血液製剤照射装置

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作成： 1998/01/27 中瀬　泰然データ番号　　　：030087 血液製剤照射装置目的　　　　　　：輸血用血液製剤の放射線照射の必要性および照射装置の紹介放射線の種別　　：エックス線,ガンマ線放射線源　　　　：X線管、Cs-137 応用分野　　　　：医学、照射技術、殺・滅菌技術概要　　　　　　：　輸血を受けた人の免疫能が低下している場合、輸血用血液中にある移植Tリンパ球が輸血された人(宿主)を攻撃する移植片対宿主病が起こる。この疾患に対する予防の随一の手段は、輸血用血液製剤中のリンパ球を不活性化ことである。このために放射線を15～50kGy照射する方法が採用されて、専用の装置が病院や血液センターに設置されている。詳細説明　　　　： 1.照射の必要性　輸血後に起こる移植片対宿主病(GVHD-graft-versus-host desease)は、輸血用血液中に存在していたリンパ球が、輸血された患者(宿主)の組織を異物として攻撃して傷害を起こす病気である。普通輸血後1～2週間後に発熱、紅斑が出て数日中に全身に広がる。このような状態が続くと肝機能障害や汎血球減少症が出現し1カ月以内に多臓器不全、敗血症等で死亡する。上記のような症状が出た場合には、患者の爪や血液からDNAを抽出し、マイクロサテライトDNA多型解析を行い、患者本人と異なるDNAの存在が確認された時に輸血後GVHDにかかっていると診断する。わが国では1993～96年に41件が確認され、1996年1～5月にはその疑いのある患者数が例年を倍増して報告されている。　輸血後GVHD発症後の対策に関しては、有効な治療法が確立されていないことから、日本輸血学会は、「輸血によるGVHD予防のための血液に関する放射線照射ガイドラインⅢ」を発表した。輸血用血液の照射が望ましいとする場合は、1.心臓血管外科手術、2.癌の外科手術、3.先天性免疫不全症、4.造血幹細胞移植、5.胎児、未熟児、6.新生児交換輸血、7.大量出血・重篤な外傷、等である。対象となる輸血用血液は、1.血縁者からのもの、2.新鮮な血液、3.新鮮凍結血漿を除くすべての輸血用血液、である。放射線の線量は、15～50Gyが推奨されている。　種々の線量を照射した後、その反応増殖性をチミジンの摂取率で評価した結果を図1に示す。図1　放射線照射によるリンパ球の不活性化混合リンパ球培養（原論文1より引用） 5Gy以上の線量の場合、チミジンの摂取率はほぼ0であり、リンパ球の増殖が押さえられていることがわかる。また、別の試験で赤血球や血小板の生体内寿命は50Gyの照射でも不変であることなどから、15～50Gyが推奨されている。その他、照射した血液を保存した場合、1週間以上経過すると上清カリウム値の上昇が著しいことが指摘されており、1週間以内の使用が望まれている。 2.　照射装置　現在γ線照射用と、X線照射用の2種類の装置が利用されている。 2.1　γ線照射装置　世界的に最も普及している装置であり、線源としてCs-137が用いられている。血液製剤を金属製の照射容器に入れ、ペンシル状の線源の近くにまで移動しそこで容器を定速回転して所定線量照射する。線量15Gy照射には、2分程度で十分であることから緊急輸血にも対応可能と言われている。製造メーカは、カナダのノルデオン社(ガンマセル3000エラン)とフランスのCISバイオインターナショナル社(IBL 437C)の2社がある。これらの装置を使用するためには、使用許可申請を科学技術庁に出す必要があるが、装置そのものに十分な放射線遮蔽体が設置されているのでどこにでも置くことが出来る。ただし、管理区域の設定は必要である。　図2aに照射容器の横断面概念図を示す。また、図2bに照射装置の例を示す。400ml血液バッグ用容器は、最大5～6バッグ収納でき照射中はこの容器がターンテーブルで線源の前まで移動した後、自転して照射線量分布の均一化を図っている。上記2社とも同様な構造である。図2　輸血用血液照射装置　a)横断面概念図　b)照射容器(前面)の例（原論文2より引用）照射に要する時間は、使用する¹³⁷Cs 線源量により最低所要線量 15Gy には、2～5分であり、緊急時にも一応の対応ができると思われる。 2.2　X線照射装置　わが国で開発されたX線照射装置について紹介する。図3に、X線照射装置の機構概念及び外観を示す。図3　血液製剤照射装置　　a)装置概念図　　b)照射装置外観（原論文3より引用）　パック毎に単独照射を行う形式で、少量製品を取り扱うことを特徴としている装置の例である。その他、血液製剤をプラスチック容器に入れて上下のX線管の間で定速回転させて照射する方式もある。両者とも発生X線のエネルギーは150keV程度であり簡便な装置と言える。わが国での製造メーカは、日立メディコ社(MBR1520A-TW)と中部メディカル社(CBX-150, -210)の2社がある。これらの装置では、吸収線量の測定を試料パックの中央部で行い、血液パックを表裏両面から3～4分照射すれば最低の吸収線量15Gyが得られるようになっている。X線の線量モニターにより吸収線量を制御し、必要に応じて最大の50Gyまでの照射が可能である。いずれの装置でも血液パックを所定数セットし、照射線量を設定してスタートボタンを押すと、その後は自動的に照射が終わり前面から取り出せる。本装置を設置した場合には、都道府県の知事に届け出る必要があり、放射線発生装置としての表示以外、管理区域を設ける必要が無く比較的簡単に使用できる。　コメント　　　　：　血液製剤用照射装置の設置されていない施設では、治療用のγ線照射装置やリニアック等が血液の照射に利用されている。このように我が国では、各医療機関が色々な照射装置を用いて、所定線量を独自の判断の条件設定で照射している。これらの品質保証、また、照射後の血液の性状変化や安全性の確認等も今後の課題として残されている。原論文１ Data source 1：輸血後移植片対宿主病(輸血後GVHD)とその防止のための輸血血液の放射線照射の有用性高橋　孝喜虎の門病院輸血部 RADIOISOTOPES, 46(8), p541, 1997 原論文２ Data source 2：血液照射装置　GAMMACELL3000 Elan エム・ディー・エスノーディオン社　販促用パンフレット(1997.4) 原論文３ Data source 3：血液製剤照射装置 CBX ㈱六濤パンフレット　参考資料１ Reference 1：輸血後GVHDの予防のための血液照射とその近況田所　憲治日本赤十字中央血液センター放射線と産業　75(1997),p59, 放射線利用振興協会キーワード：輸血用血液、transfusion blood,リンパ球、lymphocyte,移植片対宿主病、graft-versus-host desease, γ線照射、γ-ray irradiation, X線照射、X-ray irradiation, Cs-137, 分類コード：030402,030499
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