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作成: 1999/01/4 鷲野 弘明

データ番号   :030119
腫瘍シンチグラフィー用モノクローナル抗体診断剤-2:Indium(In-111) Capromab Pendetide注射液(ProstaScint)
目的      :モノクローナル抗体を利用した前立腺癌診断剤の特徴の説明
放射線の種別  :ガンマ線
応用分野    :医学、診断

概要      :
 Indium(111In) Capromab Pendetide注射液は、前立腺特異的膜抗原(PSMA)に結合するマウス型モノクローナル抗体7E11-C5.3に二官能性キレート剤を結合させたものを有効成分とし、用時111In標識される診断用放射性医薬品である。PSMAは前立腺癌で高頻度に発現するため、本注射液による診断は、CTなどでは確定できない病変の評価及びその後の治療方針決定に有用である。なお、本剤は我が国では販売されていない。

詳細説明    :
 腫瘍とは、細胞増殖に関与する遺伝子の異常が主な原因で不死化した細胞集団であり、様々な組織より発生する。腫瘍は、正常組織では見られない抗原をしばしば発現し、これらは腫瘍関連抗原と呼ばれる。ヒト腫瘍組織を他の動物に接種・感作させると、腫瘍抗原に結合する抗体を作成することができる。例えば、マウスをヒト腫瘍組織で感作したのち、抗体を産生するプラズマ細胞を取り出して骨髄腫細胞と融合し、腫瘍に特異的な抗体を産生する融合細胞をクローニングすると、腫瘍抗原にのみ結合する抗体(モノクローナル抗体)を大量に作製できる。
 
 1970年代末にモノクローナル抗体を作製する技術が開発されると、放射性同位元素で標識した抗体を腫瘍の核医学診断に応用する試みが直ちに始まった。1980年代には抗体イメージング剤の研究が盛んに行われ、1990年代にはいくつかの製剤が米国で販売されるに至った。ここでは、それらのうち米国Cytogen社のIndium(111In) Capromab Pendetide注射液(ProstaScintTM、以下本注射液)を紹介する。現在のところ、本注射液は我が国では販売されていない。
 
 Capromab Pendetideは、前立腺特異的膜抗原(prostate specific membrane antigen;PSMA)に結合するマウス型モノクローナル抗体7E11-C5.3に二官能性キレート剤を結合させたものを有効成分とし、用時111In標識できるよう調製された製剤である。PSMAは前立腺癌で高頻度に発現するため、Indium(111In) Capromab Pendetide注射液は、CTでは確定できない病変の評価及びその後の治療方針決定に有用である。
 インジウム-111(111In)は、サイクロトロンで生産される物理的半減期2.81日の放射性核種で、β線を放出せず、放出γ線のエネルギーは171,245 keVでシンチグラフィーに適している。
 
 
1. 111In-Capromab Pendetide注射液の組成
 
 Capromab Pendetideは、用時111In標識して使用する標識用溶液バイアル(2バイアル構成)として供給される。Capromab Pendetideバイアルはリン酸緩衝生理食塩液(pH 6)1 mlに溶解したCapromab Pendetide 0.5 mgを含み、酢酸緩衝液バイアルは標識に用いる塩化インジウム(11In)注射液のpH調整用酢酸緩衝液(pH 5〜7)2 mlを含む。
 用時、これらのバイアルと塩化インジウム(11In)注射液を用いて、本注射液を調製する。
 
 
2. 111In-Capromab Pendetide注射液の効能又は効果
 
 前立腺癌の診断。
 本注射液は、前立腺癌が組織診断で証明された初発患者で、臨床的にまだ限局性と診断されるが骨盤腔リンパ節への転移があり得る高リスク群患者に適用される。本注射液は、血清PSA値の上昇や通常診断で癌の再発が疑われながら、その存在部位を確定できない(=癌が証明できない)前立腺除去術施行後の患者にも適用される。
 
 
3. 111In-Capromab Pendetide注射液の用法及び用量
 
 用時、酢酸緩衝液バイアルより酢酸緩衝液0.1mlをとり、塩化インジウム(111In)注射液(6〜7 mCi)に加える。pH調整した塩化インジウム注射液をCapromab Pendetideバイアルに加え、静かに混和し、室温30分程度で放置する。標識後、放射化学的純度を薄層クロマトグラフィーで測定して純度が90 %以上あることを確認する。
 通常、成人に推奨される投与量は185 MBq/0.5 mg Capromab Pendetideであり、肘静脈より5分ほどかけゆっくり投与する。投与30分後及び3〜5日後にガンマカメラあるいはSPECT装置で全身像あるいは局所像を撮像する。30分後の撮像は血液プールの画像化を目的とし、3〜5日後の撮像は転移・再発の検出を目的とする。
 
 
4. 111In-Capromab Pendetide注射液の薬効薬理
 
 PMSAは、前立腺上皮細胞が細胞膜上に発現する糖蛋白質であり、その他の腺上皮細胞や腺癌では発現しない。PMSAは多くの原発性及び転移性前立腺癌で発現され、7E11-C5.3抗体はin vitro免疫組織染色で95 %以上の前立腺癌に反応する。PMSAの発現は正常前立腺細胞でも見られるが、前立腺癌細胞では一般にホルモン療法に伴って正常上皮細胞より強く発現されることが多い。血清PSA値は、前立腺癌が存在すると正常閾値を越えるため、癌の存在を示唆するが、その部位を特定することはできない。従って、本注射液を用いて画像診断することにより、その部位の特定が可能となり、治療方針決定に役立つ。
 Capromab Pendetideは、PSMAに特異的に結合するマウス型モノクローナル抗体(IgG1K) 7E11-C5.3に二官能性キレート剤(GYK-DTPA)を結合させたものであり、分子量約160 kDaの蛋白質である。
 
 
5. 111In-Capromab Pendetide注射液の体内動態
 
 静脈内投与後ゆっくりと血液中より消失した。投与3日後までの尿中排泄は、投与量の約10 %であり、体外排泄半減期は67±11時間であった。抗原の分布とは関連しないと考えられる二次的な放射能分布が、肝臓・脾臓・腎臓・骨髄に見られた。
 
 
6. 111In-Capromab Pendetide注射液の臨床適用
 
 本注射液は、米国で前立腺癌を対象に実施された臨床試験においてその有用性が示された。本注射液による初発患者のリンパ節転移検査に関する試験成績は、以下のとおりである:
 
             ProstaScint 検査
             陽性      陰性
  組織診断 陽性    40例      24例    sensitivity = 62%
       陰性    25例      63例    specificity = 72%
          PPV = 62%   NPV = 72%  overall accuracy = 68%

 以下に臨床例を示す。


図1 前立腺癌患者の例。 この患者は、59歳でstage T2、PSA=78.1 ng/mlの前立腺癌である。3ヶ月のホルモン療法後手術受け、前立腺を切除した。その2ヶ月後に本注射液による検査を受けたところ、腹腔内のリンパ節に前立腺癌の転移が発見された。このリンパ節転移は、MRIでは発見されていなかった。(原論文1より引用)




図2 前立腺癌患者の例。 この患者は、50歳でPSA=20.3 ng/mlで前立腺癌と診断された。CTなどの検査では転移が認められなかったため、手術で前立腺癌を切除した。しかし、その8ヶ月後にPSA=2.4 ng/mlまで再度上昇し、再発か転移が疑われた。通常の検査手段では発見できなかったため、本注射液で検査を行なったところ、腹腔内リンパ節への転移が発見された。(原論文2より引用。 Reprinted by permission of the Society of Nuclear Medicine from: Hinkle GH, et al. Prostate cancer abdominal metastases detected with Indium-111 Capromab Pendetide; Journal of Nuclear Medicine. 1998;39:650-652, Figures 1,2,3 (p.651).)


7. 111In-Capromab Pendetide注射液の副作用
 
 Capromab Pendetideの投与によるヒト抗マウス抗体(HAMA)の産生は、単回投与で8 %(20例/239例)、複数回投与で19 %(5例/27例)の患者に見られた。
 臨床試験(529例)では、4 %の症例で何らかの副作用が発現したが、それらはいずれも重篤とは認められなかった。

コメント    :
 腫瘍診断剤としては他にクエン酸ガリウム(67Ga)注射液があるが、これは前立腺癌の診断には使用できない。

原論文1 Data source 1:
ProstaScint - Kit for the preparation of Indium In 111 Capromab Pendetide
Cytogen Corporation
薬剤パンフレット, 1997年8月7日版

原論文2 Data source 2:
Prostate cancer abdominal metastases detected with Indium-111 Capromab Pendetide
G. H. Hinkle, J. K. Burgers, J. O. Olsen, B. S. Williams, R. A. Lamatrice, R. F. Barth, B. Rogers & R. T. Maguire
J.Nucl.Med., vol.39, No.4, p.650-652, 1998

キーワード:画像診断, 放射性医薬品, 免疫シンチグラフィー, モノクローナル抗体, 腫瘍, 浸潤, 再発, ProstaScint, 前立腺特異的膜抗原, 前立腺癌,リンパ節転移,
diagnostic imaging, radiopharmaceutical, radioimmunoscintigraphy, monoclonal antibody, tumor, invasion, recurrence, Indium(111In) Capromab Pendetide, prostate specific membrane antigen, PSMA, prostate cancer, lymphnode metastasis
分類コード:030502, 030301, 030403

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