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作成: 1998/03/10 関谷 雄一

データ番号   :030054
子宮頚癌の放射線治療
目的      :子宮頚癌の放射線治療に関する紹介
放射線の種別  :エックス線,ガンマ線
放射線源    :直線加速器、60Co、192Ir
応用分野    :医学、治療

概要      :
 子宮頚癌の放射線治療は、手術が困難となる中期及び後期の症例に対して行われる。初期の症例では、手術と放射線治療の治療成績に有為な差はない。手術後の5年生存率は、上皮内癌で80-90%、子宮頚部限局癌で70%、骨盤壁、膣に達する癌で40-60%、小骨盤腔を越える癌で30%以下である。放射線治療に伴う副作用は、直腸障害及び膀胱傷害が大きな割合をしめている。

詳細説明    :
1.発生頻度
 一般に子宮癌といわれる病気には、子宮体癌と子宮頚癌の二つがある。両者は病気としての性質が異なるために、治療法も違ってくる。子宮体癌の発生頻度が少ないため、ここでは子宮頚癌の治療法の一つとして行われている放射線治療について紹介する。子宮頚癌は、我が国では比較的発生頻度の高い疾患であるが、図1では、uterusとして両者の合計が示されているが、近年その発生頻度は減少しつつあることがわかる。


図1 日本における癌発生率(女性)の年次推移(原論文1より引用)

2.臨床進行期分類
 子宮頚癌の進行の程度を国際臨床進行期分類法に基づくと0期から4期までに分けることができる。この分類法は、解剖学的な所見にしたがって、病気がどの部分にまで及んでいるかで分けてあり、手術の方法など、次の項目で述べる治療法の選択の指針となる。
 
  国際臨床進行期分類
   0期 :上皮内癌(子宮頚部の表面だけにとどまっている癌)
   1期 :子宮頚部に限局する癌
   2期 :子宮頚部を超えて広がった癌、しかし、まだ骨盤壁または膣壁下1/3には達していない
   3期 :骨盤壁または膣の下/1/3に達した癌
   4期 :小骨盤腔を超えて広がった癌、および膀胱、直腸の粘膜を侵している癌
 
3.治療法(外部照射、腔内照射)
子宮頚癌の治療法は、手術と放射線治療の二つに大別される。我が国では、2期病変までは手術療法が行われ、3期及び4期では放射線治療法が選択されることが一般的である。この理由は、3期以上ではメスを入れる切除線に病変が及んでいるため手術が出来ないことによる。
 1期および2期病変でも放射線治療は可能であり、高齢者や合併症などで手術が困難な場合には放射線治療が行われている。手術療法と放射線治療法では、治療成績にはほとんど差がない。しかし治療後の後遺症の種類と発生の頻度がやや異なった結果が得られている。初期の病変期ではどちらの治療法を行うかは、主治医と相談の上、患者自身が選択するのが望ましい。
 放射線治療の特徴として、人間の体は放射線に感受性がないことから手術療法と違って治療中に痛みや熱感などの苦痛を感じることはない。子宮頚癌の放射線治療は、外部照射と腔内照射の2つの放射線照射法を組み合わせて行われているのが普通である。外部照射は、体の外から放射線を照射する治療法で、子宮と骨盤内のリンパ節を照射の標的とする。外部照射用線源としては、直線加速器で発生したX線が用いられている。
 外部照射と平行して、治療の途中3〜 4週目ころから腔内照射の併用を始める。腔内照射は週1回、合計4〜 5回行われる。腔内照射では、子宮の内腔にプラスチックまたは金属で作られた直径数ミリの管状のアプリケ-タ-を入れ、この管の中にイリジウムまたはコバルト金属の線源を機械的に挿入して照射する。
 図2に子宮頚癌の放射線治療中のMRI画像を示す。


図2 子宮頚癌の放射線治療:腔内照射時MRI画像

 中央の黒い管状のものが膣内に挿入されてアプリケーターであり、この管の上部に細いタンデム部がありその中にコバルト-60やイリジウム-192の放射線源を遠隔操作で配置する。これらの線源を配置する時間、すなわち照射時間、は1分程度で、この照射治療を毎日1回づつ、5 〜 6週間続ける。この治療法は子宮の内腔にアプリケ−タ−を入れる操作があるため、外部照射と比べて手間がかかるが、麻酔の必要はなく、また、入院の必要もないという特徴がある。
 このような外部照射と腔内照射が終われば、治療はすべて終了するが外来通院で行われるのが普通である。
 
4.5年生存率
 癌が治ったかどうかという判定は大変困難で、治ったように見えても、思いがけず再発するという場合も多い。癌の再発の大部分が治療後5年以内に起こることから、治癒の目安として、5年後に生存している人の割合(5年生存率)が出されている。表1に子宮頚癌治療者の5年生存率を示す。

表1 子宮頚癌5年生存率
-------------------------------------------------------------
報告者    施設        1期  2期  3期  4期  全体
-------------------------------------------------------------
大川他1) 東京女子医大       80%   71%    53%    25%   55%
佐藤他  千葉県がんセンター    93    74     52      -     -
-------------------------------------------------------------
1)原論文2より引用
 各施設や地域によって若干の違いがあるが、だいたい子宮癌全体で50%台、1期80〜90%台、2期70%前後、3期40〜60%、4期30%以下である。
 
5.副作用
 放射線治療による副作用には、治療中からの早期の副作用と治療後年月を経てから生じる晩期障害がある。早期の副作用としては、食欲低下や軽い吐き気、腸の刺激による下痢等がある。また,治療が進んで行くと同時に現れる副作用では照射部位の皮膚が赤くなったり、ひりひり痛んだりすることがある。これは太陽光線の紫外線の場合と似た日焼け状態が生じたことによる。これらは一過性のもので、治療が終われば症状も軽快するが、次に述べる晩期障害は放射線治療の副作用としては問題である。
 放射線は癌細胞を殺すと同時に周囲の正常組織にも障害を与え、特に子宮の近くにある直腸と膀胱が障害を受けやすいため、これらが晩期障害の大多数を占める。
 直腸障害は、放射線によって直腸粘膜の再生能が低下したり、周辺の毛細血管が詰まったりするために起こる。症状は軽い血便から大量の下血まで程度の差はいろいろであるが、初めに見られる症状は直腸からの出血である。こうした症状は治療後数か月ないし3,4年経って初めて現われ、多くの場合、断続的に出血が見られるが1,2年続いた後自然に治癒する。しかし、重症になると輸血を必要とすることもある。また、数%以下であるが、人工肛門を作る手術が行われたこともある。
 膀胱障害でも直腸障害と同様に膀胱粘膜の再生能が低下したり、周辺の毛細血管が詰まったりする。この場合には直腸障害よりもやや遅れて、治療後1,2年から数年を経て発症することが多い。症状は血尿が出ることが一般的で、1,2年後には自然治癒するのがほとんどであるが、尿路変更の手術を必要とする重症の例も2,3%見られる。このほか、小腸の障害で腹痛や腸閉そくが起こることもあり、閉経前の患者では、卵巣の機能が無くなり生理が止まったこともある。

コメント    :
 ここ数年の間に放射線治療装置が格段の進歩を遂げ、また放射線治療技術においても障害を減らす工夫が行われているので、今後の治療ではこうした放射線障害の発生は、今までよりずっと少なくなると思われる。

原論文1 Data source 1:
Cancer Incidence in Japan, 1985-89:Re-estimation Based on Data from Eight Population-based Cancer Registries.
The Research Group for Population-based Cancer Registration in Japan.
Jpn J Clin Oncol 1998;28(1):54-67

原論文2 Data source 2:
Treatment results of radiotherapy for cervical cancer--experience of Tokyo Women's Medical College over 25-year period.
Ohkawa T. et al.
Department of Radiology, Tokyo Women's Medical College.
Gan to kagaku Ryoho 1997;24 Suppl 1:35-42

参考資料1 Reference 1:
X線CTを利用した子宮頚癌CoRALS腔内照射の線量分布自動最適化の臨床的研究
佐藤 滋宏、佐方 周防
千葉県がんセンター放射線治療部
日本医学放射線学会雑誌、56(5),pp.294-302,1996

参考資料2 Reference 2:
Randomised study of radical surgery versus radiotherapy for stage Ib-IIa cervical cancer.
Landoni F. et al.
III Clinica Obstetrico ginecologica, University of Milan, Italy.
Lancet 1997;359(9077):535-540

キーワード:子宮頚癌、 cervical cancer, 放射線治療、 radiotherapy, 腔内照射、 brachytherapy,外部照射、external irradiation
分類コード:030201

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