放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 1997/10/12 鷲野 弘明

データ番号   :030071
血液プールシンチグラフィー用注射剤:人血清アルブミンジエチレントリアミン五酢酸テクネチウム(Tc-99m)注射液
目的      :人血清アルブミンジエチレントリアミン五酢酸テクネチウム(99mTc)注射液の特徴の説明
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :99mTc
応用分野    :医学, 診断

概要      :
 人血清アルブミンジエチレントリアミン五酢酸テクネチウム(99mTc)注射液は、RIアンギオグラフィー及び末梢臓器の血液循環状態の診断に使用される放射性医薬品である。本注射液は、静脈内投与後長く血液中に留まる性質を持ち、それによって心臓のポンプ機能・大血管の形態・検査対象臓器の血液循環状態を視覚化する。本注射液は、投与直後から撮像し、心疾患・大血管性病変・末梢循環障害(狭窄や梗塞)などの診断に利用される。

詳細説明    :
 
 血液プールシンチグラフィー用注射剤は、心疾患・大血管性病変・末梢循環障害など血液循環障害の診断を目的とする診断用医薬品である。我が国では、ピロリン酸テクネチウム(99mTc)注射液(99mTc-PYP)、テクネチウム人血清アルブミン(99mTc)注射液(99mTc-HSA)、人血清アルブミンジエチレントリアミン五酢酸テクネチウム(99mTc)注射液(以下99mTc-DTPA-HSA)が主な血液プール診断剤として使用されている。
 
 血液プール診断剤は、静脈内投与後循環血液中に留まることにより、心臓のポンプ機能・大血管の形態・検査対象臓器の血液循環状態を視覚化する(RIアンギオグラフィー)。これにより、心臓の機能を評価したり、血管の異常・狭窄・閉塞やその結果起こる組織への血液分布の減少を検出できる。
 テクネチウム-99m(99mTc)は、原子炉で生産される99Moより生成する物理的半減期6.01時間の放射性核種で、β線を放出せず、放出γ線のエネルギーは140.5 keVでシンチグラフィーに適している。我が国で製造販売されている99mTc-DTPA-HSA(以下本注射液)を例に説明する。
 
 
1. 99mTc-DTPA-HSA注射液の組成
 
 本注射液は水性の注射液で、99mTcを人血清アルブミンジエチレントリアミン五酢酸テクネチウムの形で含む。本注射液の組成を表1に示す。

表1 人血清アルブミンジエチレントリアミン五酢酸テクネチウム(99mTc)注射液の組成・性状(原論文1より引用)
-------------------------------------------------------------------------------
  組成   人血清アルブミンジエチレントリアミン五酢酸テクネチウム(99mTc)
                99mTcとして(検定日時において)         740 MBq/ml
          人血清アルブミンジエチレントリアミン五酢酸テクネチウム  10 mg/ml
          添加物  無水塩化第一スズ                                0.076 mg/ml
                  日局アスコルビン酸                              0.352 mg/ml
-------------------------------------------------------------------------------
 性状   無色澄明の液
 pH   4.0〜6.0
浸透圧比  約2(0.9 %塩化ナトリウム溶液に対する比)
-------------------------------------------------------------------------------

2. 99mTc-DTPA-HSA注射液の効能又は効果
 
 RIアンギオグラフィー及び血液プールシンチグラフィーによる各種臓器・部位の血行動態及び血管性病変の診断。
 
 
3. 99mTc-DTPA-HSA注射液の用法及び用量
 
 通常、成人には本注射液740 MBqを肘静脈内に注射する。投与前よりシンチレーションカメラ検出器を被検部に向けてセットし、投与直後から連続的に撮像して動態画像(RIアンギオグラム)を得る。終了後被検部を各方向から撮像し、平衡時画像(血液プールシンチグラム)を得る。必要に応じて経時的に血液を採取し、その中の放射能量を測定することにより、循環血漿量・血液量・心拍出量を画像データより求める。心拍出量は、データ処理装置を用い心カウントの拍動と同期した時間変化より求める。投与量は、年齢、体重及び検査目的により適宜増減する。
 
 
4. 99mTc-DTPA-HSA注射液の体内薬物動態
 
 本注射液を健康な成人男子に投与したとき、血液中放射能は二相性で緩徐に消失した。血中消失初期相(投与後1〜3時間)の半減期は10時間、後期相(6〜24時間)の半減期は26時間であった。血中放射能保持率は、投与後10分を100%とすると、投与後30分で97%、1時間で94%であった。主たる排泄経路は腎尿路系で、投与後24時間の尿中排泄率は34%であった。
 
 
5. 99mTc-DTPA-HSA注射液の臨床適用
 以下の疾患で有効性が認められている。
 
(1) 心疾患:虚血性心疾患、先天性心疾患、不整脈、弁膜症、心筋症など
(2) 大血管性病変:大動脈瘤、大動脈閉塞・狭窄など
(3) 末梢循環障害:動脈及び静脈閉塞・狭窄、精索静脈瘤など
(4) 脳疾患:虚血性脳疾患、くも膜下出血など
心疾患の臨床例を図1に示し、大血管性病変の例を図2に示す。


図1 心筋梗塞患者の例 (原論文1より引用)

 14年来心筋梗塞を繰り返したので、下側壁梗塞にて手術を施行した患者の例である。冠動脈造影では3枝病変であった。1ケ月後の心RIアンギオグラフィー(図1a)では、右心系は正常であったが、左心系は拡大を認めた。図1b)ゲート像にて下壁・前中隔から心尖部の動きが認められない。左心室駆出率は、45%であった。


図2 腹部大動脈瘤患者の例 (原論文1より引用)

 RIアンギオグラフィー(図2a)にて、腹部大動脈の拡張とその部位における血流停滞及び総腸骨動脈の蛇行、内壁不整が認められた。また、図2b)血液プールシンチグラフィーにて腹部大動脈瘤の形態がより詳細に把握できる。
 
6. 99mTc-DTPA-HSA注射液の副作用
 特に副作用は認められていない。

コメント    :
 ここに紹介した99mTc-DTPA-HSA注射液とはべつに、生体の循環血液・血漿量、血液循環時間及び心拍出量を測定する放射性医薬品として、放射性ヨウ化人血清アルブミン(131I)注射液がある。この診断剤は、静脈内に投与する点では同じだが、投与後採取した血液中の放射能量を測定し循環動態を定量することを目的としており、シンチグラフィー用ではない。

原論文1 Data source 1:
プールシンチ注 - 放射性医薬品基準 人血清アルブミンジエチレントリアミン五酢酸テクネチウム(99mTc)注射液
日本メジフィジックス株式会社
販促パンフレット('91.10)

参考資料1 Reference 1:
放射性医薬品基準 人血清アルブミンジエチレントリアミン五酢酸テクネチウム(99mTc)注射液
(社) 日本アイソトープ協会
インビボ放射性医薬品添付文書集(平成7年), p.116-117 ,(平成8年),p.104-105

キーワード:画像診断, 放射性医薬品, 99mTc-DTPA-HSA, 心臓, 心駆出率, 心疾患, 末梢循環動態, 狭窄,
diagnostic imaging, radiopharmaceutical, technetium human serum albumin diethylenetriaminepentaacetate(99mTc), heart, ejection fraction, cardiac diseases, peripheral blood circulation, stenosis of blood vessels,
分類コード:030502, 030301, 030403

放射線利用技術データベースのメインページへ