非小細胞肺がんの放射線治療

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作成： 2002/11/26 早川　和重データ番号　　　：030155 非小細胞肺がんの放射線治療目的　　　　　　：　非小細胞肺がんに対する集学的治療に占める放射線療法の役割と治療法の進歩について概説放射線の種別　　：エックス線,ガンマ線,重イオン放射線源　　　　：直線加速器、コバルト遠隔照射装置、重粒子線加速器、192Ir、照射条件　　　　：　応用分野　　　　：　医学、治療概要　　　　　　：　非小細胞肺がんの根治的治療の第一選択は外科療法であるが、診断時に切除対象となるのは20%程度にすぎず、40%前後の症例は切除不能の局所進行がんである。切除不能例には放射線療法を主体とした治療が標準的に行われてきたが、治療成績は未だ不良であり、近年、化学療法との併用が盛んに行われている。早期例でも高齢や合併症などの理由で放射線療法が行われる機会も少なくなく、ここでは根治的放射線療法の現状を概説する。詳細説明　　　　：　　非小細胞肺がんの切除不能例に対しては放射線療法を主体とした治療が標準的に行われてきたが、5年生存率は5～10%と不良である。その要因としては、腫瘍サイズが大きいために局所制御が不十分であること、すでに顕微鏡的レベルの遠隔転移が存在すること、が挙げられている。放射線治療で腫瘍制御が望めるための条件としては、①腫瘍の存在範囲を照射野内に完全に含めうること、②正常組織への影響が許容される照射線量の範囲内で腫瘍を根絶させうること、が必要である。したがって、放射線療法では、①腫瘍の生物学的特性、②腫瘍の大きさ、③腫瘍の占拠部位・範囲が治療の成否を制約する重要な因子となっている。　　 1.腫瘍サイズと局所制御率　　放射線治療では線量に応じて確率的に腫瘍細胞量が減少していくために、腫瘍制御の可能性は腫瘍細胞量に依存する。さらに腫瘍サイズが大きくなると放射線感受性の低い低酸素細胞の割合も高くなる。したがって、腫瘍サイズは局所制御の成否を決定する重要な因子である。腫瘍制御に要する線量は、T1腫瘍では70～75Gyの照射で80%以上の制御が期待できるが、T2になると腫瘍径5cm以下でも75Gy以上の照射で50～70%程度の制御率である(表1)。表1　局所照射に必要な線量と局所制御率（原論文1より引用） ---------------------------------- 線量局所制御率 ---------------------------------- T1 70Gy-75Gy 80％以上 T2 75Gy以上 50-70％ (5cm未満) ---------------------------------- 　しかし、肺門部への80Gy以上の照射は過照射の危険性がある。 2.組織型と治療成績　　放射線治療成績を組織型別にみると扁平上皮がんに長期生存例が多く認められ、とくに、2年非担がん生存例の組織型別の分析では、扁平上皮がんの97%はそのまま5年生存したのに対して、腺がんは2年以降も遠隔転移のため生存率は低下する(図1)。図1　放射線治療後2年非担癌症例の予後（原論文5より引用）　すなわち、扁平上皮がんは限局性に気管支壁に沿って発育し、順次性にリンパ行性に転移する特徴を有しているため、局所制御が長期生存に結びつく可能性が高い疾患である。したがって今後、切除不能非小細胞肺がんの治療成績を向上させるためには、扁平上皮がんでは局所制御率を、非扁平上皮がんでは局所制御に加えて遠隔転移の制御率を向上させるための治療法の工夫が重要である。　　 3.腫瘍の広がりと予後因子　　局所進行非小細胞肺がんの放射線治療の予後を左右する因子は、宿主因子として、①Performance Status、②年齢、③体重減少、腫瘍因子として、④腫瘍サイズ、⑤原発腫瘍部位、⑥リンパ節転移部位、⑦組織型、⑧胸水の有無や骨・軟部への浸潤程度、治療因子として、⑨照射野の大きさなどが挙げられている。リンパ節転移では対側縦隔や気管分岐部への転移があると予後は不良である。また、原発部位が上葉あるいは下葉上区の症例では他部位原発例にくらべ予後良好である。これは、上葉や下葉上区原発例であれば肺門・縦隔を一緒に照射しても照射野が比較的小さくできるので、正常肺組織への照射の影響が少なくてすむためである(図2)。図2　原発腫瘍部位と照射野（原論文4より引用）　長期生存例の全国集計の結果でも、原発腫瘍部位が上葉あるいは下葉上区発生例の割合が79%と多数を占めている。　 4.放射線療法の最近の進歩　　局所制御率を高めるために、最近注目されている治療法としては、①放射線増感剤・防護剤の併用、②多分割照射、③三次元原体照射、定位的照射療法、④小線源治療(気管支腔内照射法など)、⑤温熱療法の併用、⑥荷電粒子線治療(陽子線・重イオン線など)などがある。また、治療関連機器の進歩として、①3次元治療計画装置、②CTを用いた治療計画装置、③患者固定具、④呼吸同期システム、⑤画像診断装置(PET、 MRI、免疫シンチグラフィ)などがある。　　一方、微小転移の制御を目的として化学療法の併用が広く行われており、一部の症例では化学療法併用による生存率の向上が認められている。また、抗がん剤の放射線増感効果を期待した同時併用療法も行われている。しかし、併用の利益は2年生存率で数%程度であり、今後、新規抗がん剤との併用療法の発展が期待されている。コメント　　　　：　非小細胞肺がんは扁平上皮がんと非扁平上皮がんとに分けて治療法を考慮する必要がある。局所進行がんでは化学療法との併用が広く行われているが、扁平上皮がんでは、放射線治療を優先すべきで、60Gy以上の根治線量が十分投与できるような治療法を選択すべきと考えられる。同様に、高齢者や合併症などの理由で化学療法が十分に行えない症例にも放射線治療を主体とした治療が現状では最も有効な治療法と考えられる。また、末梢小型肺がんや肺門部早期扁平上皮がんは高齢者に多く、多発する傾向にあることから、定位的照射療法や小線源による気管支腔内照射法が標準的な根治療法として普及する可能性が高いと考えられる。原論文１ Data source 1：末梢型非小細胞肺癌T1(T2)は外照射でどのくらい制御できるか早川　和重1、中山　優子1、松本　康男2、不破　信和3、菊池　雄三4、浜　幸寛5、馳澤　憲二6 群馬大学医学部放射線医学教室1、新潟大学医学部放射線医学教室2、愛知がんセンター放射線治療部3、金沢大学医学部保健学科放射線診療技術学講座4、防衛医科大学放射線医学教室5、筑波大学陽子線医学利用研究センター6 日医放腫会誌、10(suppl 2)、pp.22-26,1998 原論文２ Data source 2：肺癌の放射線治療適応-放射線腫瘍医の立場から新部　英男、早川　和重群馬大学放射線科内科、78(5)、pp868-872,1996 原論文３ Data source 3： Long-term survivors of non-small cell lung cancer after radiation therapy:The significance of histological type. Nakayama, Y., Hayakawa, K., Mitsuhashi, N., Saito, Y., Niibe, H. 群馬大学放射線科 Anticancer Res、17(4A)、2769-2273,1997 原論文４ Data source 4：肺癌：診断と治療の現状と展望、放射線治療：放射線腫瘍医の立場から早川　和重、新部　英男群馬大学放射線科カレントテラピー、16(6)、1085-1089,1998 原論文５ Data source 5：肺癌放射線療法の最近の進歩早川　和重、新部　英男群馬大学放射線科肺癌、39(6)、787-795,1999 参考資料１ Reference 1：非小細胞肺癌に対する重粒子線治療の第Ⅰ／Ⅱ相臨床試行研究(9303) 肺腫瘍臨床研究班(班長：山口　豊) 放射線医学総合研究所重粒子治療センター重粒子線がん治療臨床試行報告書-1-(辻井博彦編)、pp19-40,1998 参考資料２ Reference 2：非小細胞肺癌長期生存症例の全国調査日本放射線腫瘍学会国内関連学会委員会(委員長：新部英男) 群馬大学放射線科、日本放射線腫瘍学会日放腫会誌、6(1)、91-98, 1994 キーワード：非小細胞肺がん,non-small cell lung cancer,放射線治療,radiation therapy,扁平上皮がん,squamous cell carcinoma,気管支腔内照射,endobronchial brachytherapy,重粒子線治療,heavy ion charged particle therapy,定位放射線照射,stereotactic radiotherapy,多分割照射法,multi-daily fractionation,原体照射,conformal radiotherapy,温熱療法,hyperthermia 分類コード：030201, 030202, 030203
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