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作成: 1998/02/12 鷲野 弘明

データ番号   :030072
骨髄機能シンチグラフィー用注射剤:塩化インジウム(In-111)注射液
目的      :塩化インジウム(111In)注射液の特徴の説明
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :111In
応用分野    :医学、診断

概要      :
 111Inは、サイクロトロンで生産される短半減期核種であり、塩化インジウム(111In)注射液は、骨髄の造血機能診断に使用される放射性医薬品である。111Inは幼若赤芽球細胞に集積し、造血骨髄の分布や活性度の把握、全身性・限局性の造血骨髄疾患の診断、骨髄機能障害の診断に有用な情報を与える。本注射液は、静脈内に投与し投与2日後にガンマカメラで撮像され、再生不良性貧血など骨髄造血機能障害の診断に利用される。

詳細説明    :
 
 骨髄機能シンチグラフィー用注射剤は、骨髄の造血機能診断を目的とする診断用医薬品である。我が国では、塩化インジウム(111In)注射液(以下111In注射液)が骨髄機能診断剤として使用されている。
 造血骨髄は、通常頭蓋骨・胸骨・脊椎骨・骨盤骨・上腕骨・大腿骨上部などに存在し、その機能はX線撮影・CT・MRI・骨シンチグラフィーなどでは知ることはできない。111In注射液は、静脈内注射すると造血骨髄に集積するため、シンチグラフィーにより造血骨髄の分布・活性度の把握が可能であり、全身性・限局性の造血骨髄疾患や骨髄機能障害の診断に有用な情報を与える。
 
 インジウム-111(111In)は、サイクロトロンで生産される物理的半減期2.81日の放射性核種で、β線を放出せず、放出γ線のエネルギーは171, 245 keVでシンチグラフィーに適している。111Inは、静脈内投与後比較的ゆっくりとした体外排泄を示し、投与2日後に撮像診断される。我が国で製造販売されている塩化インジウム(111In)注射液(以下本注射液)について説明する。
 
 
1. 塩化インジウム(111In)注射液の組成
 
 本注射液は、水性の注射液で、111Inを塩化インジウムの形で含む。本注射液の組成を表1に示した。

表1 塩化インジウム(111In)注射液の組成・性状(原論文1より引用)
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  組成   塩化インジウム(111In)
                111Inとして(検定日時において)          74 MBq/ml
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 性状   無色澄明の液
 pH   1.0〜2.5
浸透圧比  約1.0(0.9 %塩化ナトリウム溶液に対する比)
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2. 塩化インジウム(111In)注射液の効能又は効果
 
 骨髄シンチグラムによる造血骨髄機能の診断。
 
 
3. 塩化インジウム(111In)注射液の用法及び用量
 
 通常、成人には本注射液37〜111 MBqを肘静脈内に注射し、投与48時間後に被検部にシンチレーションカメラ検出器を向けて撮像し、シンチグラムを得る。投与量は、年齢、体重により適宜増減する。
 
 
4. 塩化インジウム(111In)注射液の薬効薬理
 
 111Inは、静脈内に注射されると血液中の蛋白質トランスフェリン(TF)と直ちに結合する。TF-111In複合体は、骨髄に存在する幼若赤血球細胞のTF受容体に結合し、細胞内に取り込まれる。111Inのこの挙動は、TFが担っている本来の鉄イオン再利用・代謝調節機能による。従って、111Inの骨髄集積により得られるシンチグラムは、鉄イオンの代謝過程を反映し、骨髄の造血機能を画像化する。骨髄シンチグラムを撮る別の方法としてRIコロイド系注射剤(99mTc-フチン酸注射剤、99mTc-スズコロイド注射剤など)を用いる方法があるが、ここでは骨髄網内系に取り込まれるため骨髄造血機能を反映した画像ではなく、111Inの骨髄シンチグラムとはこの点で異なる。
 
 111Inの骨髄集積は赤芽球細胞密度とよく相関し、血清鉄クリアランス試験とも相関するため、骨髄造血機能障害の重症度判定に有用な情報を与える。また、111Inの体内分布は、障害骨髄の生検所見とよく一致し、生検部位の決定に必要な情報を与える。
 
 
5. 塩化インジウム(111In)注射液の体内薬物動態
 
 本注射液を健康な成人男子に静脈内投与するとき、111Inは投与後おもに肝臓・脾臓・骨髄に漸増的に集積し、集積率は約72時間後平衡状態に達する。投与後初期の排泄経路は腎尿路系で、投与48時間後の尿中排泄率は数%である。一方、骨髄造血障害を持つ患者では、骨髄・肝臓への集積が低下するとともに腎集積・尿中排泄が亢進する。
 
 
6. 塩化インジウム(111In)注射液の臨床適用
 以下の骨髄疾患で有効性が認められた。
 
(1) 赤血球系疾患:鉄欠乏性貧血・再生不良性貧血・溶血性貧血・赤血球増多症など
(2) 放射線治療後の骨髄機能診断
(3) 白血球系疾患:急性白血病・慢性骨髄性白血病
 図1に111In注射液投与後の再生不良性貧血患者の臨床例を示す。


図1 再生不良性貧血患者の骨髄シンチグラム (原論文1より引用)

 再生不良性貧血患者の重症例では、全身にほとんど造血骨髄を認めず、両腎での111In集積だけが目立つ。中等度症例では、造血骨髄へのRI集積低下と両大腿骨での不均一な集積が見られる。軽症例では、胸骨・脊椎骨への集積はほぼ正常だが、骨盤への集積は低下していることが示されている。
次に骨髄疾患患者の臨床例を図2に示す。


図2 種々の骨髄疾患患者の骨髄シンチグラム (原論文1より引用)

 急性骨髄性白血病例では、骨髄(bone marrow)での集積が全体的に低下し、腎臓への集積が増加している。集積像をよく見ると、central marrowでの集積低下、骨端・関節部の集積残存が見られる。この慢性骨髄性白血病例では、胸骨・胸椎への集積低下、大腿骨・下腿骨・肩関節付近の集積残存、脾臓(脾腫)への強い集積が見られる。peripheral expansionの所見である。真性多血症例では、central marrowへ集積が増加し、大腿骨が描出され、peripheral expansionの所見を呈している。細小血管性溶血性貧血例では、正常骨髄への集積のほか、上腕骨・大腿骨への集積拡大を認める。
 
 
7. 塩化インジウム(111In)注射液の副作用
 特に副作用は認められていない。

コメント    :
 ここに紹介した111In注射液とは別に、生体の鉄代謝を測定する放射性医薬品としてクエン酸第二鉄(59Fe)注射液がある。この診断剤は、静脈内に投与する点では同じだが、鉄イオンの血中クリアランス測定を目的としており、シンチグラフィー用ではない。

原論文1 Data source 1:
塩化インジウム(111In)注
日本メジフィジックス株式会社
販促パンフレット(平成元年10月改訂)

参考資料1 Reference 1:
日本薬局方 塩化インジウム(111In)注射液
(社) 日本アイソトープ協会
インビボ放射性医薬品添付文書集(平成7年), p120-121,平成8年、p112-113

キーワード:画像診断, 放射性医薬品, 111InCl3, 骨髄, 造血機能, 再生不良性貧血, 骨髄障害,
diagnostic imaging, radiopharmaceutical, indium chloride(111In), bone marrow, erythropoiesis, aplastic anemia, bone marrow suppression
分類コード:030502, 030301, 030403

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