放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 1997/12/10 荒木 仁

データ番号   :030062
舌癌の放射線治療
目的      :舌癌の放射線治療法に関する紹介
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :192Ir,198Au
応用分野    :医学、治療

概要      :
 舌癌の治療法は、原則的に最大径が4cm以下までの早期例の場合は放射線治療、4cm以上の進行例の場合は手術が中心となる。放射線治療法では原則的に組織内(小線源)照射を行い、治療中は一部の例外を除き、患者は個室に隔離される。放射線治療の副作用として口内炎などが起こりうる。組織内照射は舌機能が温存される点で優れていると考えられる。

詳細説明    :
 舌癌は舌の辺縁にできることが多く、疼痛などの症状によって発見される。癌が発生する原因として、歯との接触による刺激などが考えられている。初診時にリンパ節転移を認めることもあり、顎下から上頸部リンパ節が多い。国際的な共通の分類(UICC-Union Internationale Contre le Cancer)に基づくと、舌癌はその大きさ、存在部位によってT1からT4まで4つの病期に分類されている。腫瘍の最大径が2cm以下はT1、2cmを越え4cm以下はT2、4cmを越えるものはT3、隣接臓器まで進展している場合はT4に分類される。
 図1に、病期T2の舌癌の例を示す。


図1 T2病期の舌癌の例

 治療法は、原則的にT2までの早期例の場合は放射線治療を行い、T3以上の進行例の場合は手術、あるいは手術と放射線治療あるいは化学療法(抗癌剤)を併用する。また、リンパ節転移がある場合、T2以下でもリンパ節を手術で切除することがある。T2以下の症例の放射線治療は、原則的に患部に放射線源を直接刺入する組織内(小線源)照射を行う。また、頸部リンパ節転移を認める場合や、原発巣の性状から必要と認められる場合は外部照射を加えることがある。
 組織内照射に用いる放射線源には、放射性同位元素で針状のもの(イリジウム、セシウムなど)、粒状のもの(Au グレイン)があり、腫瘍の大きさ、位置や形状によって線源の種類、数量や配置を決めている。また、中空のチューブを患部に留置し、チューブ内で粒状の放射線源(イリジウム)を移動させ照射する遠隔操作式の放射線治療も近年始められている。患部への放射線源の刺入は局所あるいは全身麻酔のもとに行われる。患部に十分な放射線が照射され、かつこれ以外の領域には照射される線量が可能な限り少なくなるように線源が配置される。また、刺入部周辺にガーゼ等をあて、線源と距離をとることにより、歯肉など周囲組織への照射線量をできるだけ低減させる。このため、治療中は舌の動きが制限され食事の摂取が困難になるので、あらかじめ鼻から胃までチューブを挿入し、このチューブから流動食を摂ることになる。治療期間はおよそ5〜7日、遠隔操作式の場合は1〜2週である。遠隔操作式以外での治療の場合、治療期間中は体内に放射線源があるため個室に隔離され、原則として面会はできない。Au グレインは永久刺入(粒を埋め込んだまま)となるが、これ以外の場合は治療終了後に放射線源あるいはそれの入ったチューブを抜去する。図2に舌癌の放射線治療前後の写真を示す。


図2 舌癌の放射線治療  a)治療開始前に舌癌部に高線量率組織内照射用アプリケーターを留置した状態  b)192Irによる舌癌の治療後

 図2a)は、全身麻酔下で高線量率組織内照射治療用アプリケータを顎下部から挿入してある状態を示す。このアプリケータ内に192Ir線源を挿入・留置して6日治療した。その結果は図2b)に示すように癌部は消失し、完治したことがうかがえる。
 治療終了後1-2週間ほどしてから治療した領域の周辺で口内炎が生じ、口内痛をともなうことがある。多くの場合、治療後2ケ月までには口内炎は治癒する。また、治療後6ケ月以降に、下顎骨の露出、壊死などにより外科的治療が必要となることもある。

コメント    :
 舌癌が進行形であり、4cmを越えるT3以上の症例では手術が治療の中心となり、術前あるいは術後の外部照射、あるいは化学療法を併用した集学的な治療が行われている。

キーワード:舌癌、外部照射、組織内(小線源)照射、イリジウム針、Au-198グレイン、tongue cancer, external irradiation, interstitial irradiation, Ir-192 needle, Au-198 grain
分類コード:数字で)
030201,030202,030203

放射線利用技術データベースのメインページへ