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作成: 1999/03/09 山本 和高

データ番号   :030110
脳梗塞超急性期の画像診断
目的      :血栓溶解療法の効果が期待できる超早期脳梗塞に対するCT、SPECT、MRIの紹介
放射線源    :X線管、99mTc

概要      :
 脳細胞は、一旦、壊死してしまうと二度と再生しない。脳梗塞発症後6時間以内の超急性期には、組織プラスミノーゲン(t-PA)などを用いる血栓溶解療法により、脳虚血部が壊死するのをくいとめることができる。脳梗塞超急性期にはX線CTでは著明な異常所見を示さず、治療方針の決定には、脳血流SPECTやMRIの拡散強調画像や灌流画像などを行い、可逆的な病変の有無、範囲、脳内血行動態を把握することが重要である。

詳細説明    :
 脳梗塞は、いわゆる脳卒中として発症するので、まず、脳出血、くも膜下出血など他の疾患と鑑別する必要があるが、これにはX線CTが適している。CTで認められる脳梗塞巣の領域が明瞭な低吸収域は、脳組織の不可逆的な変化を示唆しており、血栓溶解療法の適応は無いと考えられる。低吸収域が認められる以前に、灰白質のCT値のわずかな低下、脳腫脹による脳溝の狭小化などの所見が認められることがあり、early CT signと呼ばれるが、これが無いか、あるいは狭い領域に限定された症例の方が良好な治療結果が得られたと報告されており、early CT signの詳細な読影は血栓溶解療法の適応の判定に重要な要素となる。また、CTangiography(CTA)はMRAよりも血管内腔を忠実に描出し、壁在血栓、石灰化の評価が可能で、中大脳動脈主幹部等の閉塞の評価に有用で、側副血行路の検出にも優れている。図1に、脳梗塞発症2.5時間後のX線CTと脳血流SPECT像を示す。


図1 脳梗塞発症2.5時間後のX線CTと脳血流SPECT。 a)X線CT像 b)脳血流SPECT像(原論文1より引用)

 患者(68歳男性)の脳梗塞発症後のCTでは明確な異常を指摘できないが、SPECTでは左中大脳動脈領域に広範な欠損像が認められる。脳血流SPECTは、ジェネレータから抽出される99mTcで簡単に標識できる脳血流イメージング製剤(99mTc HMPAO、99mTc ECD)を用いれば、緊急の検査にも対応することができる。脳梗塞発症直後より明確な欠損像を示し、灌流異常を鋭敏に捉えることができるが、CTやMRIに比較すると分解能が低いため、小さな病巣の検出、脳虚血の範囲の詳細な評価にはあまり適していない。また、血栓溶解療法により改善が期待される部位の同定も困難である。
 び慢性脳血流低下の検出、治療効果の判定、経過観察などにおける脳血流SPECTの有用性を高めるために、非侵襲的で簡便な、かつ精度の高い局所脳血流量定量法の開発、普及が望まれる。
 MRIでは、EPI(Echo planar imaging)を用いた拡散強調像を用いると、発症1時間以内でも異常な高信号を示し、超急性脳梗塞の範囲を診断できるようになった。陳旧性脳梗塞の病巣は高信号を示さないので鑑別できる。しかし発症12時間後でも拡散強調像で異常所見を指摘できなかった症例もあり、今後の検討を要する。拡散強調画像で高信号を示す領域は虚血により細胞が膨化した状態と考えられ、ほとんどは脳梗塞になってしまうが、適切な治療を行えば梗塞に陥らない可逆的な部分もある。
 ガドリニウム(Gd)造影剤を急速静注し、連続的にT2*強調高撮像を行うと、高濃度のGdが血管内を通過する時に血管周囲のプロトンとの間に局所の磁場の不均一を生じ、脳血流量に比例して一過性の信号低下を示すので、その時間-信号曲線から局所脳血流動態を評価することができ、この曲線のパターンだけでも梗塞になってしまうかどうかの予後を、ある程度は推定することができる。拡散強調画像で異常所見がなく、灌流画像で血流低下を示す部位は治療により回復が期待できる。図2に、右中大脳動脈の脳梗塞症例を示す。


図2 脳梗塞発症後24時間におけるMRI画像。a)エコープラナーイメージング(EPI)による超高速撮像 b)造影剤ボーラス注入後の時間-信号強度曲線(曲線1,2,3は、a)の1,2,3の領域に対応する) c)曲線b)を基に作成された灌流画像 d)拡散強調像(DWI)(原論文2より引用)

 発症後24時間でのイメージで、超急性期ではないがT2強調像(a)よりも拡散強調像(d)の方が明瞭な高信号域を示している。Gd造影剤急速静注後の関心領域(a-1,-2,-3)の時間-信号曲線(1,2,3)において病変部(2)では信号低下がほとんど見られない。このデータから作成された灌流画像では右中大脳動脈領域に広範な血流異常が認められる。
 MR angiographyは、閉塞あるいは狭窄血管の診断に有用であるが、狭窄部に発生する乱流のため、過大評価されがちとなるので注意を要する。また、脳表のflow voidは皮質枝間の側副血行路(leptomeningeal anastomosis)を示唆する所見である。
 脳梗塞超急性期の治療にはt-PAの静脈内投与ばかりではなく、閉塞脳血管の近傍に選択的にカテーテルを挿入して治療するinterventinal radiology(IVR)の手法を用いる積極的な血栓溶解療法も行われるようになっている。適切な治療を行うためには、より短時間に、より正確で詳細な診断を行うことが重要である。 

コメント    :
 不適切な血栓溶解療法は、出血性脳梗塞を引き起こし病状をかえって悪化させる危険性もある。虚血に陥っているが、まだ壊死にはいたっていない脳組織を的確に診断することが、血栓溶解療法の適応を決定するのに重要である。MRIでも新しい撮像法が研究されているが、簡単で理解しやすい方法はまだない。核医学検査の特徴を生かして、生存性のある脳虚血部のみに集積するような新しい放射性医薬品の開発され、緊急検査にも利用できるようになることが期待される。

原論文1 Data source 1:
4.核医学
松田 博史
国立精神・神経センター武蔵病院放射線診療部
日本医学放射線学会雑誌 58(12),付録(脳梗塞の画像診断),pp.16-20,1998

原論文2 Data source 2:
MRI高速撮像法の臨床応用-機能画像およびMR angiographyを中心に-
石原 眞木子、林 宏光、天野 康雄、高木 亮、他10名
日本医科大学放射線科
映像情報MEDICAL 30(18);1143-1150, 1998

キーワード:脳卒中,cerebral apoplexy,脳梗塞,cerebral infarction,脳血流SPECT,brain perfusion SPECT,拡散強調画像,diffusion weighted image,灌流画像,perfusion image,血栓溶解療法,thrombolytic therapy
分類コード:030301,030401,030502

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