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作成: 1999/01/20 山本 和高

データ番号   :030106
び慢性甲状腺疾患の核医学的診断
目的      :び慢性甲状腺疾患における核医学検査の方法、所見、有用性の紹介
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :Tc-99m、I-123
応用分野    :医学、診断、非破壊検査

概要      :
 甲状腺は甲状腺ホルモンを合成し、貯蔵、分泌する。甲状腺ホルモンはヨウ素を含んでおり、放射性ヨウ素をトレーサーとして利用すると甲状腺が描出され、その摂取率より甲状腺機能を評価できる。99mTcパーテクネテートも同様に甲状腺イメージングに用いられる。甲状腺シンチグラフィは、バセドウ病や慢性甲状腺炎などのび慢性甲状腺疾患の診断に有用である。

詳細説明    :
 甲状腺疾患の頻度は高く、例えば軽度の甲状腺機能低下症は60才以上の約20%に認められ、特に女性に多い。甲状腺ホルモンが過剰になると、発汗増加、心悸亢進、体重減少などの症状があらわれ、甲状腺機能低下症では、易疲労感、寒がり、便秘などといった様々な症状を示すことがあるが、いずれも非特異的な全身症状が多いので、よく注意して甲状腺疾患の可能性について認識しなければならない。前頚部の視診や触診などに続いて、脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)と甲状腺ホルモン(トリヨードサイロニン:T3、遊離サイロキシン:free T4など)の血中濃度が測定され、画像検査としては甲状腺シンチグラフィや超音波検査が行われる。
 
1.甲状腺シンチグラフィの検査法
 甲状腺は、甲状腺ホルモンを合成するためにヨードを取り込むので、放射性ヨードを投与すると甲状腺が描出される。以前は131Iが使われたが、半減期が長く(8.02日)、β線も放出するため被曝線量が大きいので、現在は半減期が短く(13.3時間)、γ線のみを放出する123Iが利用されている。
 放射性ヨードを用いる甲状腺シンチグラフィでは、検査前10日〜2週間のヨード制限が必要である。日本では昆布などヨードを多く含む海藻類を摂取する機会が多く、外来では十分なヨード制限を行うことは容易ではない。CTなどでヨード造影剤を投与されると次の検査には、少なくとも1ヶ月程度の間隔をあける必要がある。
 123Iカプセルを経口投与し、4時間後および24時間後に撮像し、甲状腺ヨード摂取率も測定する。123Iは甲状腺への集積率が高く、バックグラウンドの少ないイメージが得られ、取り込み機能とホルモン合成機能の両者を評価することができる。
 99mTcパーテクネテートは、イオントラッピングにより甲状腺に取り込まれる。99mTcパーテクネテート185MBqを静脈注射し、20分後に撮像する。甲状腺の取り込み率は0.4〜3%と、123Iより低いが、投与量が多いので画質は悪くない。123Iと異なりホルモン合成障害は評価できず、甲状腺のイオン取り込み機能しか判定できないが、ヨード制限が不要であり、99Mo−99mTcジェネレータがあれば、いつでも簡単に検査できるので、123Iを用いる甲状腺シンチグラフィより繁用されている。
 
2.び慢性甲状腺疾患の診断
 バセドウ病ではTSHは低下し、甲状腺ホルモンは高値となり、TSHレセプター刺激抗体が検出される。甲状腺シンチグラムでは、び漫性に取り込みが亢進する。甲状腺は腫大するが、著明な変形はないことが多く、錘体葉が描出されることもある。中毒性甲状腺腫(プランマー病)でも同様に甲状腺機能亢進症状を示すが、甲状腺シンチグラムでは腫瘤部のみが陽性描画され、簡単に鑑別できる。前もって甲状腺ホルモンの1種であるT3を投与したのちに甲状腺シンチグラフィを行うT3抑制試験はバセドウ病の治療効果の評価などに有用である。図1に、甲状腺シンチグラムの一例を示す。


図1 99mTcパーテクネテートによる甲状腺シンチグラム例1。 a)バセドウ病。 b)慢性甲状腺炎。(原論文1より引用)

 a)はバセドウ病の例であり、甲状腺での99mTcの取り込みが亢進していることがわかる。b)は慢性甲状腺炎(橋本病)の例であり、甲状腺は変形し、99mTcの分布も不均一である。慢性甲状腺炎は甲状腺自己抗体が陽性であるが、甲状腺機能は病態によりさまざまである。軽度の甲状腺機能低下ではnegative feedbackによりTSHの分泌が亢進し、甲状腺ホルモン値は正常範囲内であるが、甲状腺シンチグラフィでは取り込みは増加する。ホルモン合成機能は低下するので123Iでは、24時間後に放射能の低下が見られる。甲状腺の組織破壊が亢進している時期には、組織に保存されていた甲状腺ホルモンが血中に放出されるため、TSHの分泌が抑制され、甲状腺シンチグラフィでは取り込みが低下する。さらに病期が進んで甲状腺の組織破壊の結果、広範な線維化が起こり甲状腺組織がほとんど消失してしまうと、血中TSHが増加していても、トレーサーの取り込みは低下してしまう。甲状腺の大きさは正常〜腫大とさまざまで、変形を伴うことが多い。
 図2に、別の症例を示す。


図2 99mTcパーテクネテートによる甲状腺シンチグラム例2。  a)亜急性甲状腺炎。d)異所性甲状腺。

 a)亜急性甲状腺炎では、甲状腺はほとんど描出されず、唾液腺(矢印)などが認められる。患者は、前頚部の疼痛を自覚することが多い。これらは、甲状腺の組織破壊により一時的に多量の甲状腺ホルモンが放出され血中TSHが低下することによる。
 b)は、び慢性甲状腺疾患ではないが、異所性甲状腺患者のシンチグラムである。この症例では、本来の甲状腺の部位には放射能集積がなく、口底部(矢印)に取り込みがみられる。このような甲状腺が本来の場所にないような異所性甲状腺の検索にも、甲状腺に特異的に集積するトレーサーを用いるシンチグラフィは有用であることがわかる。

コメント    :
 甲状腺線疾患の頻度は高いが、特徴的な症状に乏しい症例も多いために、更年期障害、自律神経失調症、心機能障害といった他の疾患として治療されている患者も案外少なくはない。甲状腺機能低下症は、適切な甲状腺ホルモン補充療法により正常と同じ状態に改善することができる。その意味でも正しい診断、病態の把握は重要である。医師は甲状腺疾患の可能性について留意し、疑わしい症例に対しては積極的にTSHなどの血中ホルモン測定や甲状腺シンチグラフィを実施すべきであると考える。

原論文1 Data source 1:
甲状腺
池窪 勝治
神戸中央市民病院
シンチグラム臨床の全て、pp.3-25, 金芳堂

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分類コード:030301,030401,030501,

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