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作成: 2000/02/06 山田 弘樹

データ番号   :030132
functional MRIによる局所脳機能解析
目的      :functional MRIを用いた大脳皮質機能計測の紹介
放射線源    :磁気共鳴装置(1.5tesla)
応用分野    :医学、診断、神経科学

概要      :
 近年のmagnetic resonance imaging (MRI)装置の進歩は著しく、functional MRI (fMRI)を施行することで、脳血流動態の変化を介した脳機能の画像化が臨床用MRI装置で可能となってきている。現在、fMRIは脳神経外科、神経内科、さらには認知心理学や小児発達の分野で広く応用されている。ここでは、fMRIを用いた局所脳機能解析を紹介する。

詳細説明    :
 従来、脳機能検査はpositron emission tomography (PET)検査を中心として行われており、脳賦活検査は実施可能な施設も限られていた。しかし、超高速撮像法であるEcho Planar Imaging (EPI)の撮像可能な臨床用MRI装置の普及によってfMRI撮像が比較的容易となった。それに伴って、fMRIは脳神経外科、神経内科、さらには認知心理学や小児発達の分野で広く応用されるようになってきている。

1.fMRI測定法
 fMRIにおける信号強度変化は,人体の内因性物質であるhemoglobinの酸素化の程度によるT2*値の変化を反映すると言われている。すなわち、局所脳神経活動にともなって酸素消費が生じるが、それに余りある代償性の局所脳血流上昇が直ちに生じるために結果的には局所酸化ヘモグロビン濃度が上昇し、MRIにて局在する信号上昇が観測されると考えられている。このMRI信号の変化をより鋭敏に反映するEPI法がfMRIには有利である。

2.fMRI画像
 手指運動を用いた脳のfMRIは負荷検査自体が容易であり、負荷遂行の客観的な評価が可能であること、EPIを用いる場合運動領野の画像の歪みが脳底部に比べて少ないことと言った利点のためにfMRIの初歩的な検査として正常被検者、または脳疾患患者に広く用いられてきた。


図1  左手複雑指手運動負荷を用いたfMRI。頭頂から見た大脳皮質三次元像と賦活部位を合成。複雑指手運動に伴う右一次感覚性運動野、両側前運動野、補足運動野の賦活が確認される。  (原論文1より引用)

 被検者に少し複雑な指手運動負荷を行わせることで一次感覚性運動野以外に前運動野、補足運動野に賦活が確認される。脳腫瘍症例でも、手の運動負荷により中心溝の同定が容易となり、腫瘍と一次感覚性運動野の位置関係が理解される。
 視覚刺激を用いたfMRIも運動負荷と同様に刺激のコントロールが比較的容易であること、また視覚機能が人間にとって重要な大脳機能の一つであり生理学的にも古くから研究され続けてきたことなどから盛んに行われている。代表的なものとしてチェッカーボードパターンを用いた視覚刺激検査がある。


図2  右視放線梗塞(白矢印)による左同名半盲症例。チェッカーボードパターン視覚刺激を用いたfMRI。右V1には有為な賦活は認められていないが、右V5(矢頭)に独立した賦活が確認される。 (原論文1より引用)

 図2は右側頭葉の動静脈奇形の経過中右視放線の障害から左同名半盲を呈した症例である。視覚刺激を用いたfMRIにて左一次視覚領野(V1)から連続性に広がる後頭葉の賦活が認められる。一方、右V1には有為な賦活は認められていないが、右側頭後頭部のV5領野に独立した賦活が確認される。すなわち、チェッカーボードパターンと言った動きの映像刺激では視放線以外の経路でV5の賦活化が行われていることが証明される。


図3  光刺激を用いた幼児のfMRI。生後7週の幼児(左図)では光刺激に伴い後頭葉視覚領野に信号上昇が認められるが、生後8週の幼児(右図)は信号低下が生じる。(原論文1より引用)

 新生児から幼児に光刺激を用いたfMRIを行うことで、大脳皮質の発達過程の評価が可能となってきている。単純な光刺激に対して生後7週までの新生児から幼児では視覚領野の信号は成人と同様に上昇するが、生後8週以上の幼児では信号低下現象が観察される(図3)。大脳皮質は発達過程において生後約2カ月頃に急激なシナプス数の上昇を示すことが知られている。負荷に対して信号低下が生じる生後8週以降の幼児では急激なシナプス数の増加により、刺激に反応する皮質領野において急激な酸素消費が行われることで局所脳血流量増加が代償し切れていないことが予想される。すなわち、幼児期にfMRIを行うことでシナプス形成という重要な大脳皮質発達過程の評価が可能である。 

3.fMRIの問題点
 fMRIの信号変化はあくまでも局所血流変化を反映するもので、それ自体が局所大脳皮質神経細胞の電気生理学的な反応を直接表わすものではないことである。そのために、fMRI処理画像の解釈において偽陽性には十分な注意が必要となる。また、脳機能欠損患者において正常人と比べて期待される反応が得られなかった場合に、それが脳機能の欠落に起因するものなのか、それとも被検者の協力が得られず負荷された課題の遂行不十分による偽陰性なのかの判定は非常に困難と思われる。

コメント    :
 fMRIの開発によって脳機能局在の研究が世界中で行われてきている。特に脳全体を短時間で検査可能なEPIを用いることでfMRIは臨床の場で広く用いられ始めており、手術前の脳機能評価や脳発達、可塑性の評価が期待される。一方では認知心理学の研究手法として様々な負荷検査がfMRIに応用されており、今後高次脳機能の解明が飛躍的に進歩すると思われる。

原論文1 Data source 1:
特集' MRI最新潮流' ファンクショナルMRI
山田 弘樹、田中 雅人、石井 靖、定藤 規弘、米倉 義晴、山下 義則
福井医科大学放射線科
新医療、25(6), pp.54-58,1998

キーワード:大脳皮質、cerebral cortex,磁気共鳴画像、magnetic resonance imaging,機能的磁気共鳴画像、functional MRI,運動野、motor cortex,視覚野、visual cortex,乳幼児、infant,新生児、neonate,運動機能、motor function,視覚機能、visual function,発達、development
分類コード:030106

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