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作成: 1999/01/04 鷲野 弘明

データ番号   :030112
肝脾疾患コロイドシンチグラフィー用注射剤:テクネチウムスズコロイド(Tc-99m)注射液及びフィチン酸テクネチウム(Tc-99m)注射液
目的      :肝脾疾患診断用99mTcコロイド注射液の説明
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :99mTc
応用分野    :医学、診断

概要      :
 コロイドシンチグラフィー用注射剤は、細網内皮系の異物貪食作用を画像化する放射性医薬品である。細網内皮系細胞は、肝臓や脾臓などに多いため、肝腫瘍・肝膿瘍・脾腫などの病的組織がこれらの臓器の一定部分を占拠するとき、それらの検出や診断に有用である。我が国では、テクネチウムスズコロイド(99mTc)注射液(以下99mTc-Sn colloid注射液)及びフィチン酸テクネチウム(99mTc)注射液などがある。

詳細説明    :
 
 コロイドシンチグラフィー用注射剤は、肝臓や脾臓などに存在する細網内皮系の異物貪食作用を画像化することにより、それらを有する臓器の機能や形態を診断する放射性医薬品である。我が国では、テクネチウムスズコロイド(99mTc)注射液(以下99mTc-Sn colloid注射液)及びフィチン酸テクネチウム(99mTc)注射液(以下99mTc-phytate注射液)の二種類があり、これらはいずれも同様の適用疾患及び効能効果をもつ。
 
 コロイドシンチグラフィーは、1954年Stirrettらの198Au-金コロイドによる試みが最初であり、彼らは細網内皮系への取り込みを利用して肝臓のイメージングを行った。その後、1964年Harperらが99mTc標識イオウコロイドによる肝脾イメージングを報告し、99mTcコロイド製剤の研究開発が活発化した。1972年にはLinらが99mTc標識スズコロイドを、1974年にはSubramanianらが99mTc標識フィチン酸を報告した。スズコロイド製剤は製剤調製の段階でコロイド化されるのに対し、フィチン酸製剤は静脈内投与されたのち血中Ca2+とキレート結合し、いわゆるインビボコロイドを形成する。いずれの注射液も、投与後速やかに肝臓や脾臓の細網内皮系細胞に捕捉され、肝臓や脾臓のシンチグラムを与える。細網内皮系細胞は、肝腫瘍・肝膿瘍などの病的組織には分布しないことが多いため、それらの検出や肝硬変・脾腫の診断に有用である。
 
 いずれの注射液も標識用キットが販売されており、緊急検査時にその場で注射液を調製(99mTc標識)して使用できる。テクネチウム-99m(99mTc)は、原子炉で生産される99Moより生成する物理的半減期6.01時間の放射性核種で、β線を放出せず、放出γ線のエネルギーは140.5keVでシンチグラフィーに適している。 
 
 
1. 99mTcコロイド注射液の組成
 
 99mTc-Sn colloid注射液及び99mTc-phytate注射液は、いずれも水性の注射液であり、有効成分、組成及び特徴は各々表1のとおりである。

表1 mTcコロイド注射液の組成・性状 A)99mTc-Sn colloid 注射液(参考資料2より) B)99mTc-phytate注射液(参考資料1より)
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A) 99mTc-Sn colloid注射液
組成   テクネチウム-99m(検定日時において)         111 MBq
     塩化第一スズ                                  0.38 mg
性状   無色澄明の液
pH   3.0〜4.0
浸透圧比 約0.5 (0.9 %塩化ナトリウム溶液に対する比)
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B)99mTc-phytate注射液
組成   テクネチウム-99m(検定日時において)       〜111 MBq
     フィチン酸ナトリウム(36水塩)                  5.0 mg
     塩化第一スズ(2水塩)                           0.5 mg
性状   無色澄明の液
pH   6.0〜7.0
浸透圧比 約1 (0.9 %塩化ナトリウム溶液に対する比)
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2. 99mTcコロイド注射液の効能又は効果
 
 肝脾シンチグラムによる肝脾疾患の診断
 
 
3. 99mTcコロイド注射液の用法及び用量
 
(1) 99mTc-Sn colloid注射液
 通常、成人には本注射液37〜111 MBqを肘静脈より投与し、投与後15〜30分以降にガンマカメラの検出器を被験部に向けて撮像し、肝臓あるいは脾臓シンチグラムを得る。
 
(2) 99mTc-phytate注射液
 調製用キットに日局 過テクネチウム酸ナトリウム(99mTc)注射液2〜8 mlを加え、よく振とうして99mTc-phytate注射液を得る。通常、成人には本注射液18.5〜111 MBqを肘静脈より投与し、投与後20〜30分以降にガンマカメラの検出器を被験部に向けて撮像し、肝臓あるいは脾臓シンチグラムを得る。なお、いずれの注射液も年齢・体重により適宜増減する。
 
 
4. 99mTcコロイド注射液の薬効薬理
 
 99mTcコロイド注射液の体内分布は、細網内皮系の分布、これを含む臓器の血流量の多寡及びコロイド成分の粒子径により決まる。ここで説明している注射液の場合、正常人では静脈内投与されたうちの約85 %は肝臓に集積し、残りは主に脾臓と骨髄に集積する。肝集積は、肝実質の約15 %を占める細網内皮系のKupffer細胞の異物貪食作用に基づく。
 
 
5. 99mTcコロイド注射液の体内動態
 
(1) 99mTc-Sn colloid注射液
 99mTc-Sn colloidは、健常人の静脈内に投与されると、急速に血液中より消失し主に肝臓に集積した。投与初期の血液消失半減期は約3分であり、その後24時間まで漸減傾向にあった。肝臓の放射能は、投与後15分で最高値に達した。
 
(2) 99mTc-phytate注射液
 99mTc-phytateも、健常人に静脈内投与すると、急速に血液中より消失し、肝臓に集積した。肝集積は投与後約11分で平衡に達し、肝臓からの消失半減期は投与後20〜30分の肝集積を基点とすると約6時間であった。
 
 
6. 99mTcコロイド注射液の臨床適用
 
 99mTc-Sn colloid注射液では、臨床試験の結果以下の疾患で有用性が認められた。
 肝腫瘍、肝硬変、肝炎、肝膿瘍、脾腫など。
 臨床例を図1,2に示す。



図1 肝のう胞患者における99mTc-Sn colloidシンチグラフィーの例 (原論文1より引用)

 (a) 99mTc-Sn colloid プラナー像(1:前面像、2:後面像、3:右側面像、4:左側面像)。
 (b) SPECT像(体軸横断像)
 左のプラナー像では明瞭に描出できなかった肝臓内のう胞が、SPECT像では明瞭に欠損像として明瞭にとらえられた。



図2 アルコール摂取による高度肝機能障害患者における99mTc−phytateシンチグラフィーの例(原論文2より引用)

 この患者は、全身倦怠感と黄疸で来診し、長年にわたる飲酒暦と肝機能指標から肝機能障害が指摘された。初診時の肝プラナー像では、著明な斑紋状のRI不均一分布〜欠損と肝腫大を認め、SPECT像では高い集積が限局性に認められた。腹腔鏡肉眼所見より、限局性脂肪浸潤が見られた。約5ヶ月間の禁酒・食事指導により、この患者の状態は改善し、画像上でも改善が裏付けられた。この症例は、Kupffer細胞の動態と脂肪浸潤過程の関連を示唆する興味深い症例である。
 
 
7. 99mTcコロイド注射液の副作用
 
 臨床試験及びその後の副作用頻度調査において特に副作用は認められていない。


コメント    :
 今日、肝臓などを占拠する腫瘍の検出という点では、99mTcコロイド注射剤の役割はCTやMRIに置き換えられつつある。

原論文1 Data source 1:
肝の核医学診断
久田 欣一、油野 民雄

“核医学診断 肝・胆道”、日本メジフィジックス株式会社、1984年

原論文2 Data source 2:
肝シンチグラムにて不均一分布を呈した興味ある症例1例
工藤 正俊、藤堂 彰男、北浦 保智 ほか

第18回核医学症例検討会症例集、p.1、“核医学 症例検討会 症例集、vol. 5”、1883

参考資料1 Reference 1:
放射性医薬品基準 フィチン酸テクネチウム(99mTc)注射液調製用
(社)日本アイソトープ協会
インビボ放射性医薬品添付文書集(平成7年度), p.74-75

参考資料2 Reference 2:
放射性医薬品基準 テクネチウムスズコロイド(99mTc)注射液調製用
(社)日本アイソトープ協会
インビボ放射性医薬品添付文書集(平成7年度), p.100-101

キーワード:画像診断, diagnostic imaging,放射性医薬品,radiopharmaceutical, 99mTc-Snコロイド, 99mTc-Sn colloid, 99mTc-フィチン酸, 99mTc-Sn phytate, 肝臓, liver, 脾臓, spleen,細網内皮系, reticuloendothelial tissue,肝腫瘍, liver cancer
分類コード:030502, 030301, 030403

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