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作成: 1998/02/12 鷲野 弘明

データ番号   :030066
腫瘍・炎症シンチグラフィー用注射剤:クエン酸ガリウム(Ga-67)注射液
目的      :クエン酸ガリウム(67Ga)注射液の特徴の説明
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :67Ga
応用分野    :医学、診断

概要      :
 67Gaは、サイクロトロンで生産される短半減期核種であり、クエン酸ガリウム(67Ga)注射液は、腫瘍及び炎症性病変の診断に使用される放射性医薬品である。本注射液は、悪性リンパ腫・肺癌などの悪性腫瘍や、肺炎・結核・骨髄炎・各種の膿瘍などの炎症性病変に高い集積を示す。本注射液は、静脈内に投与し投与3日後にガンマカメラで撮像診断され、腫瘍の存在確認や炎症の存在確認及び活動性の評価に利用される。

詳細説明    :
 
 腫瘍シンチグラフィー用注射剤は、悪性腫瘍の診断を目的とする診断用医薬品である。我が国では、クエン酸ガリウム(67Ga)注射液、塩化タリウム(201Tl)注射液及び2-フルオロデオキシグルコース(18F)注射液などが主な腫瘍診断剤として使用されている。クエン酸ガリウム(67Ga)は、この中でもっとも長い歴史を持つ診断剤である。
 
ガリウムというIIIa族金属元素の医学利用は、1949年Dudleyらの原発性・転移性骨腫瘍へ応用に始まる。その後1969年Edwards & Hayesは、ガリウム-67(以下67Ga)によるホジキン病患者の画像診断で罹患リンパ節が描出されることを発見し、67Gaによる腫瘍診断の可能性を報告した。彼らは、この集積が腫瘍組織の炎症過程によるものと考え、67Gaが炎症組織にも集積することを確かめた。今日、67Gaの集積が臨床的に有用な情報をもたらす腫瘍は必ずしも多くなく、悪性リンパ腫・肺癌への適用に限られる。また、肺炎・結核・骨髄炎・各種膿瘍などの炎症性病変の診断にも臨床的に使用されている。
 
67Gaは、サイクロトロンで生産される物理的半減期3.26日の放射性核種で、β線を放出せず、放出γ線のエネルギーは93, 185, 300 keVでシンチグラフィーに適している。67Gaは、静脈内投与後比較的ゆっくりとした体外排泄を示し、投与3日後に撮像診断するのが最適である。我が国では、2社から製造販売されているクエン酸ガリウム(67Ga)注射液(以下本注射液)について説明する。
 
 
1. クエン酸ガリウム(67Ga)注射液の組成
 
本注射液は、水性の注射液で、67Gaをクエン酸ガリウム(67Ga)の形で含む。本注射液の組成を表1に示した。

表1 クエン酸ガリウム(67Ga)注射液の組成・性状(原論文2より引用)
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組成   クエン酸ガリウム(67Ga)
           67Gaとして(検定日時において)            74 MBq/ml
     添加物  ベンジルアルコール                      0.9 v/v%
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性状   無色〜淡赤色澄明の液
pH   6.0〜8.0
浸透圧比 約1.0 (0.9 %塩化ナトリウム溶液に対する比)
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2. クエン酸ガリウム(67Ga)注射液の効能又は効果
 
(1) 下記の悪性腫瘍の診断
悪性リンパ腫、肺癌など
(2) 下記炎症性疾患における炎症性病変の診断
腹部膿瘍、肺炎、塵肺、サルコイドーシス、結核、骨髄炎、び漫性汎細気管支炎、肺繊維症、胆のう炎、関節炎など
 
 
3. クエン酸ガリウム(67Ga)注射液の用法及び用量
 
通常、成人には本注射液1.11〜1.48 MBq/kgを肘静脈内に注射し、投与24〜72時間後に被検部にシンチレーションカメラ検出器を向けて撮像し、シンチグラムを得る。画像は、可能であればプラナー像よりSPECT装置を用いて2次元断層像として得た方が好ましい。投与量は、年齢、体重及び検査方法により適宜増減する。
 
 
4. クエン酸ガリウム(67Ga)注射液の薬効薬理
 
(1) 腫瘍集積機序
67Gaの腫瘍への集積機序は、現在に至るまで完全に解明されたわけではない。多くの実験事実から、次のように考えられている。血中に投与された67Gaは、血清蛋白質のひとつトランスフェリン(TF)と結合する。TF-67Ga複合体は、腫瘍細胞膜表面に発現するTF受容体に結合し、この受容体を介して腫瘍細胞内に取り込まれる。67Gaは、細胞内では細胞質に分布し、ライソゾーム・粗面小胞体などの細胞内器官に存在する。67Gaの大部分は、フェリチンなどの蛋白質と結合した状態にある。また、腫瘍組織中では酸性ムコ多糖類やヘパラン硫酸などにも結合する。
 
(2) 炎症集積機序
炎症部位への集積機序も十分解明されたとは言えないが、以下に述べるいくつかの機序の同時関与が考えられる。即ち、炎症組織の血流増加・毛細血管の透過性亢進による67Gaの運搬、白血球による取り込み、細菌による取り込み、組織間質への結合などである。
 
 
5. クエン酸ガリウム(67Ga)注射液の体内薬物動態
 
67Gaは、静脈内投与後24時間以内では主に腎臓から排泄され、この間腎臓が最も高い集積を示す。24時間までの尿中排泄率は約12 %で、その後は肝胆道系が主な排泄経路となる。投与後48〜72時間では、骨・肝臓・脾臓で高い集積を示す。投与後1週間以内で投与量の1/3が体外に排泄され、残り2/3は肝臓・脾臓・腎臓・骨・骨髄・腹腔内臓器などに残留する。
 
 
6. クエン酸ガリウム(67Ga)注射液の臨床適用
 
(1) 悪性腫瘍
67Ga注射液は、脳腫瘍・甲状腺未分化癌・肺癌・原発性肝癌・悪性リンパ腫・非ホジキンリンパ腫・悪性黒色腫などに集積する。このうち、特に悪性リンパ腫や肺癌の診断に有用性が認められる。図1に臨床例を示す。


図1 悪性リンパ腫患者の67Gaシンチグラム 1a)頭頸部の前面、左右側面、および胸部、腹部、鼠径部の前面、1b)全身の前面 (原論文1より引用)

 頭頸部の前面および左右側面、胸部、腹部および鼠径部の前面さらにこれらを合わせた全身前面シンチグラムから、鼻咽腔部、両側耳下腺部、左頚部、傍気管部、右腋下、傍腹部大動脈〜腸骨動脈、両側鼠径部などに67Gaの異常集積像が見られ、悪性リンパ腫のあることがわかる。
 
(2) 炎症性疾患
67Ga注射液は、以下の部位の病変に集積することが確認されている。
1) 骨・関節・筋肉部:骨髄炎、関節炎、股関節症、滑膜炎
2)胸部:肺繊維症、塵肺、放射性肺炎、薬剤性肺炎、び漫性汎細気管支炎、肺膿瘍、サルコイドーシス
3)腹部:肝膿瘍、脾膿瘍、横隔膜下膿瘍、腎膿瘍、胆のう炎、腎盂腎炎
図2に臨床例を示した。


図2 骨髄炎患者の67Gaシンチグラム(2a)、脛骨および足関節部のX線写真(2b)(原論文1より引用)

 右脛骨遠位端から足関節部に67Gaの強い集積を認められ(2a)、同部位のX線写真では、脛骨遠位端に骨髄炎像と足関節腔の狭小化を認められる(2b)。患者は右足関節部の痛みと熱感を訴えている。

7. クエン酸ガリウム(67Ga)注射液の副作用
 
 特に副作用は認められていない。

コメント    :
 67Gaシンチグラフィーは、悪性リンパ腫では病期決定・生検部位決定・治療効果判定・放射線治療の照射部位決定などに欠かせない検査となっている。

原論文1 Data source 1:
クエン酸ガリウム(67Ga)シンチグラム集:悪性腫瘍・炎症性病変
日本メジフィジックス株式会社
技術資料、改訂2版(1985.12.)

原論文2 Data source 2:
クエン酸ガリウム(67Ga)注NMP
日本メジフィジックス株式会社
販促パンフレット(昭和60年6月、&1997年2月)

キーワード:画像診断, 放射性医薬品, クエン酸ガリウム(67Ga)注射液, 腫瘍, 肺癌, 悪性リンパ腫, 炎症, 肺炎
diagnostic imaging, radiopharmaceutical, 67Ga-citrate, tumors, lung carcinoma, malignant lymphoma, inflammation, pneumonia
分類コード:030502, 030301, 030403

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