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作成: 2000/2/4 鷲野 弘明

データ番号   :030145
早期前立腺癌のbrachytherapy用密封小線源
目的      :前立腺癌のbrachytherapy用密封小線源の特徴の説明
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :I-125, Pd-103
応用分野    :医学、治療

概要      :
 brachytherapyとは、小型密封放射線源を体内の疾患部位に埋め込み、そこから患部に放射線を長期間照射することによって治療する体内照射療法をいう。欧米では、早期前立腺癌の治療に汎用されている。この治療に使用される密封線源は、特にシーズと呼ばれ、長さ4.5mmx×直径0.8mmの小さな円筒形の放射線源で、チタンカプセルに封入される。前立腺癌は、今後我が国でも増加が見込まれる癌で、この治療法が普及するものと考えられる。

詳細説明    :
 
1. 前立腺癌のBrachytherapy
 
 brachytherapyとは、小型密封放射線源を体内の疾患部位に埋め込み、そこから患部に放射線を長期間照射することによって治療する体内照射療法をいう。早期前立腺癌は、従来よりこの治療法の対象であったが、密封小線源の刺入留置による治療は、1985年より開腹法からテンプレートを介した経会陰刺入法にとってかわった。この密封小線源は、一般にシードと呼ばれ、長さ4.5mm×直径0.8mmの円筒状小型RI線源である。欧米では、寿命の延長に伴って前立腺癌患者の数は飛躍的に増加し、副作用の少ない経会陰刺入法によるbrachytherapyは大きく普及した。
 経会陰刺入法は、開腹手術と比較していくつかの利点がある。
 
1) シーズの留置位置の精度向上
2) 前立腺及び前立腺周囲に刺入するシード数の増大
3) 前立腺への照射線量増大
4) 前立腺特異抗原(PSA)により測定した制御率は外照射によるものよりも高い
5) 外照射に比べて合併症の発現頻度が低い
6) 外来治療が可能
以上より、今後我が国でも普及すると考えられる。
 
 
2. Brachytherapyの実際
 
(1) 患者の選択
 患者は、臨床病期でStage A(T1a、b、c)、およびB(T2a、b、c)がシード刺入療法の適応となる。PSAが25ng/ml以上の患者は、リンパ節転移を検索し、リンパ節転移陽性の場合は刺入療法を施行しない。もし、前立腺の容積が60mlを越える場合、恥骨弓の干渉によりシードを刺入できない場合があるため、事前に放射線外照射やホルモン療法により前立腺の縮小をはかる必要がある。
 
(2) 治療計画の作成
 前立腺癌の形状・容積・恥骨弓の干渉は、CTや経直腸的超音波断層撮影等により評価しておく。次に、必要な放射線吸収線量を得るために刺入するシードの位置・数・放射能量を決定する。この手順は、まず前立腺全体にわたるtarget volumeを設定し、専用コンピュータプログラムを用いてvolume dosimetryを行う。留置するシードの個数は、患者によって大きく異なるが、125I-シードで80個程度、103Pd-シードで100個程度といわれる。使われる放射能量は、個々の患者で異なるが、一般に125I-シードで20 MBq/個前後、103Pd-シードで40 MBq/個前後である。
 
(3) シードの刺入
 刺入の様子を図1に示す。患者は、脊髄麻酔下で背臥位で保定し、経直腸的超音波断層撮影のもとで、針を用いて前立腺にシードを刺入する。代表的なシードの外観・形状は、図3に示した。シードは、通常スペーサーとともに針の中に1cm間隔で挿入される。針は、テンプレートを使用し、針の穿刺位置として5mm間隔で刺入していく。図2に刺入後の単純X線撮影像を示す。このように留置されたシードにより、前立腺癌全体は放射線で照射される。


図1 brachytherapyにおけるシーズの刺入手術の模式図(原論文1より引用)



図2 シーズを前立腺に刺入後の様子を示す単純X線撮影像(原論文1より引用)



図3 代表的なシーズの外観(A)及び寸法図(B,C)(原論文2より引用)

3. brachytherapy用シード
 図3にシードの一般的外観及びその断面図を示した。これらは、主に米国・欧州で販売されており、製造・販売元は10社以上になる。シードの大きさ自体は、統一されている。シード1個あたりの放射能量は、治療計画に基づき決定される。製造者は、注文に応えるため、充填放射能量の違うシードを何種類か製造販売している。多くの製品は滅菌されていないため、使用前に滅菌操作が必要である。
 
(1) 形状・規格
形状 :長さ4.5mm×直径0.8mmの円筒状
内部は、両端2ヶ所に放射性物質を充填
表面材 :チタン
使用核種 :I-125、Pd-103
放射能量 :I-125 検定時でおよそ10〜37MBq/個(0.3〜1.0 mCi/個)
Pd-103 検定時でおよそ37〜56MBq/個(1.0〜1.5 mCi/個)
 
(2) I-125の核的性質
崩壊形式 :軌道電子捕獲
半減期 :59.43日
放出放射線:Auger electron (ただし、これはチタンカプセルにより吸収される)
27.2〜31.9 keV X線
35.5 keV γ線
 
(3) Pd-103の核的性質
崩壊形式 :軌道電子捕獲
半減期 :16.99日
放出放射線:Auger electron (ただし、これはチタンカプセルにより吸収される)
20〜23 keV X線
 シードの刺入には、針・テンプレート・保定台など様々な補助具を必要とする。これらは、欧米では様々な製造メーカーより供給されている。

コメント    :
 ここでは、早期前立腺癌を例にbrachytherapyを説明したが、欧米ではその他に頭頚部癌・肺癌などでも応用されている.

原論文1 Data source 1:
Ultrasound-guided transperineal implantation of Iodine-125 and Palladium-103 for the treatment of early-stage prostate cancer - Technical concepts in planning, operative technique and evaluation -
P.D.Grimm, J.C.Blasko and H.Ragde

New Techniques in Prostate Surgery vol.2(2), p.113-125, 1994

原論文2 Data source 2:
PdGold

MENTOR
Product leaflet, copyright/March 1999 Mentor 9902028

原論文3 Data source 3:
IoGold I-125

MENTOR
Product leaflet, copyright/July 1999 Mentor 9907004

原論文4 Data source 4:
TheraSeed

Indigo Medical
Product leaflet, INDIO75 10/99

参考資料1 Reference 1:
Ten-year disease-free survival after transperineal sonography-guided Iodine-125 brachytherapy with or without 45-gray external beam irradiation in the treatment of patients with clinically localized, low to high Gleason grade prostate carcinoma
H.Ragde, A.A.Elgamal, P.B.Snow et al.

Cancer vol. 83, p.989-101, 1998

キーワード:体内照射療法 brachytherapy, 密封放射線治療用具 closed radioisotope device, シーズ seed, 腫瘍 tumor, 前立腺癌 prostate cancer, 125I iodine-125, 103Pd palladium-103,
分類コード:030502, 030301, 030403

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