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作成: 1999/03/1 澁谷 仁志

データ番号   :030061
顎骨に発生する良性腫瘍の診断
目的      :顎骨に発生する良性腫瘍診断結果の紹介
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :X線管
応用分野    :医学、歯学、診断

概要      :
 顎骨に発生する良性腫瘍は、嚢胞と異なり自立的に過剰増殖し、浸潤性発育を示す。そのX線所見は顎骨に発生する嚢胞と類似しているため、診断の際には注意が必要である。ここでは、顎骨に発生する良性腫瘍の一般的なX線所見、顎骨に発生する良性腫瘍の分類および歯原性腫瘍、非歯原性腫瘍などについて紹介する。

詳細説明    :
 
 良性腫瘍のX線所見は、同一疾患でも異なる場合がある。また反対に、同様なX線所見を示しても異なる疾患のこともある。このため、画像診断のみではなく、口腔内の診査や既往歴、現病歴の問診などが必要である。 
 
1.顎骨に発生する良性腫瘍の一般的なX線所見
 
1)X線透過性
 良性腫瘍は、多くの場合X線透過性を示すが、内部構造物によっては透過像と不透過像の混合体を示す場合や不透過像を示す場合もあり、複雑である。
 
2)形態・辺縁
 腫瘍は通常、円形または類円形を示すが、嚢胞に比較して多房性のX線透過像を示すことが多い。腫瘍の発育に伴い、近遠心的(顎骨の前方後方方向)に増大を示すようになる。また、周囲構造物によってしばしば形態に変化が認められる。
 
3)周囲構造物
 腫瘍の発育に伴い、周囲構造物の形態、位置に変化が現れる。周囲の歯には、腫瘍の圧迫による近遠心的な傾斜、浸潤による歯根の吸収が生じる。顎骨では皮質骨の菲薄化が起こり、やがて骨膨隆として認められるようになる。嚢胞の場合と比べて頬舌的な膨隆は著明である。下顎臼歯部では下歯槽管の下方への圧迫、吸収がみられる。
 
 
2.顎骨に発生する良性腫瘍の分類
 
1)歯原性腫瘍
 
1-1)エナメル上皮腫
 この腫瘍は、下顎臼歯部に好発する。単房性または多房性のX線像を示す。透過像に歯を含むこともある。周囲の歯には歯根のナイフカット状の吸収や傾斜がみられる。下歯槽管も圧迫・吸収を受ける。頬舌的な膨隆が多く認められる。図1に、回転パノラマX線撮影法で得たエナメル上皮種のX線写真を示す。


図1 エナメル上皮種のX線像

 右側(写真上向かって左)の臼歯部〜下顎枝にかけてX線透過像がみられ、皮質骨の菲薄化が認められる。透過像内に歯を含み、第1大臼歯の歯根の吸収が認められる。
 
1-2)腺様歯原性腫瘍 
 この腫瘍は、上顎前歯部に好発する。単房性の透過像内に小石灰化物が散在する。埋伏歯が関係する場合、歯根の一部あるいは全部が透過像に含まれる。
 
1-3)歯原性石灰化上皮腫
 この腫瘍は、エナメル上皮腫の所見に加えて、種々の大きさの塊状石灰化物が認められるものである。
 
1-4)歯原性線維腫
 この腫瘍は、下顎大臼歯部に好発する。関連する歯牙の欠如や埋伏が認められる。通常は単房性の嚢胞様透過像を示す。
 
1-5)歯原性粘液腫
 この腫瘍は、下顎臼歯部に好発する。通常多房性のX線透過像を示すことが多い。格子状(テニスラケット状)の隔壁が認められる。図2は、回転パノラマX線撮影法で得た歯原性粘液種のX線写真で、その左側部分のみを示したものである。


図2 歯原性粘液種のX線像

 左側下顎臼歯部にいわゆるテニスラケット状のX線透過像が認められる。
1-6)セメント質腫
 セメント質腫は通常、WHOの分類によって次の4つに分けられる。
 
(1)良性セメント芽細胞腫:下顎臼歯部に好発する。通常、歯根に連続したX線不透過像である。
(2)セメント質形成性線維腫:根尖部にX線透過像がみられ、その内部に石灰化物が認められる。
(3)根尖性セメント質異形成症:歯槽硬線から連続するX線透過像を示す。初期ではX線透過像だが、徐々にX線不透過像となる。
(4)巨大型セメント質腫:不規則なX線不透過像を示す。
 
1-7)歯牙腫
 
(1)集合性歯牙腫
 集合性歯牙腫は、周囲に骨硬化像を伴った大小様々な変形した歯の集合体である。図3に、口内法で得た集合性歯牙種の下顎前歯部のX線写真を示す。


図3 集合性歯牙種のX線像

 前歯の下方に埋伏歯があり、その右側上方(写真上では左上方)に小さな歯牙様構造物の塊が認められる。
(2)複雑性歯牙腫
 複雑性歯牙腫は、周囲に骨硬化像を伴った小さな石灰化物の集合体である。石灰化物には歯の構成成分が含まれる。
 
2)非歯原性腫瘍
 
2-1)化骨性線維腫
 この腫瘍は、セメント質形成性線維腫と区別しにくい場合がある。境界明瞭なX線不透過像を示す。
 
2-2)線維性骨異形成症
 この腫瘍は、すりガラス状の境界不明瞭なX線不透過像を示す。
 
2-3)巨細胞腫
 この腫瘍は、下顎前歯部に発生する多房性のX線透過像を示す。
 
2-4)血管腫
 この腫瘍は、骨硬化縁を伴う辺縁不規則なX線透過像を示す。
 
2-5)神経鞘腫
 この腫瘍は、下顎神経に発生した場合、下歯槽管を拡張させた長い楕円形のようなX線透過像を示す。
 

コメント    :
 顎骨に発生した良性腫瘍に対しては、患者の性別、年齢、腫瘍の種類や進展範囲等を考慮した上で、開窓療法、腫瘍の摘出、顎骨切除などの治療が行われる。

参考資料1 Reference 1:
口腔領域の嚢胞と良性腫瘍の画像診断
井田 瑞枝
東京医科歯科大歯学部
歯界展望別冊 歯科画像診断の最前線 pp.115-126 医歯薬出版 1997

キーワード:画像診断,image diagnosis,良性腫瘍,benign tumor,歯原性腫瘍,odontogenic tumor,非歯原性腫瘍,non-odontogenic tumor
分類コード:030103、030401

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