放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 1999/12/31 山本 和高

データ番号   :030137
甲状腺の超音波診断
目的      :甲状腺病変の超音波診断の紹介

概要      :
 超音波検査は甲状腺疾患の画像スクリーニング法として適している。特に腫瘤性病変の検出に優れ、5mm以下の小腫瘤でも容易に描出できる。ただし、良・悪性の鑑別は困難な場合があり、超音波ガイド下生検が必要となることが少なくない。び慢性疾患でもそれぞれ特徴的な所見が認められるが、バセドウ病ではカラードプラが有用である。

詳細説明    :
 
 甲状腺は表在臓器であり、超音波検査には5〜10MHzの高周波の探触子が用いられ分解能の良好な画像を得ることができる。頚部は円筒形で、リニア型探触子は密着しにくいため、脱気水をいれた水バッグや柔らかい超音波カップラーを頚部に置いて超音波検査を行うことが多い。
 甲状腺の腫瘤性病変に対する超音波検査の描出能は高く、5mm以下の小腫瘤の検出も容易である。甲状腺の良性腫瘍は大部分が濾胞性腺腫で、辺縁は滑らかで、狭い低エコー帯を示すことが多い。内部エコーは均一だが、中央部に嚢胞変性等を伴うことも多い。内部がほとんど嚢胞化している腫瘤の大部分は良性であるが、一部に悪性病変が存在することがある。
 
 甲状腺癌の80%前後は乳頭状腺癌で、辺縁は不整、内部は低エコー充実性で砂粒小体(psammoma body)による微細な点状高エコーを示したり、内部の嚢胞変性や石灰変性による不整なエコーを伴うことがある(図1)。頚部のリンパ節転移や、甲状腺外への浸潤は悪性を強く示唆する所見である。ただし、小さな腫瘤では特徴的な所見を示すことは少ない。濾胞性腺癌も辺縁不整、不均一な内部エコーを示すが、画像所見のみでは良性腫瘍との鑑別が困難な症例も少なくない。また、腺腫様甲状腺腫はび慢性疾患であるが、画像的には結節性の変化を示し、大小多数の結節性エコー、嚢胞変性、粗大な石灰化像など多彩な所見が認められる。約4分の1の症例に癌が合併するとの報告もあるが、腫瘤性病変との鑑別は画像のみでは困難である。


図1 甲状腺乳頭状腺癌の超音波像。横断像(左)、縦断像(右) 内部に微小石灰化を示す点状高エコーがみられる。(原論文1より引用)

 
 このように超音波画像のみでは確定診断の困難な症例が少なくないので、良・悪性の鑑別診断には超音波ガイド下針生検による細胞診が行われることが多い。ただし、超音波検査による甲状腺検診では約3人に1人の割合で3mm以上の低エコー域が検出されたという報告もある。小さな病変に対しては超音波ガイド下生検も容易ではなく、まれな未分化癌などを除くと一般に甲状腺癌の悪性度は低いので、原則として超音波検査により経過観察を行い、腫大するもののみが精密検査の対象となる。
 
 び慢性甲状腺疾患の診断には、血中甲状腺ホルモン(fT4, fT3)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)等の測定が重要で、特徴的な所見を示す症例以外では超音波検査のみで診断するのは容易ではないが、腫瘤性病変の除外、大きさの計測、経過観察等には有用である。
 
 バセドウ病では甲状腺は腫大し、図2に示すように、カラードプラでは、全体的に血流が著明に増加し、いわゆる火焔様血流イメージが得られる。治療により甲状腺機能が正常化すると、血流も低下する場合が多いが、血流と機能は必ずしも相関するわけではない。

図2 バセドウ病。カラードプラ像で全体的に著明な血流増加が認められる。(原論文1より引用)

 
 慢性甲状腺炎では、進展した典型例では甲状腺は腫大し、表面は粗大結節状となり、内部エコーは粗く、周囲の筋肉と同程度ないし、それ以下に低下する。不均一な低エコーや局所的な低エコー領域を示し、悪性リンパ腫等の腫瘤性病変との鑑別が問題となる症例もある。
 
 亜急性甲状腺炎は甲状腺の疼痛部に一致して境界不明瞭な低エコー領域を認める。病変が甲状腺内を移動する(creeping)が、症状の出現に先立って低エコー領域が描出されることもある。
 甲状腺の描出は容易であるが、気管の背側、前上縦隔部は観察しにくいので、そのような部分の画像診断にはCT、MRIが使われる。

コメント    :
 甲状腺の潜在的な病変は、特に女性で存在率が高いが、甲状腺腫瘤は触知されないと気付かれることが少ない。超音波検査は簡単で、非侵襲的であるが、甲状腺腫瘤の検出率は極めて高い。また、び慢性甲状腺疾患の診断の契機ともなる。甲状腺の超音波検査は、有用性が高く、スクリーニングにもさらに広く利用されるべきである。

原論文1 Data source 1:
内分泌臓器画像診断とその進め方 甲状腺
道岸隆敏、水上勇治、利波紀久
金沢大学医学部核医学教室
画像診断 18(12): 1239-1249, 1998

参考資料1 Reference 1:
甲状腺のびまん性疾患 Bモード
山田恵子、吉廣昭子、林 敏彦、有賀明子、澤野誠志、小泉 満、山下 孝
癌研究会附属病院放射線科
臨床放射線 43(11): 1341-1345, 1998

参考資料3 Reference 3:
甲状腺・頚部の超音波診断
小西淳二編集、山本和高、日高昭斉、徳田康孝、幡生寛人、飯田泰啓、笠木寛治
京都大学放射線核医学科
金芳堂、1992

キーワード:甲状腺(thyroid gland)、超音波検査(ultrasonography)、甲状腺腫瘍(thyroid tumor)、甲状腺癌(thyroid cancer)、バセドウ病(Basedow's disease)、慢性甲状腺炎(chronic thyroiditis)、亜急性甲状腺炎(subacute thyroiditis)
分類コード:030107

放射線利用技術データベースのメインページへ