放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 1999/03/08 澁谷 仁志

データ番号   :030063
顎骨に発生する悪性腫瘍の診断
目的      :顎骨に発生する悪性腫瘍の関する説明
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :X線管
応用分野    :医学、歯学、診断

概要      :
 顎骨に発生する悪性腫瘍には、周囲軟組織から発生した歯肉癌等が顎骨に浸潤したものと、骨肉腫のように顎骨中心性に発生するものがある。悪性腫瘍は直接死につながる疾患なので、他の疾患と誤診をしないよう診断に際してはより注意が必要である。歯肉癌、骨肉種などについて、画像診断を行いそれらの特徴について紹介する。

詳細説明    :
 
 悪性腫瘍は癌腫と肉腫に大別される。前者は上皮性、後者は非上皮性である。顎口腔領域に発生する癌腫のほとんどは扁平上皮癌で、舌癌と歯肉癌がその大半を占める。顎骨への浸潤を示す癌腫の多くは歯肉癌である。また、顎骨中心性に発生する悪性腫瘍で最も多いのは骨肉腫である。悪性腫瘍は直接死につながる疾患なので診断に際してはより注意が必要である。悪性腫瘍の画像所見は嚢胞、良性腫瘍との共通点が少ない。病巣の境界は不明瞭で、辺縁は不整である。
 
 
1.歯肉癌
 
 歯肉癌は40歳以上の高齢者に多く発生する。組織学的には、大部分が扁平上皮癌である。通常、初期の段階では顎骨への浸潤破壊はあまり生じないため、肉眼的な診査が重要である。しかし、潰瘍型の癌の場合には早期に顎骨への浸潤破壊が認められる。歯肉癌の顎骨への浸潤のタイプはpermeated type(浸潤型)とpressure type(圧迫型)の2種類に大きく分けられる。
 
1)permeated type(浸潤型)
 顎骨を浸潤性に吸収し、それに伴って骨梁が縦方向に残存したもので、境界は不明瞭でなる。砂に水が染み込んだような像やインクが紙に染み込んだような像となる。浸潤型に含まれるが、骨破壊によって不規則な境界を呈し、破壊内部に小骨片を認めるものがあり、虫が食い散らかしたような虫喰型:moth-eaten typeもある。
 
2)pressure type(圧迫型)
 
 腫瘍による骨の圧迫吸収が面状に起こるもので、舟底型吸収像、皿状吸収像を示す。骨硬化縁が存在するため、辺縁は比較的明瞭である。無歯顎症例に多く認められる。
 歯肉癌が顎骨に浸潤した結果、floating tooth(浮遊歯)やspiked root(スパイク状根)が見られることがある。floating tooth(浮遊歯)は癌の急速な浸潤によって歯槽骨の吸収が著しく起こり、歯の周囲が腫瘍組織で満たされ、浮いているように認められるものである。spiked root(スパイク状根)は比較的経過の長い場合に見られる。顎骨が吸収されて歯の周囲が腫瘍組織で満たされ、次いで歯根の全周囲が吸収されてスパイクの様な先の尖った像となる。
 
 歯周炎と歯肉癌は類似した骨吸収のX線像を示すことがあるので、診断には注意を払わなくてはならない。例えばfloating toothにより歯の動揺が認められたといって直ちに、辺縁性歯周炎と診断して抜歯などを行ってはならない。図1に顎骨に浸潤した歯肉癌のX線像を示す。


図1 顎骨に浸潤した歯肉癌のX線像 (a)回転パノラマX線撮影法で得た写真 (b)口内法で得た写真

 a)は回転パノラマX線撮影法で得た写真であり、下顎右側臼歯部に歯槽骨の不規則な吸収(→)が認められる。歯はfloating toothとなり歯根が全周囲からの吸収を受けている。b)は口内法により得た写真で、骨吸収とfloating tooth(→)がより詳細にうかがえる。
 
2. 顎骨に発生する骨肉種
 
 顎骨に発生する骨肉種は20〜30歳代の下顎骨に多く発生する。発育が非常に速く、顎の運動障害、歯の動揺、歯根吸収、歯槽硬線の消失やオトガイ神経麻痺等を生じる。本腫瘍は10代の若年者にも発生することがある。この場合、骨症状によって歯の未萌出時にみられる歯嚢が消失することがあるので、X線写真を観察する際にはこの点にも注意しなければならない。歯根膜腔の拡大がこの疾患の初期X線所見であるともいわれている。本腫瘍は先に述べたように進行が速いため、そのX線像は非定型的となるが次の2つに分類できる。
 
1)osteolytic type (骨融解型)
 図2に、骨融解型の骨肉腫のX線像を示す。境界が不明瞭で辺縁が不規則な骨吸収像を呈するのが特徴である。


図2 骨融解型の骨肉腫のX線像  (a)回転パノラマX線撮影法で得た写真 (b)咬合法軸位で得た写真

 a)に回転パノラマX線撮影法で得た写真の右側部分を示す。下顎右側前歯部〜臼歯部にかけて境界不明瞭、辺縁不規則な骨吸収像(→)が認められる。歯槽硬線も明らかに消失もしている。b)は咬合法軸位で得た下顎右側臼歯部の写真である。頬側の皮質骨(→)は破壊されており、内部も骨吸収像を思わせる境界不明瞭なX線透過像となっている。
 
2)osteoplastic type(骨形成型)
 図3に骨形成型の骨肉腫のX線像を示す。


図3 骨形成型の骨肉腫のX線像 (a)回転パノラマX線撮影法で得た写真 (b)はX線CTで得た写真

 a)は回転パノラマX線撮影法で得た写真の左側部分である。下顎左側臼歯部にX線透過像(→)が認められ、透過像の中央には不透過像も見られる。境界として不明瞭な部分と明瞭な部分が混在している。第2大臼歯の歯槽硬線は消失しており、歯根周囲はX線透過像になっている。(b)はX線CTで得た下顎左側臼歯部の写真である。大臼歯部の頬側皮質骨外側に骨膜反応によってsunray appearance(旭日状)様の放射状の骨新生像(→)が認められる。
 骨膜反応のタイプには、他にthickening(肥厚)、onion skin appearance (玉ねぎの皮状)、Codman's triangle(コッドマン三角)がある。

コメント    :
 顎骨に発生した悪性腫瘍の治療には、他領域での悪性腫瘍と同様、外科的療法、放射線療法、化学療法およびそれらの併用療法が用いられる。ただ、治療よって顔面の変形や咀嚼等に関する機能障害を生じ、患者の個人生活や社会生活に支障を来す可能性があるため、治療に際してはそれらの点を十分考慮する必要がある。

参考資料1 Reference 1:
歯肉および顎骨悪性腫瘍の画像診断
倉林 亮、草間 幹夫
東京医科歯科大歯学部
歯界展望別冊 歯科画像診断の最前線 pp.141-148, 医歯薬出版  1997

キーワード:画像診断,image diagnosis,悪性腫瘍,malignant tumor,歯肉,gingiva,扁平上皮癌,squamous cell carcinoma,骨肉腫,osteosarcoma,浸潤型,permeated type,圧迫型,pressure type,骨融解型,osteolytic type ,骨形成型,osteoplastic type
分類コード:030103、030401

放射線利用技術データベースのメインページへ