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作成: 1999/01/04 遠藤 啓吾

データ番号   :030111
心臓シンチグラフィー用注射剤:I-123-メタヨードベンジルグアニジン(I-123)注射液
目的      :心臓シンチグラフィー用123I-MIBG注射液の説明
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :123I
応用分野    :医学、診断

概要      :
 123Iメタヨードベンジルグアニジン注射液は、心臓の血液循環機能を調節する自律神経系のひとつ交感神経系の機能を画像化する放射性医薬品である。本注射液は、心交感神経終末のノルアドレナリン貯蔵顆粒に取り込まれ、心筋内カテコールアミン動態を反映した画像を与えると考えられる。狭心症・心筋梗塞・心筋症などの心疾患における全体的あるいは局所的な交感神経機能(喪失や回復)の評価に有用である。

詳細説明    :
 
 心臓シンチグラフィー用注射剤は、心臓のもつ様々な機能や病態の診断を目的とする診断用放射性医薬品である。心疾患の画像診断剤には、心筋症・心筋梗塞における心筋血流状態を診断する注射液(201TlCl、99mTc-HMPAO、99mTc-ECD)、心臓のエネルギー代謝を診断する注射液(123I-BMIPP)、心臓のポンプ機能を診断する注射液(99mTc-DTPA-HSA)及び心臓の交感神経支配を診断する123Iメタヨードベンジルグアニジン注射液(以下 123-MIBG注射液)がある。
 
 心臓には交感神経が豊富に分布しており、心交感神経は、副交感神経とともに自律神経系による循環調節に重要な役割を果たしている。1976年Fowlerらは、心交感神経機能を生理的状態で画像化するため、ポジトロン放出核種C-11で標識した神経伝達物質ノルアドレナリンを合成し、イヌ心臓に集積する様子を撮像した。1980〜1981年Wielandらは、グアネチジン誘導体のヨード標識体を合成し、イヌやサルにおける体内動態を研究した。これは、交感神経遮断性降圧剤であるグアネチジンが副腎髄質や交感神経終末にノルアドレナリンと同じ機序で取り込まれることに着目した研究であった。その中で131I標識メタヨードベンジルグアニジン(MIBG)が、副腎髄質や心臓に集積することを見出した。次いで、Wielandらは、123I標識MIBGでイヌ・サル及び男性健常者の心臓を描出することに成功した。
 
 123-MIBGの心集積は、レセルピンで阻止されることから、心交感神経終末のノルアドレナリン貯蔵顆粒への取り込みに基づき、心筋内カテコールアミンの動態を反映すると考えられる。123I-MIBG注射液は、現在、狭心症・心筋梗塞・心筋症などの心疾患における全体的あるいは局所的な交感神経機能(喪失や回復)を検出する診断剤として利用されている。
 ヨウ素-123(123I)は、サイクロトロンで生産される物理的半減期13.2時間の放射性核種で、β線を放出せず、159keVのγ線エネルギーはシンチグラフィーに適している。
 ここでは、我が国で販売されている123-MIBG注射液(以下 本注射液)を例に説明する。
 
 
1. 123I-MIBG注射液の組成
 本注射液は、水性の注射液で、123Iをヨードベンジルグアニジン(123I)の形で含む。注射液の組成や特徴は、表1に示した。

表1 メタヨードベンジルグアニジン(123I)注射液の組成・性状(参考資料1より引用)
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組成   ヨウ素-123(検定日時において)          111 MBq/1.5 ml
     メタヨードベンジルグアニジン             極微量
性状   無色澄明の液
pH   4.0〜5.0
浸透圧比 約1 (0.9 %塩化ナトリウム溶液に対する比)
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2. 123I-MIBG注射液の効能又は効果
 
 心シンチグラフィーによる心臓疾患の診断。
 
 
3. 123I-MIBG注射液の用法及び用量
 
 通常、成人には本注射液111 MBqを肘静脈より投与し、投与後15分以降にガンマカメラの検出器を被験部に向けて撮像し、心シンチグラムを得る。必要に応じて、投与後3〜6時間後にも撮像する。また、運動負荷時投与の心シンチグラムも診断上有用である。なお、投与量は、年齢・体重により適宜増減する。
 
 
4. 123I-MIBG注射液の体内動態
 
(1) 動物における体内動態
 123I-MIBG注射液をラットに静脈内投与すると、血液中より速やかに消失し、投与後30分では投与量の各々2.3%/心臓、9%/肝臓、13%/小腸、2.7%/大腸、4.7%/肺に集積した。主たる排泄経路は腎尿路系であり、尿中排泄はきわめて速やかであった。
 
(2) ヒトにおける体内動態
 123I-MIBG注射液は、健常人に静脈内投与すると心臓に速やかに分布する。血液中放射能濃度は、投与後1時間までは急速に減少し、その後は漸減する傾向を示した。血中消失半減期は、初期相で11.6〜15.1分、後期相で7.39〜9.46時間であった。尿中排泄は、投与後4時間までに投与量の30〜40%、投与後24時間までに平均66%であった。
 123I-MIBGは、静脈内投与後冠血流にのって心臓に達すると、心交感神経終末のノルアドレナリン再摂取機構、いわゆるuptake-1を介して主としてノルアドレナリン貯蔵顆粒に取り込まれる。しかし、ノルアドレナリンとは異なり、カテコールアミン受容体には結合せず、またカテコール-o-メチル転移酵素(COMT)やモノアミン酸化酵素(MAO)による代謝を受けない。
 
 
5. 123I-MIBG注射液の臨床適用
 
 心筋梗塞・狭心症・心筋症など822例を対象にした臨床試験の結果、781例(95%)において以下のとおり有用性が認められた。
 図1、図2に臨床例を示す。
 
 心筋梗塞及び不安定狭心症などの虚血性心疾患:除神経領域の検出
 運動負荷時投与の心筋梗塞及び労作性狭心症:虚血に先行する交感神経機能障害の検出
 心筋症:心集積の程度や局所的な無集積の経過観察による病態の定性的評価



図1 大動脈弁閉鎖不全症(AR)及び僧帽弁閉鎖不全症(MR)における弁置換手術前後の123I-MIBG心筋集積の変化 上:ARの術前(pre AVR)と術後(post AVR)30日目における123I-MIBG投与4時間後のSPECT像(短軸像)。心臓縦隔比(H/M)は術前には1.86だったが術後2.14に改善し、クリアランスも42 %から30 %まで改善した。 下:MRの術前と術後43日目におけるSPECT像(体軸横断像)。心臓縦隔比及びクリアランスともに改善した。  123I-MIBGの心筋集積は、心臓交感神経機能を反映している。心不全は、この交感神経機能と密接に関連するとされ、123I-MIBG心筋イメージングから心疾患の重症度判定の可能性が期待される。図1は、弁置換手術により症状改善と共に123I-MIBGの心筋集積が改善した例である。 (原論文1より引用)



図2 腎不全患者における心筋障害が腎移植により改善した例 腎移植前(4月13日)及び移植後(7月20日)の123I-MIBG心筋SPECT像(体軸横断像)で、Initial及びDelayedは各々123I-MIBG投与20分後及び155分後から撮像された。腎移植前のDelayedでは、左室心筋像はほとんど消失していたが、移植後ではInitialと同程度まで改善した。心機能の改善が集積画像で具体的に示されている。 (原論文2より引用)


6. 123I-MIBG注射液の副作用
 
 臨床試験の1,108例について安全性の評価を行った結果、血管痛1例が認められた。

コメント    :
 本注射液は、現在心不全の予測や診断に利用されている。

原論文1 Data source 1:
弁膜症における123I-MIBG心筋シンチグラフィの有用性
寺田 幸治、志賀 浩治、伊藤 一貴 他
京都府立医科大
循環核医学研究会 ミオMIBG/カーディオライト 1994 No.3、p.58、第一ラジオアイソトープ研究所 刊

原論文2 Data source 2:
腎不全患者における123I-MIBG心筋集積障害
倉田 千弘、俵原 敬、岡山 憲一 他
浜松医科大
循環核医学研究会 ミオMIBG/カーディオライト 1994 No.3、p.77、第一ラジオアイソトープ研究所 刊

参考資料1 Reference 1:
放射性医薬品基準 メタヨードベンジルグアニジン(123I)注射液
(社)日本アイソトープ協会
インビボ放射性医薬品添付文書集(平成7年度), p.46-47

キーワード:画像診断, diagnostic imaging, 放射性医薬品, radiopharmaceutical,123I-メタヨードベンジルグアニジン, 123I-metaiodobenzylguanidine, 123I-MIBG,心臓, heart, 心筋症, cardiomyopathy, 心不全, cardiac failure, 交感神経機能,cardiac sympathetic nervous system
分類コード:030502, 030301, 030403

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