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作成: 1999/01/13 小林 紀雄

データ番号   :030085
歯科パノラマX線撮影法
目的      :歯科パノラマX線撮影法についての概説
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :X線管
応用分野    :医学、歯学、診断

概要      :
 歯科の診断や治療は、歯および歯周組織だけでなく、顎骨や顔面領域まで及ぶ広範囲な疾患をも対象としている。歯科パノラマX線撮影法では、形態的に湾曲した顎骨を展開した像として撮影することができる歯科独特の撮影法である。本撮影法には、断層方式(回転方式)と口腔内線源方式の2種類がある。後者には断層方式で生じる様々な障害陰影がないという特徴があるが、現在稼働している装置はほとんどない。

詳細説明    :
 歯科における診断や治療は歯そのものや歯周組織を対象とする場合が多いが、顎骨や顔面領域まで及ぶ広範囲な疾患が対象となることもある。2、3本の歯の観察や診断には、口腔内に小型(31×41mm)のX線フィルムを位置付けて撮影する口内法X線撮影が用いられる。症状が広範囲に及んでいる疾患に対しては、一般医科と同様に、カセット(増感紙とX線フィルムの組合せ)を口腔外に設定して撮影する口外法が利用される。しかし、医科で行われているような撮影法では、形態的に湾曲した顎骨の像は重複を生じ、観察しにくい。歯科パノラマX線撮影は、そのような歯列を含む顎骨全体を展開し、一度に観察できるように考え出された歯科特有の撮影法である。歯科パノラマX線撮影法は、原理的に断層方式(回転方式)と口腔内線源方式の2種類に大別される。それぞれ、以下のような特徴がある。

1. 断層方式(回転方式)のパノラマX線撮影法
 断層方式のパノラマX線撮影法は、回転パノラマX線撮影法とも呼ばれ、スリット状X線ビームを回転させて顎骨の展開像を得る撮影法である。スリット撮影法と断層撮影法の2つの撮影原理が利用されている。図1にシーメンス社製の断層方式のパノラマX線撮影装置オルソフォスを示す。


図1 断層方式のパノラマX線撮影装置(シーメンス社製オルソフォス)

 断層方式では、ヘッド(X線発生装置)とカセットホルダが対向して固定され、これが顎骨をなぞるように頭部のまわりを約270度回転する。このため、撮影には15秒程度かかる。X線束は、1次スリットにより縦に細長いスリット状ビームに絞られている。また、中心X線は5〜10度上向きになっている。X線ビームの回転運動に合わせて、カセットホルダに設置されたカセットが水平移動し、フィルム上の照射領域が時々刻々と変化する。このX線ビームの回転速度、フィルムの移動速度に加えて、X線ビームの広がり方や回転中心の位置などの相互関係により、明瞭な像を形成する断層域の位置と広さが決定される。断層域の形態はどの装置でも顎骨と類似するよう設計されているが、メーカー各社の特色がみられ、装置毎に少しずつ異なる。図2にオルソフォスにおけるX線ビームの移動軌跡と断層域、さらに得られる写真の一例を示す。


図2 オルソフォスにおけるX線ビームの移動軌跡、断層域、得られる写真の一例 a)移動軌跡と断層域(原論文1より引用、一部改訂) b)断層域のパノラマX線写真

 a)X線ビームは0.2秒間隔で示した。断層域は前歯部で狭く、臼歯部で広い。得られる写真は、口内法X線写真と比較して鮮明さでは劣るが、撮影領域が広く、左右的には前歯部から外耳道後方付近まで、上下的にはオトガイから眼下下縁までを観察できる。ただ、反対側の下顎枝の像が重複するなど特徴的な障害陰影を生ずるのが欠点である。
 本装置は操作が簡単なため、多くの一般歯科医院で活用されている。また、開口せずに撮影できるので、開口障害がある場合には口内法X線写真に変わる有効な情報源となる。最近の装置では、顎関節部のみを撮影することも可能になっている。
 
2. 口腔内線源方式のパノラマX線撮影法
 口腔内線源方式のパノラマ撮影法は、口内法撮影とちょうど逆の状態すなわちX線発生部を口腔内に挿入し、フィルムを顔面に巻き付けるようにして撮影する。図3にフィリップス社製の口腔内線源方式のパノラマX線撮影装置スタットオラリックスと得られる写真の一例を示す。


図3 口腔内線源方式の撮影装置と写真 a)フィリップス社製スタットオラリクス b)口腔内線源方式のパノラマX線写真

 a)に示すヘッド(X線発生装置)から直径10mm程度の照射筒が出ており、これを口腔内に設定する。X線管焦点は照射筒の先端部に存在し、ここから水平的に270度、垂直的に135度程度広がるX線が放射される。撮影時間は口内法X線撮影と同程度である。口腔内線源方式では、ちょうど、口腔内の一点から歯列を見回した状態の像が得られる。X線の放射角度の制約により、上顎と下顎あるいは左右側を分けて撮影することになり、顎骨全体の像を得るには2回以上の撮影が必要になる。また、X線管焦点、被写体、フィルムの位置関係から、前歯部と臼歯部では拡大率が大きく異り、歪みの生じた写真となってしまう。しかし、口内法X線撮影に比べて広範囲の像が得られ、また回転パノラマ撮影法で生じる様々な障害陰影もない。このような特徴がありながら、既に装置は製造されておらず、稼働している装置も少なくなっている。このため、現在パノラマX線撮影法といえば断層方式のパノラマ撮影のことを指すと言って差し支えない。

コメント    :
 パノラマX線撮影法は、湾曲した顎骨を広範囲に観察することができるため、顎骨に特有の疾患や歯を発生起因とする疾患の他、上顎洞などの副鼻腔や鼻腔の疾患、顎関節症、唾石といった多くの疾患の病変把握に有効である。さらに、主訴以外の歯、顎領域全般に潜在する病態の発見も期待でき、原因不明の症状のスクリーニングにも利用できることから、大学病院、総合病院のみならず多くの一般歯科医院でも必要不可欠な撮影法といえる。

原論文1 Data source 1:
回転パノラマX線撮影法における下顎頭像の歪みに関する基礎的研究
藤森 久雄、西川 慶一、黒柳 錦也
東京歯科大学歯科放射線学講座
歯科学報 98, pp.749-769, 1998

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分類コード:030103、030401

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