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作成: 1998/02/21 糸氏 英一郎

データ番号   :030095
量子計数型X線撮影装置
目的      :胸部専用X線診断装置の特徴とその利用価値の紹介
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :X線管
応用分野    :医学、診断

概要      :
 量子計数型X線撮影法(Quantum Radiography、QR)は、被写体を透過したX線のフォトン数を半導体センサーを用いて直接計数し、デジタル画像を作成する全く新しい撮影法である。さらに入射スリットを設けてファンビームX線を照射することにより散乱線が大幅に低減されていることなどから、低線量での撮影が可能となりかつ画質の優れたデジタル画像が得られる。

詳細説明    :
 胸部X線撮影は、胸部の画像診断において最初に行われる基本的なかつ重要な検査法として不可欠である。肺野等のX線の低吸収域から縦隔等の高吸収域までを良好なコントラストを保ちつつ一枚のフィルム上に描出することは、従来法のスクリーン式フィルムでは困難であり、高圧撮影や補償フィルター、ワイド・ラティチュードフィルムの開発などその改善に対して種々の試みが行われてきた。例えば、X線フィルムの開発では、内容の異なる前面乳剤と後面乳剤とを蛍光を遮る色素を含む層を介して塗布する非対称フィルムの開発が行われ、イメージングプレートを用いたデジタル画像ではコンピュータを利用した新しい画像処理法などが考案されているが、満足すべきレベルに達しているとは言い難い。従来のアナログ胸部単純写真やイメージングプレートによるデジタル画像では、到達したフォトンのエネルギーを画像化している。これに対して量子計数型X線撮影法(Quantum Radiography、QR)では、X線撮影において検出器に到達したフォトンの数のみを画像化している点で、従来の撮影法と根本的に異なる。
 QRは、被写体を透過したX線のフォトン数を半導体センサー(高密度結晶カドミウムテルライド(CdTe))を用いて直接計数し、デジタル画像を作成する全く新しい撮像法である。図1にQRの構成を示す。


図1 量子計数型X線撮影装置の構成(原論文1より引用)

 QRの生命は、CdTe結晶よりなるマルチラインセンサーであり、1008ch×6列の画素から構成されている。このマルチラインセンサーを水平から14°傾けて走査することにより空間分解能の向上をはかっている。実際の撮影はファンビームX線を上から下へ約1.4秒かけて走査し、それに連動するマルチラインセンサーで到達するフォトン数をカウントして画像化する。X線をファンビームにすることにより散乱X線が大幅に低減される。
 画像出力は、CRT表示あるいは半切サイズのフィルムにライフサイズで1画像出力する。肺野部・縦隔部の濃度を均等化する画像処理法が組み込まれており、1枚のフィルムで肺野・縦隔双方の描出に優れる画像を得ることができる。この半導体センサのX線捕捉効率の高いこと高感度・低ノイズ性に加えて、広範囲のX線濃度に良好な直線性を示すことから、心・横隔膜に重なる部位から末梢肺野までを良好なコントラストで描出可能である。図2に臨床応用の一例として、転移性肺腫瘍(肝細胞癌)のX線写真を示す。


図2 転移性肺腫瘍(肝細胞癌)患者の胸部X線写真。 a)量子計数型X線撮影法による画像、 b)スクリーンフィルム法による画像(原論文2より引用)

 図2aはQRにより得られた画像であり、図2bは従来のスクリーン・フィルムシステムにより得られた画像である。解像度が良好で心陰影や横隔膜に重なる腫瘍影(矢印)が明瞭に描出され、また、血管内に留置されたチューブや標体影も描出されている。その他、結節影、粒状影、索状影、網状影及びすりガラス陰影を有する12症例をQRと従来のスクリーン・フィルムシステムで撮影し、各画像の正常構造と異常影の描出能を高濃度領域、低濃度領域ごとに8人の放射線科医が評価を行った検討では、正常構造、異常影の描出能は概ね低濃度領域でQRが優れる傾向にあった。また、QRは従来のスクリーン・フィルムシステムに劣る項目はなかった。QRの正常構造、異常影の描出能は従来のスクリーン・フィルムシステムと同等かあるいは優れており、様々な胸部病変の診断において有用と思われる。

コメント    :
 QRはX線光子をCdTeセンサーで直接カウントし画像化することから、従来のアナログならびにデジタルX線撮影法に比べX線補足効率が高く、低線量で高品位の画像を得ることができる。CdTeセンサーの安定供給が可能となれば、近い将来実用化されよう。

原論文1 Data source 1:
量子計数型X線撮影装置I.デジタルX線撮影装置の開発
石田 進一郎、浮田 昌昭、佐藤 敏幸
島津製作所 基礎技術研究所
MEDICAL NOW No.27, P.3-8,1996, 島津製作所

原論文2 Data source 2:
量子計数型X線撮影法の胸部疾患の画像診断における有用性の検討
木村 和彦、糸氏 英一郎、河野 通雄
神戸大学医学部放射線医学教室
日本放医会誌,57(12),P.791-800,1997

キーワード:語は半角で)
デジタル画像処理、量子計数型X線装置、ファンビームX線照射、半導体センサー、肺癌、degital radiography, photon counting X-ray radiography,fan beam X-ray irradiation, semiconductor sensor, lung cancer
分類コード:030401,030103 

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