放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 1998/12/21 山本 和高

データ番号   :030105
Tc-99m MAA(粗大凝集アルブミン)を用いる肺血流シンチグラムとRI venography
目的      :肺塞栓症および下肢静脈血栓症の画像診断の紹介
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :Tc-99m
応用分野    :医学、診断

概要      :
 肺塞栓症の診断は胸部単純X線写真では容易ではない。99mTc標識粗大凝集アルブミン(MAA: macro-aggregated albumin)を用いる肺血流シンチグラムは、塞栓された肺動脈の領域に一致して明瞭な欠損像を示し、肺塞栓症の有無、その範囲を簡単に診断することができる。Tc-99m MAAを足背静脈より投与して撮像するRI venographyを行えば、下肢静脈血栓症の診断も同時に可能である。

詳細説明    :
 肺塞栓症は、下肢〜骨盤部の静脈に形成された血栓が離れて、血流に乗って移動し右心系を経て肺動脈を塞栓し、その領域の肺血流を遮断してしまう疾患である。症状としては呼吸困難、胸痛、血痰などが出現する。アメリカでは年間3000人以上が肺塞栓症で死亡しているが、日本では重篤な肺塞栓症の発生はマレである。しかし、肺塞栓症は胸部単純X線写真では診断が困難であり、見逃される可能性もある。高齢化社会では、例えば大腿骨頚部骨折などにより寝たきりとなって静脈血がうっ滞する状態が続くと静脈血栓が形成されやすくなるので、肺塞栓症を発症する危険性も高まると考えられる。
 肺塞栓症では、早期に血栓溶解療法を開始する必要があり、また、心筋梗塞、解離性胸部大動脈瘤等との鑑別も重要である。99mTcで標識された粗大凝集アルブミン(MAA: macro-aggregated albumin)を用いる肺血流シンチグラフィは、肺血流分布像を簡単に得ることができ、肺塞栓症の診断に有用な検査法である。
 99Mo-99mTcジェネレータより抽出した99mTcパーテクネテートを99mTc MAA標識用キットに加え、ゆっくりとよく混和する。標識された99mTc MAA 185〜370MBqを仰臥位で静注する。MAAの直径は毛細管径よりも大きいので、静脈内に投与された99mTc MAAは、肺の細動脈〜毛細管レベルで塞栓を起こし、その場に留まるので血流分布に応じたシンチグラムを得ることができる。99mTc MAAにより一時的に塞栓される肺血管床は正常では1%以下にすぎないが、広範な肺塞栓症の疑われる患者には高濃度99mTcで標識して、その一部のみを使用し、投与するMAAの量をできるだけ少なくする。シンチグラムを前、後、左右側面、および左右後斜位から撮像する。SPECT撮影が行われることもある。ただし、重篤な症状を示す場合は肺塞栓の範囲も広いと考えられ、前面像または後面像1枚のみでも診断可能であり、それだけで検査を終了することもある。肺塞栓症の肺血流シンチグラムを図1に示す。


図1 肺塞栓症の肺血流シンチグラム。a)前面像 b)後面像 c)左後斜位像(原論文1より引用)

 a)前面像で左肺の放射能の顕著な低下とともに肺区域に一致するくさび状の欠損像(→)が認められ、b)後面像およびc)左後斜位像では、右下肺野にも欠損(→)が認められる。肺塞栓症では、局所肺換気には異常は生じないので換気シンチグラムでは欠損にならず、不一致(miss-match)を示すのが特徴的であるが、換気シンチグラムには81mKr、133Xeといった放射性ガスが必要であり、これらの核種は緊急には入手できない。典型的な症例では、臨床所見、胸部単純X線写真、肺血流シンチグラムなどより肺塞栓症の診断は容易で、換気シンチグラムの必要性は低い。治療後に肺血流シンチグラフィを再検すれば、閉塞していた肺動脈の再開通の有無を診断することができるので、治療効果の判定、経過観察にも有用である。
 可能であれば、足背部の静脈から99mTc MAAを投与するRI venographyを行えば、肺塞栓症の原因となる下肢〜骨盤部の深部静脈血栓症(deep vein thrombosis、 DVT)も同時に診断することができる。先ず、足背静脈を穿刺して、足踝部で圧迫して表在静脈への血流を遮断した状態で生理食塩水で希釈した99mTc MAAをゆっくりと持続的に静注しながら、下腿〜大腿部〜骨盤部(上腹部)までシンチグラムを撮像する。続いて足踝部の圧迫を除去して、同様に99mTc MAAを静注しながら下腿〜腹部を撮像する。静脈血栓に99mTc MAAが付着するとhot spotを示すので遅延像も観察する。投与された99mTc MAAは肺に集積するので、引き続いて肺血流シンチグラムを得ることができる。図2は図1と同じ症例のRI venographyを示す。


図2 図1と同じ症例のRI venography。(原論文1より引用)

 右膝部で深部静脈が途絶(→)し、側副血行路が描出されており、遅延像でhot spotも認められ深部静脈血栓症と診断され、肺塞栓症との関連が考えられた。
 肺血流シンチグラフィは、それのみでは検査時間は数分程度と短く、非侵襲的であり、肺塞栓症の疑われる患者に対しては有用な検査法である。

コメント    :
 肺血流シンチグラムは肺塞栓症を簡単に、明確に診断できる有用な検査法であるが、我が国では、救急核医学検査は法律的な制約もありほとんど行われていない。心筋梗塞を診断する99mTc心筋血流製剤を用いる心筋血流シンチグラムなどと共に、救急医学に役立つ核医学検査であり、今後、積極的に利用されることを期待する。

原論文1 Data source 1:
救急疾患画像診断アトラス RI/PET/SPECT
山本 和高、土田 龍郎、石井 靖
福井医科大学放射線科
綜合臨牀 1996増刊 Vol.45,p1260-1265

キーワード:肺塞栓症,pulmonay embolism,肺血流シンチグラム,pulmonary perfusion scintigram,静脈血栓,venous thrombus,RI venography,radionuclide venography,深部静脈血栓症,deep venous thrombosis,救急医療,emergency medicine
分類コード:030301, 030403, 030502

放射線利用技術データベースのメインページへ