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作成: 2000/02/29 山本 和高

データ番号   :030135
MRI造影剤
目的      :MRIに用いられる造影剤の紹介

概要      :
 MRI造影剤には常磁性のガドリニウムや鉄などが使用され、周囲のプロトンとの相互作用により造影効果を示す。腫瘍など病変のコントラストを増強し、画像診断に有用である。副作用はX線検査のヨード造影剤よりも少ない。組織特異性の高い造影剤の開発が進められている。

詳細説明    :
 
 MRI造影剤は、近傍の水素原子核との相互作用より緩和時間を短縮する常磁性体のガドリニウム、鉄などが利用される。MRI造影剤の造影効果は、X線検査のヨード造影剤と異なり、濃度と信号強度は単純に比例しない。陽性造影剤であるGd-DTPA等も、ある濃度以上になるとT2(T2*)短縮効果による信号低下が著明となる。灌流画像(perfusion imaging)は、この効果を利用して磁化率の不均一性に鋭敏なgradient echo (GRE)法や EPIを用いて造影剤を急速に投与し連続的に撮像して、脳内の毛細管レベルの微小循環動態を画像化したものである。
 
 
陽性造影剤
 
 ガドリニウム(gadolinium: Gd)はなかでも最大の常磁性体効果を示しT1強調画像で信号強度を増強させるが、イオンの状態では毒性が高いので、キレート剤のDTPAと結合し安定化させたGd-DTPA(meglumine gadopentate,マグネビスト)がMRI造影剤として商品化され、その後、非イオン性のGd-DTPA-BMA(gadodimide hydrate,オムニスキャン)、Gd-HP-DO3A(gadoteridol,プロハンス)が発売された。投与量は0.1mmol/kgとヨード造影剤よりもかなり少量で造影効果を示す。静注されると、血管内から漏出して細胞間質に移行しヨード造影剤に類似した分布を示し、腎より尿中に排泄される。血液脳関門は通過しない(図1)。
 
 急速静注しながら連続的に撮像し、局所の血行動態を観察するdynamic studyや、血管内のみが造影されている時期に撮影し、血管のイメージを得るMR angiographyも行われる。副作用はヨード造影剤よりも少ないが、ショックによる死亡例もあり、アレルギー歴、喘息、MRIまたはヨード造影剤副作用歴は危険因子である。


図1 聴神経鞘腫 造影前のT1強調画像(左)、Gd-DTPA造影後では、血管脳関門の無い腫瘍部位が信号が著明に増強している。(原論文1より引用)


 経口造影剤のクエン酸鉄アンモニウム(ferric ammonium citrate、フェリセルツ)は、通常600mgを300mlの水に溶かして経口投与する。T1強調画像で、胃、十二指腸、小腸といった消化管の内腔が高信号となり消化管壁、膵臓等の周囲臓器との区別が容易になる。
 
 
陰性造影剤
 
 大きな磁化率を持つ酸化鉄が不均等に分布すると、局所の磁場が乱され磁化率効果(magnetic susceptibility effect)によりT2*緩和時間が短縮され、プロトン密度強調画像やT2強調像で信号が低下する。フェリデックス(ferumoxides)は超常磁性酸化鉄(superparamagnetic iron oxide particles: SPIO)のコロイド溶液で、0.05ml/kgを5%ブドウ糖注射液100mlに使用時に混合して30分以上かけて点滴投与し、投与終了後から30〜120分後に撮影する。コロイドは肝の類洞内面に存在するKupffer細胞により貪食され、正常肝組織の信号強度は低下し、Kupffer細胞を含まない悪性度の高い肝細胞癌や転移性肝癌のコントラストが増強される(図2)。


図2 肝細胞癌 造影前のプロトン密度強調画像(左)では病変を指摘できないが、SPIO造影後(右)には高信号の病変が認められる。(原論文2より引用)


 ただし、嚢胞などKupffer細胞を含まない良性病変との鑑別はできない。高分化肝細胞癌は、腺腫様過形成(adenomatous hyperplasia, AH)、限局性結節性過形成(focal nodular hyperplasia, FNH)などと共にKupffer細胞を含んでいるのでコントラストが逆に不明瞭となる。高度の肝硬変では肝内の線維化の進展などのためにコントラストの増強が弱く、肝実質の信号が不均一となる場合がある。ヘモクロマトーシスの患者には禁忌である。
 
 
新しい造影剤の開発
 
 より詳細で良好な血管イメージを得るために、Gdにアルブミンなどの高分子を結合して血管外へ漏出しにくくした血管内造影剤の試験も進められている。USPIO(ultrasmall superparamagnetic iron oxide particles)は粒子径18nmと極めて小さく、リンパ節に取り込まれるが、血管内に長時間留まるので、血管内造影剤としても利用できる。肝実質の造影剤としてGd-BOPTA、Gd-EOB-BOPTAなどの肝細胞に取り込まれ胆汁から排泄される製剤も開発されている。またモノクローナル抗体と結合させて腫瘍の診断を目指すといった、特異的な分布特性を示すさまざまなMRI造影剤の研究、開発が精力的に進められている。

コメント    :
 核医学で利用されてきた集積機序と同じ原理を応用した組織特異性の高い幾つかのMRI造影剤の臨床応用が進められている。特定の組織のみを造影できるようなMRI造影剤が数多く利用されるようになると、MRIは、核医学検査よりも分解能が高く、放射線被曝がないので、核医学検査の一部は造影MRIに置き換えられると予想される。

原論文1 Data source 1:
静注MRI用造影剤
前田正幸、伊藤 哲、山田弘樹、岩崎俊子、石井 靖
福井医科大学放射線医学教室
日獨医報 39(2): 169-182, 1994

原論文2 Data source 2:
MRIにおける造影剤使用法の現状と工夫
高橋 哲、村上卓道、金 東石、堀 雅敏、鳴海善文、大井博道、中村仁信
大阪大学医学部放射線医学教室
画像診断 18巻6号 613−622、1998


参考資料1 Reference 1:
MRI造影剤  
小塚隆弘、打田日出夫、中村仁信
大阪大学医学部、奈良県立大学
造影剤要覧21、p83-94、日本シェーリング、1999


キーワード:核磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging: MRI)、造影剤(contrast enhance agent)、ガドリニウム(gadorinium: Gd))、超常磁性酸化鉄(superparamagnetic iron oxide particles: SPIO)、灌流画像(perfusion imaging)
分類コード:030106

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