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作成: 1997/10/12 鷲野 弘明

データ番号   :030073
甲状腺シンチグラフィー用経口剤:ヨウ化ナトリウム(I-123)カプセル
目的      :ヨウ化ナトリウム(123I)カプセルの特徴の説明
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :123I
応用分野    :医学, 診断

概要      :
 ヨウ化ナトリウム(123I)カプセルは、甲状腺疾患の診断に使用される放射性医薬品である。123Iイオンは、甲状腺ホルモンであるチロキシンやトリヨードチロニン合成に必要なヨウ素イオンとして甲状腺に特異的に取り込まれる。Na123Iの経口投与による甲状腺シンチグラムでは、甲状腺の大きさ・形態変化の検出、ヨウ素の分布状態から甲状腺機能の把握が可能であり、甲状腺疾患の診断に用いられる。

詳細説明    :
 
 ヨウ化ナトリウム(123I)カプセルは、甲状腺疾患の診断に使用される放射性医薬品である。我が国では、過テクネチウム酸ナトリウム(99mTc)注射液及びここに紹介する経口用ヨウ化ナトリウム(123I)カプセル(以下Na123Iカプセル)が甲状腺シンチグラフィー用製剤として使用されている。 過テクネチウム酸イオン(99mTcO4-)は、甲状腺や唾液腺など一般腺組織に集積する性質を有し、123Iイオンは甲状腺ホルモンであるチロキシンやトリヨードチロニン合成に必要なヨウ素イオンとして甲状腺に特異的に取り込まれる。
 
 Na123Iの経口投与による甲状腺シンチグラムは、甲状腺の大きさ・形態変化の検出にとどまらず、ヨウ素の分布状態から甲状腺機能の把握も可能である。このように、Na123Iカプセルは甲状腺疾患に特異的な診断剤である。
 甲状腺疾患に対するラジオアイソトープの利用は、1934年 Fermi らによるヨウ素-131(131I)の発見以来、1938年にHertzら、続いて Hamilton らの研究により始められた。これらは、核医学の歴史において先駆的研究であり、放射性ヨウ素は今日の核医学の礎となった放射性核種である。
 123Iは、サイクロトロンで生産される物理的半減期13.2時間の放射性核種で、β線を放出せず159 keVのγ線のみを出し、そのエネルギーはシンチグラフィーに適している。
 
 
1. ヨウ化ナトリウム(123I)カプセルの組成
 
 本剤は、ヨウ化ナトリウムをNa123Iの形で含む。本剤の組成を表1に示した。
 

表1 ヨウ化ナトリウム(123I)カプセルの組成・性状(原論文1より引用)
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組成     ヨウ化ナトリウム(123I)
                 123Iとして(検定日時において)         3.7 MBq/カプセル
      添加物 日本薬局方白糖                       0.375 mg/カプセル
                 黄色5号(カプセル剤皮)
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2. ヨウ化ナトリウム(123I)カプセルの効能又は効果
 
 1)甲状腺シンチグラフィーによる甲状腺疾患の診断。
 2)甲状腺摂取率による甲状腺機能の検査。
 
 
3. ヨウ化ナトリウム(123I)カプセルの用法及び用量
 
 検査前1〜2週間は、ヨウ素を含む食物や123Iの甲状腺摂取率に影響する薬剤を摂取しないこと。
(1) 甲状腺シンチグラフィー
 通常、成人には本剤3.7〜7.4 MBqを経口投与し、3〜24時間後に1〜2回シンチレーションカメラ又はシンチレーションスキャナーで撮像し、甲状腺シンチグラムを得る。投与量は、年齢、体重に応じて適宜増減する。
(2) 甲状腺摂取率の測定
 通常、成人には本剤3.7 MBqを経口投与し、3〜24時間後に1〜3回シンチレーションカウンターで計数する。
 
 
4. ヨウ化ナトリウム(123I)カプセルの薬効薬理
 
 ヨウ素は、消化管より吸収され血液中へ移行する。甲状腺の上皮細胞は、血中ヨウ素イオン(I-)を能動的に取り込み、それを用いてトリヨードサイロニンT3及び血中サイロキシンT4を合成する。T3及びT4は、濾胞腔にコロイドとして貯えられ、必要に応じてpinocytosisにより再び上皮細胞に取り込まれて加水分解され、血中に分泌される。本剤に含まれる123Iは上記と同じ挙動を示すため、123Iを外部から検出測定することで甲状腺の形態・機能を非侵襲的に測定することが可能である。
 
 
5. ヨウ化ナトリウム(123I)カプセルの体内薬物動態
 
 本剤を患者11例に経口投与し試験した結果、投与後3時間までの胃への分布率は急速に減少し、それに対応して血中濃度は上昇した。それ以後は、胃分布率は緩やかに減少し、血中濃度も緩やかに減少した。投与後3時間までの分布の様相は、本剤の溶解・吸収の過程を示すと考えられる。甲状腺への取り込みは、投与後6時間で平均13 %であり、以後24時間まで緩やかな摂取上昇曲線を描いた。
 
 
6. ヨウ化ナトリウム(123I)カプセルの臨床適用
 
 次の甲状腺疾患の診断において有効性が認められた。甲状腺機能亢進症(バセドウ氏病)、甲状腺機能低下症、甲状腺癌、甲状腺腺腫、甲状腺炎など甲状腺シンチグラムの臨床例として図1に正常例を示し、図2に結節性甲状腺腫(a)および甲状腺機能亢進症例(b,c)を示す。


図1 正常例の甲状腺シンチグラム(原論文1より引用)



図2 甲状腺疾患シンチグラム a)結節性甲状腺腫   b)甲状腺機能亢進症99mTcO4-摂取   c)甲状腺機能亢進症123I摂取(原論文1より引用)

 図2a)の 結節性甲状腺腫患者の例では、左側甲状腺に欠損像が見られる。2b),2c)の甲状腺機能亢進症の患者の例では、2b)の右側甲状腺の腫脹した一部が99mTcO4-によるイメージングでホットスポットとなっている。しかし、ヨウ化ナトリウム(123I)カプセルによるイメージング(2c)ではコールドスポットとなり、この腫脹部分は甲状腺として機能していないことがわかる。
 
7. ヨウ化ナトリウム(123I)カプセルの副作用
 
 臨床試験及び現在までの使用成績調査(24,152例)では、本剤に起因する副作用は認められなかった。

コメント    :
 甲状腺の核医学診断に用いられる核種は、現在123Iであるが、歴史的に最初に使用されたのは131Iである。131Iは、今日では診断より甲状腺機能亢進症などの治療に使用されている。

原論文1 Data source 1:
ヨードカプセル-123
日本メジフィジックス株式会社
販促パンフレット(昭和63年2月)

参考資料1 Reference 1:
日本薬局方 ヨウ化ナトリウム(123I)カプセル
(社) 日本アイソトープ協会
インビボ放射性医薬品添付文書集(平成7年),p.50-51,p.122-123,(平成8年),p.34-35,p.114-115

キーワード:放射性医薬品, 画像診断, ヨウ化ナトリウム(I-123), 甲状腺, ヨウ素摂取率, 甲状腺機能亢進症, 甲状腺機能低下症, 甲状腺癌,radiopharmaceutical, diagnostic imaging, sodium iodide(123I), thyroid, uptake rate of iodide ion, hyperthyroidism, hypothyroidism, thyroid cancer,
分類コード:030502, 030301, 030403

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