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作成: 1999/02/24 小林 紀雄

データ番号   :030059
顎関節撮影法
目的      :顎関節撮影法の紹介
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :X線管
応用分野    :医学、歯学、診断

概要      :
 顎関節のX線撮影では、関節頭と関節窩の形態や両者の位置関係を正しく描出することが重要である。そのための撮影法には、単純撮影、歯科パノラマX線撮影法、断層撮影法、X線CT等があるが、診断や治療の目的に応じてそれらを組み合わせて用いる。ここでは、これらの撮影法について紹介する。

詳細説明    :
 
 顎関節部のX線撮影では、顎関節を構成する関節頭と関節窩の形態や両者の位置関係を正しく描出することが重要である。これにより、異常の有無や程度が正確に把握されることになる。顎関節は、単純撮影による頭部の正面像、側面像、軸位像でも観察できるが、顎関節部を詳しく診断、分析したい場合には専用の撮影法が用いられる。
 なお、顎関節は左右一対で機能している特異な器官であるため、1回の検査で両側を撮影する場合が多い。ここでは、単純撮影法、歯科パノラマX線撮影法、断層撮影法、関節腔造影撮影法、X線テレビおよびX線映画法等について紹介する。
 
 
1.単純撮影法
 
 顎関節部の単純撮影法としてよく用いられるのは、正面像を得る眼窩・下顎枝方向撮影法,側面像を得るSchueller氏撮影法およびParma氏撮影法である。これらを図1に示す。


図1 単純撮影法 a)眼窩・下顎枝方向撮影法 a1)原理図 a2)得られるX線写真  b)Schueller氏撮影法 b1)原理図 b2)得られるX線写真  c)Parma氏撮影法 c1)原理図 c2)得られるX線写真

 図1a)は、眼窩・下顎枝方向撮影法の原理図と得られる写真である。正中矢状面を検側へ25°程度傾けて開口させ、フランクフルト平面に対して上方より25〜30°の角度でX線を入射する。これにより、骨が比較的薄くて均一な眼窩像の内に顎関節を観察することができる。一方、側面像を得るSchueller氏撮影法とParma氏撮影法では、いかに検側と非検側の顎関節の重複を避けるかがポイントとなる。
 
 図1b)は、Schueller氏撮影法の原理図と得られる写真である。正中矢状面をカセットと平行にし、フランクフルト平面に対して上方より20〜25°の角度でX線を入射する。これによって非検側の顎関節は下方に投影されることになる。図1c)は、Parma氏撮影法の原理図と得られる写真である。Parma法では、X線管焦点を非検側皮膚面にできるだけ近づけ、拡大と半影によって非検側顎関節をボカし、検側顎関節を鮮明に描出する。いわゆる近接撮影法を応用した撮影法である。ただ、通常のX線装置を利用すると、多重絞り装置の存在により焦点と非検側皮膚面を十分近づけることができず、非検側顎関節のボケが不充分になってしまう。そこで実際には、フランクフルト平面に対して下方より5°程度の角度でX線を入射し、非検側顎関節を上方に投影させてボケの不足を補うParma氏変法が利用されている。
 
 
2.歯科パノラマX線撮影法
 
 パノラマX線撮影法は、歯、顎、顔面領域の展開像を得るための撮影法であるが、顎関節部も同時に描出される。さらに、最近のほとんどの装置では顎関節専用の撮影も可能になている。図2に顎関節撮影モードで得られる写真を示す。開口状態と閉口状態とでの2回の撮影を行うことで、1枚の写真上に左右側、開閉口時の顎関節の像を得ることができる。


図2 歯科パノラマX線撮影法の顎関節撮影モードにより得られたX線写真

 
3.断層撮影法
 
 顎関節を対象とした断層撮影法としては、一般的な広角断層撮影法の他に、断層域が厚い狭角断層撮影法(Zonogram)、一度に異なった断層面の画像が得られる同時多層断層撮影法などが用いられる。図3に、断層撮影法により得られたX線写真を示す。


図3 断層撮影法により得られたX線写真(狭角断層撮影法(Zonogram)による側面X線写真)

 図3)は、振角5°の狭角断層撮影法(Zonogram)により得られた側面X線写真である。
 
 
4.関節腔造影撮影法
 
 顎関節の関節腔内に造影剤を注入して撮影を行う手法で、関節円板等の顎関節部軟組織の状態を把握するために用いられる。一般に、断層撮影法と組合せて利用される。図4a,b)に、造影剤を注入し広角断層撮影法によって得られた正面像(a)、側面像(b)を示す。
 
 
5.X線テレビおよびX線映画法(X線シネ撮影法)
 
 主に、顎関節の動態異常の分析に利用される。関節腔造影撮影法と併用して行われる。
 
 
6.その他の撮影法
 
 X線CTやMRIなどの最新の診断装置も利用されている。X線CTは骨組織の分析に優れ、3D構築などの画像処理も可能である。MRIは関節円板等の顎関節部軟組織を直接描出できるため、最近その利用頻度が高まっている。

コメント    :
 顎関節の撮影法に種々あるが、1人の患者にすべてを用いるわけではなく、疾患の種類や程度により使い分けられる。たとえば顎関節の骨折を疑う場合には、まず手軽な歯科パノラマX線撮影法で観察し、必要に応じてSchueller氏撮影法や眼窩・下顎枝方向撮影法を行う。骨折が複雑な場合には、これに断層撮影法、X線CTを追加する。また、近年顎関節症の患者が歯科病院に多く来院するが、症状の程度によっては造影撮影やMRIなどの高度な撮影が必要となる場合が多い。

参考資料1 Reference 1:
上顎洞疾患の画像診断
倉林 亨
東京医科歯科大学歯学部
歯界展望別冊 歯科画像診断の最前線 PP.127-134,医歯薬出版1997

キーワード:X線撮影法,radiography,単純撮影法,断層撮影法,tomography,造影撮影法,contrast-enhanced radiography,歯科パノラマX線撮影法,panoramic radiography,骨折,fracture,顎関節,temporomandibular joint,眼窩・下顎枝方向撮影法,Schueller氏撮影法,Parma氏撮影法
分類コード:030103、030401

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