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作成: 1999/03/30 山本 和高

データ番号   :030129
IVRによる肝細胞癌の治療-PEI、TEA
目的      :PEI、TAEなどIVRの手法を用いる肝細胞癌の治療

概要      :
 肝細胞癌の治療には外科的切除が行われるが、それに比較して侵襲の少ない経皮的エタノール注入療法(PEI)や経動脈的塞栓療法(TAE)といったIVRの技法を用いた治療法が広く実施されるようになり、外科切除に匹敵する良好な成績をあげている。進行した肝硬変患者など手術の困難な場合にも、比較的安全に簡便に施行でき、肝細胞癌の治療に重要な位置を占めている。

詳細説明    :
 肝細胞癌は早期に外科的切除を行っても、再発率が高い。IVR (interventional radiology)の手法を用いた経皮的エタノール注入療法(PEI)や経動脈的塞栓療法(TAE)等は、侵襲が少なく、繰り返して実施することができ、外科的切除に匹敵する治療効果の期待できる肝細胞癌の治療法である。
 経皮的エタノール注入療法(PEI; percutaneos ethanol injection therapy):超音波断層像で腫瘍をリアルタイムに確認しながら経皮的に穿刺針を腫瘍内に刺入し、純エタノールを注入して腫瘍の壊死を目指す方法である。一般的には最大径3cm以下、3病巣以内の症例が適応となる。難治性腹水や出血傾向のある患者、著明な黄疸、肝性脳症の徴候を示す肝不全症例は対象から除外される。
 エタノールが腹膜や肝被膜に接触すると激痛を引き起こす。また、穿刺による疼痛のために患者が動いてしまうと、穿刺針の狙いがずれるので、局麻剤を注入し、穿刺経路、特に腹膜と肝表面を充分に麻酔する。超音波探触子をあて、血管を避けて穿刺針を刺入し、針の先端が腫瘍内にあることを確認する。エタノール注入につれて腫瘍内のエコーが増強しなければ血管や胆管への流入が考えられるので、穿刺部位を変更する。注入するエタノール量は腫瘍体積の1.5〜2倍程度を目標とし、1日の総注入量は10ml以下で、3〜4日は治療の間隔をあけ、原則として腫瘍が完全壊死するまで繰り返す(図1)。直径2cm以下の小さな腫瘤に対する治療効果は良好で、70〜80%の5年生存率が報告されている。超音波検査では描出困難な腫瘍に対しては、高速連続スキャンと画像再構成・表示の高速化により、CT画像を、ほぼリアルタイムに観察できるCT fluoroscopy(CT 透視法)下のPEIが有用である。胆管内にエタノールが流入すると胆汁が凝固し胆管炎、胆管閉塞をきたす危険性がある。門脈枝に多量のエタノールが注入されると局所の肝実質が萎縮する。エタノールの漏出による胸水貯留も報告されている。


図1 肝細胞癌は低エコーの結節として描出され、点線は穿刺ラインを示す(左)。エタノールが腫瘤内に注入されると高エコーを示す(右)。(原論文1より引用)

 純エタノールの変わりに高濃度の酢酸を用いる施設もある。また、マイクロ波を発生する細い電極を刺入して、電子レンジと同じように熱で腫瘍組織を壊死させるマイクロ波凝固療法(MCT; microwave coagulation therapy)も実施されている。電極の周囲のみをほぼ確実に熱凝固できるが、その範囲はPEIよりもやや狭いので、少しずつ位置を変えて何回か繰り返す必要がある。
 経動脈的塞栓療法(TAE; transarterial embolization):肝臓の血流は肝動脈と門脈からの二重支配を受けている。正常の肝実質は門脈からの血流が多いので肝動脈からの血流が遮断されても障害は少ないが、古典的な肝細胞癌はほぼ完全に動脈血支配であり、肝細胞癌への栄養動脈を完全に塞栓すれば、良好な治療効果が得られる。これが、経動脈的塞栓療法(TAE)である。肝細胞癌は多中心性発生を示す症例が少なくないが、TAEは、肝内の多発性の病変に対しても有用である。動脈内に挿入したカテーテルより造影剤を注入して腫瘍濃染像を確認し、その支配動脈を選択してカテーテルを進め、外科手術などで止血に使われるスポンゼルの細片、スマンクス、リピオドールや抗癌剤なども注入する。マイクロカテーテルの普及により超選択的な挿入が可能になった。塞栓終了後にもう1度、血管造影を行い塞栓状態を確認する。門脈本管が閉塞している症例や、肝不全の症例等はTAEの対象とできない。
 胆嚢動脈に塞栓物質が流入して急性胆嚢炎を発症する頻度が少なくないので、通常、抗生物質を投与する。塞栓物質が胃十二指腸動脈等に流入すると胃十二指腸潰瘍、膵炎、脾梗塞等の合併症の危険性がある。動脈の内膜損傷やスパスムで肝動脈基幹部が閉塞すると肝外動脈からの側副血行路が新生し、TAEの効果が低下し、TAEを繰り返すことが極めて困難になるので注意を要する。TAE後は、CT等を用いて経過観察を行い腫瘍への血行再開が伺われたらTAEを繰り返す(図2)。


図2 造影CT像で辺縁部が特に造影される病巣(矢頭)があり(左)、選択的肝血管造影検査でも血流増加が見られ(矢頭)、TAEが実施された(中)。TAE後の単純CTでリピオドールの強い集積(矢頭)が認められる(右)。(原論文2より引用)



コメント    :
 近年、肝硬変の治療法が進歩し、肝不全や食道静脈瘤で死亡する人が減少した結果、肝細胞癌による死亡率は上昇している。進行した肝硬変を合併している患者や高齢の患者では外科的切除が困難であり、肝細胞癌の治療において、PEIやTAEなどIVRによる治療法の活用が、今後、さらに重要になると考えられる。

原論文1 Data source 1:
エタノール局注療法とマイクロ波凝固療法
池田 健次
虎の門病院消化器科
肝細胞癌の予知・診断・治療 124-144 メディカルレビュー社、1999 

原論文2 Data source 2:
肝癌のIVR
貞岡 俊一、並木 珠、山田 哲久、多田 信平、福田 国彦
東京労災病院、東京慈恵会医科大学 放射線科
臨床放射線 44(6), 691-698, 1999

参考資料1 Reference 1:
超音波・CTガイド下穿刺術 エタノール局注療法
林 信成
福井医科大学放射線科
超音波・CTガイド下穿刺術 p61-65、金芳堂,1990

キーワード:肝細胞癌(hepatocellular carcinoma)、IVR(interventional radiology)、経皮的エタノール注入療法(PEI; percutaneous ethanol injection therapy)、超音波断層検査
0(ultrasonography)、CT 透視法 (CT fluoroscopy)、マイクロ波凝固療法(MCT; microwave coagulation therapy)、動脈塞栓術(TAE; transarterial embolization)、
分類コード:030101

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