料3 Reference 3:
SPECT imaging of dopamine D2 receptors with 2'-iodospiperone
Y.Iwasaki, Y.Yonekura, H.Saji et al.
J.Nucl.Med. vol.36, p.1191-1195, 1995

参考資料4 Reference 4:
In vivo determination of striatal dopamine D2 receptor occupancy in patients treated with olanzapine(123I-IBZM)
T.J.Raedler, M.B.Knable, T.Lafargue et al.
Psychiatry Res. vol.90(2), p.81-90, 1999

参考資料5 Reference 5:
Early diagnosis of Parkinson's disease(18F-DOPA)
D.J.Brooks
Ann.Neurol. Sep;44(3 Suppl 1), p.S10-18, 1998


キーワード:画像診断 diagnostic imaging, 放射性医薬品 radiopharmaceutical, 脳 brain, 線条体 corpus striatum, ドパミン作動性神経 dopaminergic neuron, ドパミントランスポーター dopamine transporter、ドパミンD2受容体 dopamine D2 receptor、錐体外路系疾患 extrapyramidal disease, パーキンソン症候群 Parkinsonism, パーキンソン病 Parkinson's disease, トロパン誘導体 tropane analogue, 123I-FP-CIT, 123I-beta-CIT, 99mTc-TRODAT, 123I-IBF, 123I-2'-ISP, 123I-IBZM, 18F-DOPA
分類コード:030502, 030301, 030403

放射線利用技術データベースのメインページへ