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作成: 1997/03/23 山本 和高

データ番号   :030042
ディジタルラジオグラフィによる消化管造影X線検査
目的      :消化管造影検査におけるディジタルラジオグラフィの有用性の説明
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :X線管
応用分野    :医学、診断

概要      :
 ディジタルラジオグラフィ(DR)の進歩により、X線フィルムでの撮影にほぼ匹敵する画質が得られるようになってきた。DRでは、X線フィルムでの撮影と異なり現像などの処理が不要で、即時に画像がCRT上に表示され、データの保存や管理も容易であるといった特長があり、胃癌の集団検診などの消化管X線検査においてもDR化が進んでいる。DRの進歩、普及により、将来的にはフィルムを使わないX線画像診断が可能になる。

詳細説明    :
 近年、画像情報のディジタル化が急速に普及しており、消化管造影X線検査においてもディジタル化が進んでいる。イメージングプレートに記録されたX線の情報をレーザ光線を用いて読み取るCR(Computed Radiography)は、胸部単純X線検査など一般撮影に広く用いられているが撮影枚数の多い消化管造影検査には問題があった。イメージインテンシファイアー(I.I.)とTVカメラを用いる方式のディジタルラジオグラフィ(Digital Radiography、DR)はDSA(Digital Subtraction Angiography)として血管造影検査などに用いられてきたが、解像力がX線フィルムに及ばず、ダイナミックレンジも狭くてコントラストにも限界があったため、消化管造影検査には利用されなかった。最近、高精細I.I.と多素子CCD(charged coupled device)カメラの開発により解像力と濃度分解能が高いディジタルX線撮影装置が実用化され、消化管造影検査にもDRの利用が進んでいる。
 従来からのバリウムと空気による二重造影法を用いる消化管X線診断は、消化管の様々な病変の画像診断に不可欠な検査法であり、特に胃癌や食道癌などを目的とした集団検診に広く利用され、それらの早期診断に大きく貢献している。一般には、消化管造影検査は、X線テレビで透視しながら適当な部位やタイミングを判断してX線フィルムに撮影し、現像されたフィルムを読影して診断が行われる。ここでX線フィルムでは、現像しないと画像の評価ができないが、DRでは画像が即時にCRTに表示されるので、X線テレビによる透視では気がつきにくい病変も検出でき、撮影条件もすぐに変更できるので撮影ミスを減らすことができる。X線フィルムによる撮影に比較すると被曝線量も低い。X線テレビで透視をしながらX線フィルムで撮影する場合には、その間にわずかなタイミングのずれがあり、バリウムの食道通過時など動きの速いものの撮影は容易ではないが、DRでは連続撮影が可能であり、図1に頚部食道造影の連続写真を示す。


図1 頚部食道造影の連続画像(7.5枚/秒)。(原論文1より引用)

 左上、右上、左下および右下の順に、バリウムが通過していく状態がよく示されている。従来のフィルム撮影法では、このような連続画像の撮影は困難である。
 多くの施設ではレーザーイメージャーを用いてディジタル画像データをフィルムに出力しているが、一部の胃の集団検診などではCRT上に表示される画像で診断しており、フィルムは不必要になっている。ただし、DRでは視野サイズと解像力は反比例し、大きな視野ではX線フィルムの分解能に劣るので、胃小区の描出など微細な病変を描出する場合には小さな視野で撮影する必要がある。
 図2に早期胃癌の造影像を示す。


図2 早期胃癌。a)DR法による撮影 b)従来のFS法により撮影(原論文2より引用)

 胃幽門部後壁に、少し隆起し中央部はやや凹んだ病変(矢印)が認められる。DRの画像は、従来のフィルムでのイメージに近いがコントラストが少し劣っている。
 ダイナミックレンジはX線フィルムよりもやや狭いが、適当な画像処理などにより実用的には問題とならないと思われる。その他様々な画像処理を簡単に行うこともでき、原画像があまり良くなくても病変を明瞭にみせることもできる。しかし、画像処理方法によっては逆に異常でないものを病変のように表示してしまうこともあり、適切な画像処理法の検討はDRにおける課題の一つであり、さらにコンピュータ支援診断への可能性も期待される。画像データの保管、検索、転送が容易であることはDRの大きな特長である。集団検診のように大量の検査データを扱う必要のある場合にはDRは非常に有効であり、また画像の保管・通信システム(PACS)による統一的な画像データ管理にも適しており、今後、消化管造影検査以外のX線検査もDRに移行していくものと思われる。

コメント    :
 DRの性能向上は著しく、CCDカメラの画素を100万から400万に増やし2000x2000マトリックスに対応し、分解能を2倍にし、ダイナミックレンジもさらに広い装置、さらに高性能の装置が出てきている。従来のX線フィルムの画質を凌駕するイメージがCRT上に表示されるようになる。DRの進歩、普及によりフィルムの必要性は減少し、放射線検査における業務が現在のものとはかなり変化すると予想される。DRは大量の画像データを発生する集団検診にも適している。DRによる被曝線量はX線フィルムでの撮影より少ないが、装置の進歩が診断率の向上とともに、さらに被曝線量の減少にも寄与することが期待できる。

原論文1 Data source 1:
ディジタルラジオグラフィ装置:DIGITEX PROの使用経験
武部 義行、一島 茂樹、赤田 渉、芦田 友紀、菅原 修二、前田 知穂
京都府立医科大学 放射線科
MEDICAL NOW,No.34,8-13,1998

原論文2 Data source 2:
Digital Radiographyによる消化管造影検査の検討
飯沼 元、内山 菜智子、中嶋 秀麿、他
国立がんセンター中央病院
映像情報Medical 28(6),319-325,1996

キーワード:ディジタルラジオグラフィ(digital radiography)、消化管X線検査(gastrointestinal X-ray examination)、食道癌(esophageal cancer)、胃癌(gastric cancer)、結腸癌(colon cancer)
分類コード:030103,030401

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