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作成: 1997/10/12 鷲野 弘明

データ番号   :030075
肺換気シンチグラフィー用診断剤:キセノン(Xe-133)吸入用ガス
目的      :キセノン(133Xe)吸入用ガスの特徴の説明
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :133Xe
応用分野    :医学、診断

概要      :
 キセノン(133Xe)吸入用ガスは、肺換気機能診断及び局所脳血流診断に使用される放射性医薬品である。133Xeガスは、生理的に不活性なガスで、肺に吸入すると換気状態に応じて肺内に分布するため、様々な肺疾患における局所肺換気機能診断に利用される。また、133Xeの一部は血行を介して全身に分布するが、局所脳血流量に応じて脳内にも分布するため、脳虚血・脳梗塞などにおける局所脳血流検査にも使用される。

詳細説明    :
 
 肺換気シンチグラフィー用診断剤は、様々な肺疾患における肺換気機能の診断を目的とする診断用医薬品である。我が国では、キセノン(133Xe)ガス、クリプトン(81mKr)ガス(クリプトン(81mKr)ジェネレータ)、テクネチウム(99mTc)エアロゾルなどが肺換気機能診断に使用されている。ここに紹介するキセノン(133Xe)吸入用ガス(以下133Xeガス)は、ガラス容器に入った形で供給される放射性ガスで、肺の呼吸を通して生体内に取り込ませる診断剤である。
 
 133Xeガスは、生理的に不活性なガスで水に溶けにくい。肺に吸入した場合、肺の換気状態に応じて肺内に分布する。また、吸入したキセノンの一部は血液に溶け血行を介して全身に広く分布するが、局所脳血流量に応じて脳内にも分布する。脳血流中の133Xeの動態をシンチレーションプローブで測定することにより、局所脳血流を求めることもできる。このように、133Xeガスは様々な肺疾患における局所肺換気機能診断及び脳虚血・脳梗塞などにおける局所脳血流診断に使用される。
 133Xeは、サイクロトロンで生産される物理的半減期5.24日の放射性核種で、β壊変に伴ってシンチグラフィーに適した81 keVのγ線を放出する。
 
 
1. 133Xeガスの組成
 
 本剤は、ガラス容器などに封入したキセノンガスで無色透明の気体である。放射能量は製品によって異なり、検定時370 MBq〜3.7 GBqのものが供給されている。
 
 
2. 133Xeガスの効能又は効果
 
 (1) 133Xe吸入用ガスの吸入による局所肺換気機能の検査
 (2) 133Xe吸入用ガスの吸入による局所脳血流の検査
 
 
3. 133Xeガスの用法及び用量
 
3-1. 局所肺換気機能の検査
 被検者は、133Xeガス容器をセットした専用吸入器具を取り付け、所定の方法に従って吸入する。
(1) 1回吸入検査
 133Xeガスを希釈しない方法では、被検者は出来るだけ大きく息を専用吸入用器具に吐いたのち呼吸を一時止め、そこへ133Xeガスを放出した後1回大きく息を吸い込んで止め、この間に肺シンチグラムをとる。
 133Xeガスを希釈する方法では、被検者は大きく息を吸って一時止め、専用吸入用器具に133Xeガスを放出する。そこに、出来るだけ大きく息を吐いて133Xeガスを呼気で希釈する。引き続き1回大きく息を吸って呼吸を止め、この間に肺シンチグラムをとる。
(2) 再呼吸検査
 必要により、1回吸入検査に引き続いて133Xeガスの吸入を反復する。肺内の133Xeガス濃度が一定となった後、大きく息を吸って止め、この間に肺シンチグラムをとる。
(3) 洗い出し検査
  1回吸入検査または再呼吸検査に引き続いて室内の空気を吸気し、肺内の133Xeガスが洗い出される過程を経時的に肺シンチグラムに撮る。
3-2. 局所脳血流の検査
 133XeガスをRI局所脳循環血流測定装置に注入し、次の方法に従って使用する。被検者は呼吸マスクを通じて133Xeガス111 MBq/lを含む混合空気を1分間(555〜740 MBq)呼吸する。その後通常の空気に切り換え、10分間133Xeが脳血流より洗い出される様子を、頭部両側に設置した複数のシンチレーションプローブで記録する。こうして得られたクリアランス曲線より、コンピュータを用いて脳組織血流量を算出する。
 
 
4. 133Xeガスの薬効薬理
 
(1) 局所肺換気機能検査
 133Xeガスは、吸入により肺内部に到達しても血液中にあまり移行せず肺胞内に留まる。そのため、肺局所の133Xe分布は、その部分の呼吸・換気状態を反映する。
(2) 局所脳血流検査
 133Xeガスは、水に溶けにくいが、溶解した場合には肺胞膜をたやすく通過し、体組織中に自由に拡散分布する。133Xeは、血液脳関門を通過して末梢脳組織に達し、局所脳血流量に応じて分布する。クリアランス曲線を解析することにより、局所脳血流量が求められる。
 
 
5. 133Xeガスの体内薬物動態
 
 キセノンガスは、生体内では利用も生成もされない易拡散性ガスであり、診断に用いられる程度の濃度では生理学的に不活性である。吸入された133Xeガスは、約92 %が肺内に留まり、呼気とともに速やかに排泄される。血液中に移行する133Xeは約8 %であり、吸収された微量の133Xeガスも呼吸により急速に排泄される。この洗い出しの半減期は約20秒である。
 
 
6. 133Xeガスの臨床適用
 
(1) 肺換気機能検査
 133Xeガス吸入による局所肺換気検査は、以下の疾患で有効と認められている。
慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎・気管支喘息・肺気腫症)、拘束障害性肺疾患(肺繊維症・じん肺症)、のう胞形成性肺疾患(気管支拡張症・気腫性のう胞)、感染性呼吸器疾患(肺炎・気管支肺炎・結核)、肺循環障害(肺塞栓症)、その他の肺疾患(肺癌・サルコイドーシスなど)
 じん肺症患者の臨床例を示す。図1は粉塵暴露歴12年の58歳男性の胸部X腺写真である。


図1 じん肺患者の胸部X線写真 (原論文1より引用)

 両肺野にじん肺による粉状影を散在性に認め、鎖骨下領域に肺紋理の数珠状断裂を見ることが出来る。同一患者の133Xeシンチグラムを図2に示す。


図2 肺血流および肺換気シンチグラム   a)血流  b)換気(吸入相および平衡相)  c)換気(洗い出し相)(原論文1より引用)

 図2a)は血流シンチグラであり、前面像の左下肺野に著名な、また右肺尖部に軽度の血流減少領域をみることが出来る。図2b)は換気シンチグラムであり、一回呼吸検査(15秒後)では、左肺尖部と右上肺野外側に欠損を見る。図2c)は洗い出し検査(0-6分までの経時変化)であり、血流シンチで欠損を認めた領域を中心として133Xeガスの洗い出し遅延が見られる。
(2) 局所脳血流検査
 133Xeガスは、一般に脳梗塞などの脳血流障害疾患においも有効と認められている。
 
 
7. 133Xe吸入用ガスの副作用
 
 現在にいたるまで、特に報告されていない。

原論文1 Data source 1:
じん肺症の核医学的所見
田邊 正忠
香川医科大学医学部放射線医学教室
関東地区呼吸器核医学研究会誌(1988.9.4)、p.1-4

参考資料1 Reference 1:
放射性医薬品基準 キセノン(133Xe)吸入用ガス
(社) 日本アイソトープ協会
インビボ放射性医薬品添付文書集(平成7年), p. 8-9, p. 24-25,p.62-63及び p. 130-131 、(平成8年),p.10-11,p.46-47,及びp.122-123

キーワード:放射性医薬品, 画像診断, Xe-133ガス, 肺, 局所肺換気, 肺疾患, 脳, 局所脳血流,
radiopharmaceutical, diagnostic imaging, Xe-133 gas, lung, local pulmonary ventilation, lung diseases, brain, local cerebral blood flow,
分類コード:030502, 030301, 030403

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