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作成: 1999/01/18 澁谷 仁志

データ番号   :030097
歯科における超音波診断
目的      :歯科における超音波診断の利用法の紹介
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :X線管
応用分野    :医学、歯学、診断

概要      :
 超音波診断は単純エックス線写真では同定できない軟組織疾患の診断に有効である。また、簡便で非侵襲的な検査であることから腹部領域を中心に検査が行われてきた。頭頚部領域を診断対象にするようになったのは近年になってからのことである。超音波診断の原理と、臨床例として唾石症、甲状舌管嚢胞および粘液嚢胞について説明する。

詳細説明    :
 
 超音波診断は主に、単純エックス線写真では描出できない軟組織疾患に対して用いられる。その名が示すとおり、音(超音波)を用いて画像を形成することからエックス線診断のような被曝の恐れがなく、繰り返し検査が可能である。また、他の画像診断法と異なり、リアルタイムに画像が表示されるのも大きな特徴の1つである。このため、産婦人科領域をはじめ、腹部、泌尿器、心臓などの広い分野で活用されている。最近では、装置の性能の向上に伴って歯科口腔外科領域においても超音波診断が多く用いられるようになった。
 
 
1.超音波診断の原理
 
 音に対する人間の可聴範囲は16〜20,000Hzといわれている。この20,000Hzを超える音波を超音波という。超音波は音響インピーダンス(物質固有の音速×物質の密度)の差があるところで反射する。この性質を利用して、超音波プローブから超音波を発生し、その跳ね返りを画像として描出するのが超音波診断である。
 
 通常医科領域で用いる超音波の周波数は3〜5MHzである。それに対して歯科領域では、7.5MHz前後の周波数を用いる。一般に超音波の周波数が高くなると解像度が向上する。しかしその反面、組織に吸収されやすくなり、深部まで到達できなくなる。主に表在性疾患を診断対象とする歯科領域では、高い周波数による高画質な画像を用いて診断を行うことができる。
 
 近年では、10MHzを超える超音波も利用可能で、解像度は更に高まっている。また、パワードプラー法によって微細血管の描出も可能になり、病巣周囲の血流量をもとに、疾患を同定できるようになった。この方法を用いて、悪性腫瘍のリンパ節転移の鑑別も診断可能になっている。
 
 歯科口腔外科領域における超音波診断の対象は、耳下腺、顎下腺等の唾液腺疾患(炎症、良性腫瘍、悪性腫瘍)、リンパ節疾患(炎症、悪性腫瘍)、その他軟組織の嚢胞、良性腫瘍、悪性腫瘍である。
 超音波診断はエコーサインの組合せによって診断を行う。図1に超音波診断装置およびエコーパターンを示す。


図1 超音波診断装置とエコーパターン a)装置全景 (日立メディコ製EUB515) b)エコーパターン (原論文2より引用)

 エコーパターンの形状、境界・辺縁、内部エコー、底面エコー、後方エコーの状態を組合せて評価し診断する。一般的に嚢胞や良性腫瘍では、形状は整い、境界は明瞭、底面エコーの存在、後方エコーの増強が認められる。内部エコーはその疾患の内部性状を忠実に表す。例えば、類皮嚢胞の場合、オカラ状の成分がそのまま超音波像に反映される。悪性腫瘍の場合は逆に、辺縁不整で境界不明瞭、後方エコーの増強が認められない超音波像を示すことが多い。
 
 
2.臨床応用例
 
2.1 唾石症
 
 唾石は唾液腺の中でも顎下腺に多く発生し、唾液の流出障害を起こす。顎下腺あるいは耳下腺は、頬部や顎下部の浅層に位置することから超音波診断法の適応部位である。


図2 唾石症の超音波画像とその模式図

 図2に唾石症の超音波診断像とその模式を示す。唾液腺造影X線造影像では、腺管移行部に石灰化像を認め造影剤が入らないことによる陰影欠損像となるが(原論文1)、超音波診断像では顎下腺内に高輝度エコーが、その後方には音響陰影が認められる。
 
 
2.2 甲状舌管嚢胞および粘液嚢胞
 
 顎骨外の嚢胞や腫瘍は、単純X線撮影ではその周囲の組織とのX線不透過性に大差がないため、ほとんど情報が得られない。このような場合には、超音波による診断が有効である。図3に、嚢胞症例の超音波診断画像を示す。


図3 各種症例 a)粘液嚢胞の超音波画像 b)甲状舌管嚢胞の症例の超音波画像


 a)は甲状舌管嚢胞の超音波画像とその模式図である。境界はほぼ明瞭で、均一であるが低い内部エコーが認められる。また、後方エコーの増強もみられる。
 b)は粘液嚢胞の症例である。境界明瞭で内部は無エコー、底面エコーおよび後方エコーの増強が認められる。

コメント    :
 超音波診断装置においても、アナログ技術のデジタル化が進み、3次元表示も可能となってきた。カラードプラー技術やパワードプラー技術の開発により、微細血管を含む各種血管の走行構造なども表現出来るようになった。今後、超音波診断法はますます利用されるようになるに違いない。

原論文1 Data source 1:
唾液腺疾患の画像診断
大林 尚人
東京医科歯科大学歯学部
歯界展望別冊 歯科画像診断の最前線 pp.164-172, 医歯薬出版 1997

原論文2 Data source 2:
超音波診断(口外法)
澁谷 仁志、和光 衛
東京歯科大学歯科放射線学講座
Dental Diamond 22巻14号・1997年増刊号, pp.51-56 (1997)

キーワード:超音波,ultrasonic,utrasound,supersonic,音響インピーダンス,acoustic impedance,軟組織,soft tissue,唾液腺,salivary gland,リンパ節,lymphatic gland,腫瘍,tumor,嚢胞,cyst,炎症,inflammation
分類コード:030107,030103,030401

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