作成: 1998/03/16 安田 茂雄
データ番号 :030047
肝細胞癌の放射線治療
目的 :肝細胞癌治療における放射線療法の紹介
放射線の種別 :エックス線
放射線源 :直線加速器
応用分野 :医学、治療
概要 :
肝細胞癌は慢性肝炎、肝硬変などの慢性肝疾患を下地に発生するものが大多数で、近年ハイリスク群からの早期発見および治療法の進歩によりその予後は改善している。治療の主体は外科的切除、肝動脈塞栓術、経皮的エタノール注入療法であるが、この他にも種々の治療が試みられている。肝細胞癌における放射線治療はまだあまり普及していないが効果は認められており、肝機能を温存しながら腫瘍を消滅させることが可能となってきた。
詳細説明 :
肝の腫瘍について、日本肝癌研究会肝癌追跡調査委員会により、19921.1.〜199312.31.の2年間に我が国649施設に対するアンケート調査が実施され報告されている。その結果の一部である「臨床的に原発性肝癌と診断された年齢」を表1に示す。
表1 臨床的に原発性肝癌と診断された年齢
(原論文1より引用)
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年齢 肝細胞癌 胆管細胞癌 嚢胞腺癌 混合型 肝芽腫 肉腫
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男 女 合計 男 女 合計 男 女 合計 男 女 合計 男 女 合計 男 女 合計
10147 2941 13088 258 158 416 14 6 20 42 13 55 11 6 17 5 6 11
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0〜 4 20 3 23 0 0 0 0 0 0 0 0 0 9 6 15 1 0 1
5〜 9 1 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
10〜14 2 0 2 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 1 0 0 0
15〜19 7 2 9 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
20〜24 16 3 19 0 1 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
25〜29 8 4 12 1 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1
30〜34 36 8 44 2 1 3 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
35〜39 82 12 94 1 1 2 0 0 0 1 1 2 0 0 0 0 0 0
40〜44 239 38 277 6 3 9 1 0 1 2 0 2 1 0 1 0 0 0
45〜49 523 61 584 18 7 25 0 1 1 2 0 2 0 0 0 0 0 0
50〜54 911 157 1068 18 14 32 3 0 3 5 1 6 0 0 0 0 0 0
55〜59 2071 384 2455 48 21 69 4 0 4 9 3 12 0 0 0 1 1 2
60〜64 2648 645 3293 44 20 64 2 1 3 12 2 14 0 0 0 1 1 2
65〜69 1899 705 2604 53 36 89 1 0 1 6 2 8 0 0 0 0 1 1
70〜74 1009 541 1550 30 30 60 1 2 3 5 3 8 0 0 0 1 1 2
75〜79 466 279 745 25 15 40 1 1 2 0 1 1 0 0 0 1 1 2
80〜84 169 81 250 10 6 16 1 1 2 0 0 0 0 0 0 0 0 0
85〜89 33 17 50 2 1 3 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
≧90 7 1 8 0 2 2 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
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平均年齢 61.8 65.5 63.4 64.9 60.5 69.4 59.5 63.3 6.2 1.4 54.2 61.0
63.7 64.2 65.0 61.4 3.8 57.6
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肝細胞癌数(13,088)は原発性肝癌全体(13,607)の内の約96%と圧倒的多数を占め、残りの4%の大半(416/519)は胆肝細胞癌である。肝細胞癌が発見された時の年齢ピークは、60歳代前半、胆管細胞癌では60歳代後半であり、平均年齢は肝細胞癌で男性61.8才、女性65.5才、肝管細胞癌で男性63.4才、女性64.9才である。また、肝細胞癌および肝管細胞癌の発生に関する男女比は各々、3.5/1(=10,147/2,941)、1.6/1(=258/158)でいずれも男性に多い。
手術例からの検討で肝細胞癌患者の9割以上に慢性肝炎、肝線維症、肝硬変といった慢性肝疾患の合併がみられる。また、B型およびC型肝炎ウイルス感染との関わりが強く、9割近くがいずれかの感染に陽性である。このため、超音波検査および血清腫瘍マーカーの測定を定期的に行い、必要に応じてCT、MRIによる検査が行われている。このような定期的な検査で発見された腫瘍の半数以上は径2cm以下であるのに対し、年に1回程度の検診で発見された腫瘍の平均径は3cm以上とされている。早期の肝細胞癌では自覚症状を伴うことは稀で、自覚症状から発見された場合は進行癌の可能性が高くなっている。
従来、肝細胞癌の治療は外科的切除が唯一の根治的治療であり、手術法の進歩により治療成績も向上してきた。しかし、切除可能なのは病変が限局していて肝機能が良好な場合であり、このようなケースは肝細胞癌患者全体の3分の1程度である。手術以外には経カテーテル肝動脈塞栓術、経皮的エタノール注入療法が機能保存的治療の主体をなして行われている。このような治療法を行っても高率に再発がみられ、治療後も定期的な観察が必要となる。さらに高度進行癌の場合には、化学療法が行われることが多く、免疫療法が補助治療として行われ、局所治療では経皮的マイクロ波凝固療法、温熱治療なども行われている。
放射線治療に関しては、肝は放射線感受性が高い臓器とされ、照射による肝機能の低下が危惧されることもあって、積極的に行っている医療施設は少ない。しかし、他の治療法では効果が得にくい脈管内腫瘍栓に対して放射線照射による縮小効果がみられるのをはじめ、集学的治療の中で行われた部分肝照射で肝機能を低下させずに治療効果が認められた例がある。放射線治療では、高エネルギーX線を体外から患部に向かって照射する。図1に、放射線治療前後の肝細胞癌部位のX線CT画像を示す。
図1 肝細胞癌の放射線治療前後のX線CT画像 a)治療前 b)治療後2か月 c)治療後2年
肝右葉の前上区域に腫瘍(矢印)があり、肝動脈塞栓術に経皮的エタノール注入療法および放射線治療の両者を併用して治療を行った。X線照射後2か月時のCT画像(図1b)では壊死に陥った腫瘍は黒く観察され(矢印)、その周囲に造影剤で白く造影されて見える領域が照射により治療されたところである。治療後2年時(図1c)では、照射した領域の萎縮とともに黒い部分の腫瘍も縮小していて、再発は認められず、肝機能の悪化も認められない。
放射線治療を開始する前に、先ずCT検査で標的病巣を確認して放射線を照射する範囲、入射方向をコンピューターを用いて決定する。標的の線量を多くし周囲臓器への線量を少なくするように、多方向から照射されることが多い。治療は6〜7週間かけて行われる。
放射線治療の副作用として、食欲低下、悪心、倦怠感がある。また胃腸が照射野に入ると胃腸粘膜に炎症、びらん等を生じることがある。また、一方向からの照射の場合、照射野内の皮膚に発赤が生じるが、多方向からの照射ではこの発赤はほとんど目立たない。
これらの副作用の中で、最も問題になるのは肝機能障害であり、治療前すでに肝機能が著しく低下していた場合や腫瘍の進行度が著しい場合には、特にこの可能性が高く、また照射野に含まれる肝容積が大きい場合にもこの可能性が高い。化学療法などとの併用の場合には、骨髄の造血能低下(白血球減少、血小板減少、貧血)がみられることもある。
コメント :
肝細胞癌の治療ではできる限り肝機能を温存して腫瘍の制御を得ることが肝要で、放射線治療も肝機能に対する影響を念頭に入れて照射方法を工夫する必要がある。現状では、一部の医療施設に限られるが、陽子線治療法も行われている。陽子線は、体内での放射線の線量分布がエネルギーに比例したある深さで急激に高くなることから、この特性を生かして病巣に周囲より高線量を照射することができる。陽子線照射単独でも良好な腫瘍の制御が行われている。今後はX線照射装置でもコンピューター制御法の発達によって腫瘍局所に従来以上の高線量を集中させることができ、その利用価値が大きくなってきた。
原論文1 Data source 1:
C.臨床診断 Table 18. 臨床的に原発性肝癌と診断された年齢
第12回全国原発性肝癌追跡調査報告(1992〜1993) p.45, 日本肝癌研究会肝癌追跡調査委員会編集、日本肝癌研究会発行,1996.5.
キーワード:放射線外部照射、external beam irradiation,肝細胞癌、hepatocellular carcinoma,直線加速器、linear accelerator,脈管内腫瘍栓、vasucular invasion,超音波検査、ultrasonography
分類コード:030102,030402,030201