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作成: 1999/03/03 山本 和高

データ番号   :030107
Tc-99m DMSA腎シンチグラフィによる腎瘢痕の検出
目的      :Tc-99m DMSAを用いる腎静態シンチグラフィにより腎盂腎炎後に生じる腎瘢痕の診断法の紹介
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :Tc-99m
応用分野    :医学、診断、非破壊検査

概要      :
 腎盂腎炎の病巣部は、この感染症を抗生物質等で治癒した後に、腎瘢痕を形成することがある。上部尿路感染症を繰り返すと腎瘢痕も拡大する恐れが高くなる、とくに膀胱尿管逆流のある乳幼児は、その危険性が高い。99mTc DMSAを用いる腎静態シンチグラフィは、腎瘢痕の検出に優れ、背側180°データ収集のSPECTが欠損の描出、検査時間の短縮に有用である。

詳細説明    :
 腎の核医学検査に使用される放射性医薬品には、糸球体からろ過される99mTc DTPAや、近位尿細管から尿中に分泌される99mTc MAG3がある。近位尿細管分泌物質として123I Hippuranも用いられたが現在は販売されていない。これらの速やかに尿中に排泄される放射性医薬品に対し、99mTc DMSA(dimercaptosuccinic acid)は尿中にはわずかしか排泄されず、腎皮質に集積し、そこに留まるので腎静態画像検査に用いられる。ここでは腎静態シンチグラフィによる腎瘢痕の検出について紹介する。99mTc DTPAまたは99mTc MAG3を用いる腎動態シンチグラフィについては別の要素データを参照されたい。
 
1.腎静態シンチグラフィの特徴
 99mTc DMSAを用いる腎静態シンチグラフィでは、腎のみを良好なコントラストで描出することができるので、腎の形態や位置を簡単に評価でき、腎萎縮、遊走腎、馬蹄腎などの診断に利用できる。しかし、腎皮質の欠損をきたす腎腫瘍や腎のう胞などはいずれも同じように欠損像を示すので鑑別診断には特異性が乏しく、超音波検査やCTの方が有用であり、腎静態シンチグラフィはほとんど利用されない。
 腎盂腎炎などの上部尿路感染症により病変部が線維化した腎瘢痕(renal scar)の検出には、腎静態シンチグラフィは超音波検査よりも優れており、99mTc DMSAを用いる腎シンチグラフィの良い適応となる。上部尿路感染症は、膀胱尿管逆流(vesico-ureteral reflux, VUR)のある乳幼児に繰り返して発症することが多いので、腎静態シンチグラフィの対象は乳幼児が多くなり、腎瘢痕の診断も成長後まで長期間にわたり観察していく必要がある。
 検査法は99mTc DMSAを静注し、2〜4時間後に背面像、左右後斜位像を撮影する、またSPECTのデータを収集することもある。通常は185MBq程度が投与されるが、乳幼児への投与量は体重などを勘案して調整する。乳幼児では、検査時間はできるだけ短くするのが望ましい。そのため多検出器型ガンマカメラを用いたり、SPECTのデータ収集も背部の180°だけにするといった工夫が必要である。
 
2.腎静態シンチグラフィによる診断
 図1に尿路感染症を繰り返す症例の腎シンチグラムを示す。


図1 尿路感染症を繰り返す症例の99mTc DMSA腎シンチグラム。a)初診時、b)半年後、右腎に楔状の集積低下(矢印)が出現している。c)4年後、右腎の放射能集積が低下している。(原論文1より引用)

 本症例の初診時には特に異常を認めないが、半年後には右腎に楔状の集積低下部が出現し、4年後には右腎の放射能集積がかなり低下している。腎瘢痕の拡大による機能性腎皮質組織の減少がうかがわれる。左右の腎臓の放射能摂取率を算出すれば、各々の腎機能を定量的に評価することもできる。図2に、SPECTの冠状面断層像を示す。


図2 背側180°収集のSPECT冠状断層像(左)の方が360°収集のSPECT像(右)よりも欠損(矢頭)を明瞭に描出している。 (原論文2より引用。 Reproduced by permission of the Society of Nuclear Medicine from Peng N-J, et al. Posterior 99mTc-dimercaptosuccinic acid renal SPECT; Journal of Nuclear Medicine. 1999; 40:60-63, Figure 2 (p.62).)

 背側180°収集の断層像の方が、360°全周のデータから再構成したイメージよりも、むしろ欠損を明瞭に描出している。またSPECT像を用いて腎臓の99mTc DMSA 取り込み率を定量化し、腎機能をより正しく評価しようとする試みも行われている。
 VURが証明されない症例においても、同様な欠損像が認められることがあり、尿路感染症の既往を示唆する所見と考えられている。ただし、腎皮質の欠損像は腎瘢痕に特異的な所見ではないので、少なくとも超音波検査で腎のう胞等の異常所見が見られないことを確認する必要がある。

コメント    :
 99mTc DMSAを用いる腎静態シンチグラフィは、所見の特異性に乏しく、分解能もあまり高くないが、腎機能を画像化しているという特徴がある。この検査の有用性を高めるためには、吸収や散乱などを補正し、局所腎機能を正確に定量的に評価できるようにする必要があると考えられる。また、検査対象の多くが乳幼児であることを考慮すると、被曝の減少、検査時間の短縮などに一層の努力をはらうべきであろう。

原論文1 Data source 1:
泌尿器のRIイメージング
伊藤 和夫
札幌鉄道病院
日本医学放射線学会雑誌 58(14), pp. 1998

原論文2 Data source 2:
Posterior 180 99mTc-dimercaptosuccinic acid renal SPECT
Peng N-J, Kwok CG, Chiou Y-H, et al.
Veterans General Hospital, Kaoshiung
J. Nucl. Med.,40(1),pp.60-63, 1999

参考資料1 Reference 1:
Quantitative SPECT uptake of 99mTc-dimercaptosuccinic acid by the kidneys in chldren
Groshar D, Gorenberg M
Bnai Zion Medical Center
J. Nucl. Med.,40(1),pp.56-59,1999

キーワード:腎シンチグラフィ、renal scintigraphy、Tc-99m DMSA、腎瘢痕、renal scar、膀胱尿管逆流、vesico-ureteral reflux, VUR、腎盂腎炎、pyelonephritis、上部尿路感染症、upper urinary tract infection、
分類コード:030301,030401,030501

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