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作成: 1999/03/29 渡辺 祐平

データ番号   :030117
我が国の医療機関における放射線発生装置の利用状況
目的      :我が国における放射線発生装置使用事業所数、機種、台数、主な用途の紹介

放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :電子加速器、X線管、イオン源
応用分野    :医学、診断、治療、検査

概要      :
 我が国の医療機関で放射線発生装置の使用許可を取っているのは1997年度現在599ヶ所、その設置台数は700台である。X線発生を中心とした直線加速器が大部分を占め、他に少数のマイクロトロン、サイクロトロン、ベータトロンがある。これらの装置の用途は大部分が、放射線治療用であり腫瘍を対象としている。放射線治療計画や診断に各種放射線発生装置が使用されているが,エネルギー1MeV以下であることからここでは集計されていない。

詳細説明    :
 我が国の医療機関において、放射線発生装置は治療用、診断・検査用として利用されている。放射線としては、人工的・電気的に発生させた電子線、陽子線、その他のイオンビームなどがあり、また、電子を金属に当ててX線を取りだすような2次放射線もある。なお、その他の放射線源として、密封アイソトープ、非密封アイソトープがありこれらも医療機関で利用されている。
 
1.放射線使用事業所数について
 ここでは放射線発生装置の使用に限定して、その使用許可・届出をしている事業所数を図1に示す。放射線発生装置のみを使用している場合、発生装置と共に非密封RIまたは密封RIを使用している場合、さらに3者を共に使用している場合がありこれらを区別して示した。


図1 放射線発生装置の使用許可・届出事業所数の経時的変化(原論文1より作図)

放射線発生装置のみを使用している事業所の数(発のみ)は年々直線的に増加し、発生装置と密封RIを併用している医療機関数(発・密)も若干ながら増加していることがわかる。これは放射性同位元素より加速器を利用する傾向にあることを示す。発生装置と非密封RI併用(発・非)または3者併用機関数(発・密・非)はほぼ横這いである。
 
2.放射線発生装置の種類等について
 放射線発生装置は、電子源(銃)から出た電子またはイオン源からのイオンを電位差のもとで加速するものであり、加速方法により分類することが出来る。
 1)直流高電圧(静電場)加速方式
 2)高周波電場加速方式:直線加速器(リニアック)
 3)高周波電場・磁場加速方式:マイクロトロン、サイクロトロン等
 4)電磁誘導加速方式:ベータトロン
 上述の4機種が照射治療装置として集計されている。図2に、これらの装置の使用許可台数の経時的変化を示す。


図2 放射線発生装置の使用許可台数の経時的変化(原論文1より作図)

 直線加速器の台数が桁違いに多い。これは電子の加速に伴う放射損失がすくないこと、また、治療用に用いるX線への変換も効率よく起こり、X線エネルギーが20MeVの装置が市販されている。X線エネルギーに関しては、2種、3種に変換できる装置もある。また、陽子、重イオンの加速にも適している装置である。
 マイクロトロンは、電子を加速空洞に導きそこを通るたびに加速する、高エネルギーになるとより大きな円軌道を描く、本装置で20-30MeVのエネルギーが得られるもので医療用として開発された。
 サイクロトロンは、イオン加速用の装置でありプロトン(P)、ヘリウム(He)等の軽イオンの加速に使われ、単寿命RIの製造、治療用中性子源として利用されている。
 ベータトロンは、電子専用の加速装置である。円形磁石の磁場により電子を一定半径の円軌道に保ちながら、誘導電場を用いて加速する。磁場の強さを調節することによって電子を加速しながら一定の安定軌道を描かせることができ、30-40MeVの加速エネルギーを与えることができる。
 
3.放射線発生装置の用途
 リニアックサージャリ、Xナイフなどと呼ばれている放射線治療に置いては、直線加速器が多く利用されている。脳腫瘍などに対する定位放射線照射では、直線加速装置で得られた細いX線ビームを3次元的に多方向から精度良く、病変に照射する。呼吸性移動のある肺の癌や肺門部癌等の治療も、治療計画装置の発展により可能と成りつつある。治療計画装置では、X線位置決め装置、治療計画用CT装置も用いられている。
 放射性医薬品の製造には、小型サイクロトロンが活躍している。半減期が数日単位以下のラジオアイソトープを製造し、診断目的の臓器に適合する標識化合物を合成する方法がほぼ確立され、かなり多くの医療機関で実用されている。エネルギーが1MeV未満の放射線発生装置については、放射線障害防止法の適応外で設置に対して労働基準監督所への届出で十分であることから、医療機関においても多数台が設置されているものと思われる。例えば、輸血用血液製剤の照射に用いられているX線発生装置のエネルギーは、150kVである。

コメント    :
乳癌の温存療法が話題となってるが、それ以外の各種癌の放射線療法は、患者の生活を守る(QOL)観点から注目されている。放射線発生装置は、通電時のみ放射線の発生が可能であり、OFFの状態では放射線は発生していないという特徴があることから、一般の理解が得やすい装置であろう。

原論文1 Data source 1:
1.2 利用状況
監修 科学技術庁原子力安全局
放射線利用統計1998, 日本アイソトープ協会発行1998.10.

参考資料1 Reference 1:
7.放射線源には、どのようなものがあるのだろう?
大塚 徳勝
Q&A放射線物理 pp.216-234,1995 共立出版

キーワード:
分類コード:030103,030703,030704

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