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作成: 2000/02/24 山本 和高

データ番号   :030138
前立腺の画像診断
目的      :前立腺の画像診断、前立腺癌と前立腺肥大の鑑別、前立腺癌の病期診断
放射線源    :X線管

概要      :
 前立腺肥大症や前立腺癌は高齢男性に非常に多い疾患である。経直腸超音波検査は前立腺肥大の評価に優れているが、10mm以下の小さな癌の診断能は不充分で、偽陽性率が高い。MRIは、前立腺病変の鑑別診断、前立腺癌の病期判定に重要な役割を果たしつつある。しかし、現状では、前立腺癌の確定診断には通常針生検が必須とされることが多い。

詳細説明    :
 前立腺肥大症や前立腺癌は、高齢化社会の到来とともに急増していくことが予想される。剖検のデータによれば80歳以上の男性では、90%以上に前立腺肥大が、35〜65%に前立腺癌が認められるといわれている。前立腺は栗実形をしている外分泌腺臓器で、頭側は膀胱頚部に接し、尿道を取り囲んでいる。前立腺の腺組織は辺縁域(peripheral zone)、中心域(central zone)、移行域(transition zone)に分けられる。移行域は加齢とともに増大し、前立腺肥大となる。前立腺癌の70%は辺縁域に発生する。非腺組織には主に平滑筋線維よりなるanterior fibromuscular stromaや、尿道括約筋、前立腺被膜がある。
 超音波検査:体外からの検査では恥骨が障害となり、超音波の減衰やノイズの影響も強く、良好な画像を得られないので、前立腺のスクリーニング検査には7.5MHzの探触子を用いる経直腸超音波断層(transrectal ultrasonography; TRUS)が用いられる。前立腺肥大では対称性に肥大し、形状は進行につれて半月形から円形に近づいてくる。内部エコーは移行域が腫大し、周囲に低エコー帯がみられ辺縁域を圧排しているのが認められる(図1a)。
 前立腺癌は、前立腺組織より低エコーで辺縁域から発生し、前立腺被膜に接しているものが多い。ただし、射精管、移行域を囲む線維組織などの正常構造や、前立腺肥大でも結節状に低エコーを示す。約25%の癌は超音波で描出されなかったという報告もある。カラードプラでは、前立腺癌の血流は亢進する。限局性低エコー域に血流信号の増強が認められると癌の可能性が高い(図1b)。経直腸超音波検査は、前立腺生検のガイドとしても利用される。病変部位が明らかでない場合は両葉を基部から尖部まで6ヶ所から組織を採取する(sextant biopsy)のが基本的な手法である。


図1 超音波像 (a) 高度前立腺肥大症の経直腸超音波断層像。移行域が拡大し、周囲に低エコー帯(矢印)が見られ、辺縁域は両外側に圧排され薄くなっている。(原論文2より引用) (b) 前立腺癌のカラードプラ像。限局性低エコー域に血流の増強が認められる。(原論文1より引用)


 CTでは、特に高齢者において内部構造の描出は不良となる。前立腺癌の診断には有効ではない。
 MRI:躯幹コイルによる撮像ではstage B1(片葉内に限局する最大径1.5cm以下の腫瘍)以下の癌の診断は困難とされ、Pelvic Phased Arrayコイルと経直腸コイルの組み合わせによる高解像MRIにより、前立腺病変の診断率の向上が図られている。T1強調像では均一、T2強調像では中心域と移行域が低信号で両者を区別できないので、これらを併せて内腺inner glandと呼び、それを取り囲むように後方から外側に均一な高信号の辺縁域が認められる。前立腺肥大は腺組織と間質が様々な割合で肥大するが、腺組織優位型はT2強調像で多数の腺過形成結節がみられ(図2a)、Gd-DTPA等による造影MRIで間質が網目状に造影される。間質優位型の場合は均一に造影される。間質優位型では抗男性ホルモン剤の治療効果はあまりなく、MRIは治療法の選択に有用である。
 辺縁域の前立腺癌はT2強調像で低信号病巣として検出される(図2b)。ただし、前立腺炎や前立腺肥大でも低信号領域を呈し、癌との鑑別が困難なこともある(図2a)。内腺に発生した癌は、前立腺肥大による様々な信号強度を示す過形成結節との区別が難しく、良・悪性の鑑別はできない。精嚢浸潤があるとリンパ節に転移している危険性が高く予後も悪化する。MRIはT2強調像で高信号を示す精嚢が低信号となり、その部分は造影され、精嚢浸潤の検出率が高い。なお、前立腺生検後には出血巣がT2強調像で低信号に描出されるので、MRIは3週間以上の間隔をあけて行うべきである。


図2 MRI像 (a) 前立腺肥大症(BPH)のT2強調画像。内腺は腫大し不整な結節像を示す。辺縁域の前立腺肥大症(矢印)も低信号を呈し、癌との鑑別が困難であるが、前立腺肥大症では境界が鮮明なことが多い(矢頭)。(b) 前立腺癌。T2強調像で辺縁域に低信号域(太矢印)が認められ、被膜を越えている(矢頭)。前立腺肥大症(BPH)の周囲は低信号に描出されている(細矢印)。 (原論文3より引用)



コメント    :
 社会の高齢化につれて前立腺癌の増加が予測される。スクリーニング検査には血中PSA(prostate specific antigen)の測定が有用であり、現状では、前立腺癌の確定診断には生検が必須である。良・悪性の鑑別診断に有効な画像検査法の確立が望まれる。前立腺組織に含まれるクエン酸が、癌では有意に減少しておりchemical-shift imagingで診断可能であったという報告もみられ今後の検討が注目される。

原論文1 Data source 1:
超音波診断update 前立腺
宮下由紀恵、澤村良勝、松島正浩
東邦大学第2泌尿器科
臨床放射線 43(11), 1562-1568, 1998

原論文2 Data source 2:
前立腺肥大症の診断と治療
斉藤雅人
京都府立医科大学泌尿器科
臨床画像 11(10増刊): 103-109, 1995

原論文3 Data source 3:
前立腺病変の画像診断
杉村和朗
神戸大学医学部放射線科
臨床画像 15(6)、703‐714,1999

キーワード:前立腺(prostate gland)、前立腺肥大(benign prostate hypertrophy: BPH)、前立腺癌(prostate cancer)、経直腸超音波断層検査(transrectal ultrasonography: TRUS)、核磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging: MRI)、
分類コード:030106、030107

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