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作成: 1999/09/30 小口 正彦

データ番号   :030149
悪性リンパ腫の放射線治療について
目的      :悪性リンパ腫に対して放射線治療がどのように役立つか、および、放射線治療の方法や有害反応(副作用)について、患者・家族むけに紹介する
放射線の種別  :エックス線,電子
放射線源    :直線加速器・リニアック(Linear Accelerator)
線量(率)   :20-50 Gy
利用施設名   :放射線腫瘍医のいる放射線治療施設
応用分野    :医学、がん治療

概要      :
悪性リンパ腫は、本来は体を守る働きをするリンパ球が、無制限に増えつづけ腫瘍になったものです。正常リンパ球は放射線や薬剤によって壊れやすいので、腫瘍化した悪性リンパ腫の多くは、放射線や抗がん剤に対して弱く、比較的治りやすい病気といえます。最近の放射線治療の新しい技術や、新抗がん剤の開発、有害反応(副作用)を軽減する支持療法などの進歩により、年々治癒する患者さんが増えてきています。ここでは、悪性リンパ腫の放射線治療を紹介します。

詳細説明    :
1.悪性リンパ腫について
 健常なリンパ球は、骨髄などにいる血液幹細胞から生まれ、リンパ節に駐在し血管内やリンパ管内をパトロールし、細菌やウイルスなど外敵の攻撃から体を守り、体内の異常細胞を排除したり、正常細胞の交通整理をするなどの役割を負っています。 人間社会を想定すれば、骨髄は警視庁で、リンパ節や扁桃腺は交番で、リンパ球は警察官に例えてよいでしょう。原因は分かっていませんが、その警察官たるリンパ球の素行が乱れ宿主身体に迷惑をかけるようになったものが、悪性リンパ腫といえます。このような悪性リンパ腫を根絶するには、それなりに大変な治療を必要とします。患者さんにとっては、治療による種々の有害反応(副作用)として、不快なことを我慢していただかなくてはなりません。悪性リンパ腫を治癒させうる可能性は、年々高まっていると言ってよいでしょう。
2.日本人に多い悪性リンパ腫と放射線治療の役割
 限局性のびまん性大細胞性B細胞リンパ腫
 病理学つまり顕微鏡でリンパ腫を検査すると、日本では『びまん性大細胞性B細胞リンパ腫』として分類されるリンパ腫の頻度が最も多いと、報告されています。自覚症状が乏し、初発症状は無痛性のこぶ(腫瘤)であることが多いため、早期発見されにくいようです。一般に、リンパ腫細胞が「大きい」と増殖が盛んで、より悪性である傾向にあります。放射線治療は、病巣部の悪性リンパ腫細胞の根絶を目標として行われます。局所的つまり限られた範囲の治療法である放射線治療は、リンパ腫の広がりが連続性である範囲に限られた場合(臨床病期 I, II期)に効力を発揮できます(図1)(図2)(1,2,4)。また「びまん性」の名が示すようにリンパ腫細胞が散らばりやすく、限局しているように見えても、実は目に見えない転移・播種が全身のリンパ組織に拡がりやすい傾向にあります。よって、2箇所以上に拡がっているリンパ腫に対しては、全身的な治療手段としての化学療法を併用することが重要です。


図1 リンパ節領域図(原論文1より引用)



図2 限局性悪性(非ホジキン)リンパ腫に対する代表的照射野(原論文4より引用)

 年齢や全身状態、病巣の広がり(病期、リンパ節以外の臓器の病巣数)、血液検査の結果(血清LDH値)などを考慮して、どの程度強い化学療法を何回行うか、いつ頃どのくらいの放射線治療を行うかを検討します。このような検討項目を予後因子と言い、治療結果を予測し、ひいては治療のさじ加減をする尺度となります(1)。これまでの臨床研究により、びまん性大細胞性B細胞リンパ腫には、化学療法後に放射線治療を行うことで、低い有害反応(副作用)で優れた治療効果が期待できます(図3)(3)。現在の標準的な化学療法はCHOP療法と呼ばれるもので、3種類の抗がん剤であるエンドキサン、アドリアマイシン、オンコピンそして副腎皮質ホルモン剤のブレドニンを使用し、l日目に抗がん剤を点滴し、プレドニンは2日目より5日間内服していただきます。これを3週間に1回行い計3回繰り返します。 化学療法によってリンパ腫が消えてしまったかのように見えても、目に見えない残存細胞がある可能性が高く、引き続き放射線治療を行う必要があります。病巣からやや広めの範囲に照射を行います。リンパ腫の部位や大きさなどにより照射技術は患者さん毎に工夫して行われます。一般に、30〜40Gyを15〜25回程度に分割して、3〜5週間かけて休日以外はほぼ毎日(週に4〜5日)治療します。


図3 限局性悪性(非ホジキン)リンパ腫の治療成績:生存率 (原論文3より引用。 Reproduced from N Engl J Med 1998;339:21-25, Figure 2 (p.23), Miller TP, Dahlberg S, Cassady JR, et al., Chemotherapy alone compared with chemotherapy plus radiotherapy for localized intermediate-and high-grade non Hodgkin's lymphoma; Copyright(1998), with permission from Massachusetts Medical Society.)

 放射線治療の主な有害反応は、治療された部位によって異なります。扁桃腺のリンパ腫への照射では、食欲不振、口内炎、唾液減少による口渇が問題となります。治療の前後から、うがいや歯磨きなど口腔内の衛生に気をつけることが大切です。また、どの部位へ照射しても、軽い皮膚炎や、軽度の白血球球減少、血小板減少が生じますが、一時的で1〜2週で回復します。
 最初にリンパ腫の拡がりを決める検査や、第1回目の治療を入院にて行うこともありますが、原則としては外来通院で治療を続けられます。化学療法中は毎週、放射線治療中は毎日通院していただき、必要と判断された時は人院していただくこともあります。

コメント    :
 遺伝子学や分子生物学の進歩を反映して、悪性リンパ腫に関する医学研究は、病理学、診断学、治療学など全ての領域で急速に進歩しています。英語ではありますが、最新のがんの医学研究情報は、米国国立がんセンターのホームページ(http://cancernet.nci.nih.gov/)に整理されて記載されています。特にがんの種類や病態別に標準的治療が示され、新しい臨床研究結果が報告されコンセンサスが得られた時点で直ちに改訂されているため、非常に有用です。

原論文1 Data source 1:
The treatment of Hodgkin's disease.
Kaplan HS, Rosenberg SA
Stanford University
Med Clin North Am 1966;50:591

原論文2 Data source 2:
A predictive model for aggressive non-Hodgkin's lymphoma.
The International Non-Hodgkin's Lymphoma Prognostic Factor Project
The International Non-Hodgkin's Lymphoma Prognostic Factor Project
N Engl J Med 1993; 329:987-994.

原論文3 Data source 3:
Chemotherapy alone compared with chemotherapy plus radiotherapy for localized intermediate-and high-grade non Hodgkin's lymphoma.
Miller TP, Dahlberg S, Cassady JR, et al.
Southwest Oncology Group
N Engl J Med 1998;339:21-25.

原論文4 Data source 4:
トピックス 頭頸部領域の悪性リンパ腫 3. 診断と治療-放射線科の立場から-
池田 恢
国立がんセンター病院
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 第66巻 第3号 1994年3月20日発行

参考資料1 Reference 1:
放射線治療医による限局性非ホジキンリンパ腫の調査集計の要約
池田 恢
厚生省がん研究助成金「高齢者がんに対する放射線治療の適応に関する研究」班(主任研究者:池田恢)
厚生省がん研究助成金「高齢者がんに対する放射線治療の適応に関する研究」班(主任研究者:池田恢)班会議資料

キーワード:悪性リンパ腫(Malignant Lymphoma)、ホジキンリンパ腫(Hodgkin's Lymphoma)、非ホジキンリンパ腫(Non-Hodgkin's Lymphoma)、放射線治療(Radiation Therapy)、リニアック(Linear Accelerator)、照射(Radiation)、照射野(Radiation Field)、照射線量(Radiation Dose)、分割照射(Fractionation)、化学療法(Chemotherapy)
分類コード:030201

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