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作成: 2000/02/29 山本 和高

データ番号   :030134
脊髄・脊椎病変のMRI診断
目的      :脊髄、脊椎疾患の画像診断におけるMRIの有用性の紹介

概要      :
 脊髄病変の画像診断にはMRIは不可欠で、特に腫瘍が疑われる場合には造影MRIが必須である。MRIでは、腫瘍の存在診断ばかりではなく、その性状の推定も可能になっている。また、炎症性疾患や、血管性病変などの診断にも有用である。椎間板ヘルニア、椎体圧迫骨折、後縦靭帯硬化症などの脊椎の疾患の画像診断にも有用であり、MRIは脊髄、脊椎病変が疑われる患者に対し、第1に選択すべき検査法である。

詳細説明    :
 
 MRIは非侵襲的に、脊髄、脊椎骨等を1回の検査で明瞭に画像化できる。解剖学的な描出能やコントラストも良好で、病変を直接検出することが可能であり、画像所見から病変組織像をも推測できる。脊髄疾患の疑われる場合、外傷、腫瘍、炎症を問わず、すべての患者に対しMRIは第一選択の早急に実施すべき不可欠な検査法である。Gd-DTPA等を用いる造影検査は、特に腫瘍の診断には必須である。脊髄自体は指程度の太さしかなく、空間分解能を向上し、ノイズの少ないイメージを得るために、1回の撮像範囲が限定されるが、表面コイルが使用されることが少なくない。
 
 脊髄腫瘍の診断には、その占拠部位の同定が重要であるが、MRIは任意の方向から断層像を得ることができ、硬膜内外か、脊髄内外かの診断が容易である。
 硬膜外腫瘍の診断には、硬膜による帯状の低信号(extradural sign)や、腫瘍に接している硬膜外脂肪(epidural fat cap sign)は有用な所見である。硬膜外腫瘍による脊髄圧迫所見の観察にもMRIは適している。
 
 硬膜内髄外腫瘍には、髄膜種や神経鞘腫などがあり、造影MRIでは、髄膜腫は均一な増強像を示し、神経鞘腫では辺縁部が増強され内部に嚢腫を有する症例が多い。脳脊髄液のタンパク含量が多い場合や水分含有の多い腫瘍では、腫瘍と脳脊髄液の区別が困難な場合がある。図1は、胸頚髄移行部腹側の神経鞘腫でGd-DTPA造影T1強調像では、腫瘍は高信号で脊髄を圧排している。腫瘍の上縁に脳脊髄液の信号がみられる所見(CSF cap sign)は硬膜内髄外腫瘍を示唆している。脳腫瘍の胚芽細胞腫、髄芽腫、多形成膠芽腫等にみられる髄腔内播種の検出にも造影MRIは有用で、直径2〜3mm程度の小結節も描出される。
 
 髄内腫瘍では、脊髄腫大、出血、反応性嚢腫、浮腫等がみられるが、非腫瘍性の脊髄浮腫や空洞との鑑別には造影MRIが有用である。図2は、星細胞腫のT1強調矢状断層像で第4脳室下方から胸髄におよぶ広汎な低信号域が認められる。Gd-DTPA静注後の造影MRIでは、腫瘍の実質成分と頭側の嚢胞壁に増強がみられ、頭側の嚢胞性成分と、尾側の腫瘍に伴う脊髄空洞が明瞭に描出されている。上衣腫では腫瘍辺縁にヘモジデリンが沈着し(hemosiderin cap)、腫瘍の境界が明瞭となることが多い。


図1 胸頚髄移行部腹側の神経鞘腫 硬膜内髄外腫瘍でGd-DTPA造影T1強調像(左)では、腫瘍は高信号で脊髄を圧排している。右図は手術中の脊髄を少し翻転させた場面で、脊髄の腹側に白っぽい腫瘍(矢頭)が確認できる。(原論文1より引用)



図2 星細胞腫 T1強調矢状断層像(左)で、第4脳室下方から胸髄に及ぶ広汎な低信号域(矢頭)が認められる。Gd-DTPA静注後のT1強調像(右)では腫瘍の実質性成分は著明に増強され(*)、頭側は嚢胞性成分で嚢胞壁に増強が認められる(矢頭)。尾側は腫瘍に伴う脊髄空洞を示す(矢印)。(原論文2より引用)


 脊髄浮腫等では腫瘍と炎症との鑑別が重要となるが、灰白質・白質の識別が可能であれば炎症と診断できる。炎症では、その病態によって特徴的な所見を示す場合が多く、多発性硬化症のプラーク(plaque)は脊髄の周辺部、特に後外側に高信号を認め、間隔をあけて病変(skip lesion)がみられることが多い。サルコイドーシスなどの肉芽腫性脊髄炎では造影MRIで脊髄辺縁部に異常な増強がみられ"蝋燭の蝋が垂れる(candle gutturing)"と形容される。
 
 脊髄損傷では、急性時の浮腫はT1強調像で低信号、T2強調像で高信号を示し、出血巣はT2強調像で低信号域を示す。脊髄梗塞は前脊髄動脈の閉塞が原因となることが多いが、動脈灌流域に一致して梗塞病変が、浮腫によりT2強調像で高信号として描出される。脊髄の動静脈奇形(arteriovenous malformation;AVM)では蛇行する異常血管が描出される。海綿状血管腫(cavernous hemangioma)では、新旧の出血により内部に高信号域と低信号域が混在し、周囲に低信号帯が認められる。
 
 脊椎の病変の診断にも有用である。骨粗鬆症に伴う椎体圧迫骨折と悪性腫瘍の転移による病的骨折の鑑別は重要であるが、椎体に脂肪髄がみられ、椎弓部の破壊がなく、局所的な腫瘤形成を伴わないといった所見は良性の骨折を支持する。椎間板ヘルニアの評価にも適しており椎間板の限局性の突出、硬膜腔への圧排といったヘルニア発症後の所見ばかりではなく、髄核の水分が失われてくるとT2強調像における高信号が次第に低下するといった椎間板の変性自体の情報も得ることができる。脊椎後縦靭帯骨化症では椎体後面の帯状の低信号が観察され、脊髄腔の狭小化、脊髄の圧迫の程度なども評価できる。 

コメント    :
 MRIの普及により、脊髄腔造影検査(myelography)の診断的価値はほぼ消滅した。脳脊髄液を画像化するMR hydrographyなどの新しい撮影法も開発され応用が進んでおり、脊髄や脊椎の病変に対する画像診断法としてMRIの有用性はますます向上している。脊髄疾患の疑われる患者には、先ずMRIを実施するのが、無駄な検査を省き、より早く診断にいたる方法である。

原論文1 Data source 1:
硬膜内髄外腫瘍の外科(2)
花北 順哉
静岡県立総合病院 脳神経外科
日獨医報 44(3); 514-526, 1999

原論文2 Data source 2:
原理のいらないMRI診断 脊髄病変の診断
中里 龍彦、玉川 芳春
岩手医科大学中央放射線部
画像診断 16(1); 43-53, 1996

参考資料1 Reference 1:
脊髄腫瘍の画像診断
宮坂 和男
北海道大学医学部放射線医学教室
日獨医報 44(3); 465-476, 1999

キーワード:脊椎(vertebra)、脊髄(spinal cord)、脊髄腫瘍(spinal tumor)、核磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging; MRI)、圧迫骨折(compressed fracture)、椎間板ヘルニア(disc herniation)
分類コード:030106

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