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作成: 2000/01/19 坂井 豊彦

データ番号   :030130
大動脈瘤に対するIVRによる治療
目的      :大動脈瘤に対する最新の治療法であるステントグラフト治療について紹介する
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :X線管
利用施設名   :福井医科大学、その他
応用分野    :医学、治療

概要      :
 画像診断の技術を応用して非侵襲的な治療を行うことをインターベンショナルラジオロジー(IVR)とよんでいる。従来、大動脈瘤に対しては病変部を直接切開して人工血管に置き換える外科手術が行われていたが、IVRの進歩によりはじめて病変部を切開しないで治療することが可能になった。ステントグラフトと呼ばれるバネ仕掛けの人工血管を用いる方法である。病変部を切開しないためX線画像による体外からのモニタリングが必要である。

詳細説明    :
 心臓から送り出された血液がまず最初に入り込む、人体で一番大きな血管を大動脈というが、その大動脈が瘤のように限局的に膨らんできた状態を大動脈瘤という。大動脈瘤自体で症状が出ることはまれであるが、サイズが大きくなるにつれて破裂するリスクが高くなってくることが分かっている。一旦破裂すると手術しても助かる可能性の低い、恐ろしい病態である。従って大動脈瘤は大きくなってきて破裂のリスクが高くなると、無症状でも治療する必要がある。
 近年、X線を使用して人体の内部を画像化し、それを利用して病変部を切開することなしに治療するIVRという分野が放射線医学の一部門として発達してきた。このIVRの技術を応用して動脈瘤の治療を低侵襲にできないかという試みが始められている。動脈瘤の治療にはステントというバネ仕掛け金属製の骨組みに、グラフトと呼ばれる人工血管を貼りつけたものを使用する。これをステントグラフトと呼んでいる(図1)。拡がると40ミリくらいにできるが、たたむと径7ミリ程度の管に収納できる。拡張したときの径や長さは症例ごとの個々の血管サイズに合わせて調節される。ステントグラフトもいろいろな種類のものが開発され、欧米では既に市販されているものもある。残念ながら本邦では、未だに正式には認められた医療行為ではなく、市販も認められていない。一部の施設で手作りのステントグラフトを使用して試験的に行われているのが実状である。


図1 福井医科大学で使用しているステントグラフト。ステンレス製のステントに人工血管(PTFE)がはりつけてある。

 実際の手順を紹介する。まず大腿部の動脈を外科的に露出し、そこからX線透視をみながら大動脈瘤の部位まで長い7ミリ径の管を誘導する。次に図2-aに示すように造影剤を使用して瘤の正確な位置を確認する。7ミリの管を通してステントを瘤の位置まで挿入し、図2-bに示すようにステントを開く。すると瘤はグラフトで覆われ、グラフトはステントにより瘤近傍の正常血管にはりつけられ、固定される。こうして、瘤内には血流が入り込まなくなり、破裂を防ぐことができる。


図2 a)胸部大動脈瘤の血管造影像。胸部下降大動脈に動脈瘤を認める。b)ステントグラフト留置後の血管造影像。留置前に胸部下降大動脈に認めた動脈瘤は描出されなくなっている。

 このように理論的には低侵襲で大動脈瘤の治療が可能なステントグラフトであるが、まだ幾つかの問題がある。まず、ステントグラフトは瘤近傍の血管にステントの拡張力により貼りつくことで固定されるので、この固定部位から分枝する血管は塞いでしまう。外科手術なら再建も可能であるが、ステントではできない。したがって、現段階では瘤近傍から頚動脈、腎動脈など重要な血管が分岐する場合には本法は使えない。また、ステントグラフトは人工血管を縫い付ける訳ではないのでリークと呼ばれる瘤内への血流の残存が7〜25%の症例で起こることが分かっている。瘤内に血流が残存した場合には、その破裂を完全に防げないことも判明しており、治療成功とはいえない。また、一旦瘤内の血流を遮断できても、ステントグラフトがその人の生涯有効かどうかも分かっていない。動脈瘤の治療は、その方が亡くなるまで瘤の破裂を防げて成功といえる。ステントグラフトの長期予後に関しては、まだ確立されていない。
 ステントグラフトは、まだ課題の残る発展段階の治療法ではあるが、今後、X線画像を基にする本法は普及していくものと予想される。

コメント    :
 大動脈瘤の外科治療は、大動脈の一時的遮断、体外循環の使用などが必要な場合も多く、一般に侵襲は大きい。その一方で、大動脈瘤をもつ患者は心疾患、脳血管病変等の合併症をもつことも多く、侵襲の大きい外科手術に耐えられない患者も多い。したがって大動脈瘤の非侵襲的治療の開発は、これら多くの患者を救うことにつながり、画期的な技術といえる。また本法は外科手術に比較して術後入院期間も短縮できるので、医療経済の面からも推奨していくべき方法と思われる。

原論文1 Data source 1:
The "First Generation" of endovascular stent-grafts for patients with aneurysms of the descending thoracic aorta.
Michael D Dake, D Craig Miller, R Scott Mitchel, Charles P Semba, Kathleen A Moore, Toyohiko Sakai
Division of Cardiovascular and Interventional Radiology, Stanford University School of Medicine
the Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery, November 1998, 689-702

キーワード:大動脈, aorta, 大動脈瘤, aortic aneurysm, ステント, stent, ステントグラフト, stent graft, 放射線医学, radiology, インターベンショナルラジオロジー, interventional radiology, 血管病変, vascular disease, 治療, treatment
分類コード:030101、030103

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