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作成: 1998/03/09 山本 和高

データ番号   :030041
経皮経管的冠動脈拡張術による狭心症や急性心筋梗塞の治療
目的      :選択的血管造影検査の技法を応用したIVRによる虚血性心疾患の治療法の紹介
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :X線管
応用分野    :医学、診断、治療

概要      :
 心筋に血液を供給している冠動脈の狭窄あるいは閉塞によって引き起こされる狭心症や心筋梗塞は、日本でも主要な死因の一つである。経皮経管的冠動脈形成術(PTCA)は、血管造影検査の技法を応用しX線画像で位置を確認しながら挿入したカテーテルを用いて冠動脈の狭窄病変を拡張する方法で、冠動脈疾患に対する治療法として広く利用されており、バルーンを用いる方法ばかりではなく新しい装置や手法も開発されている。

詳細説明    :
 経皮経管的冠動脈形成術(Percutaneous Transluminal Coronary Angioplasty-PTCA)は、血管造影検査の技法を応用して冠動脈の粥状動脈硬化性狭窄部を拡張する方法である。冠動脈の狭窄病変の末梢側に他の動脈を吻合して血流が得られるようにするA-Cバイパス術のような複雑な手術操作を必要とせず、血管造影検査室で簡単に行えるので、冠動脈の狭窄病変に対する治療法として広く実施されている。最初は、狭心症に対する待機治療であったが、器材の進歩や技術の向上により、心筋梗塞急性期の緊急の再疎通療法としても行われるようになった。

1.バルーンを用いる基本的手技
 上腕動脈または大腿動脈よりカテーテルを挿入し、右および左冠動脈を選択的に造影し、狭窄の程度、部位、形態を観察し、PTCAの適応があることを確認する。図1にバルーンを用いたPTCAを模式的に示す。


図1 バルーンによるPTCAの模式図

 ガイドワイヤを狭窄部の抹消側まで進める(a)。側枝に入り込まないように注意する必要がある。バルーンを収縮させた状態でバルーンカテーテルを進め、狭窄病変の中央部にバルーンが位置するようにして、バルーンを10〜15psiの低圧で拡張し、中央がへこんでいるのを確認する(b)。次にバルーンを80〜100psiの高圧下で拡張する(c)。拡張する時間は30秒前後で、胸痛などの自覚症状や心電図の異常をモニターして適宜調節する。治療を行った後、バルーンを収縮させて病変部より引き抜き、再び冠動脈造影を行い、狭窄部の改善の程度を評価する(d)。
 図2にPTCA前後の冠動脈造影写真を示す。


図2 PTCA前後の冠動脈造影像

 図2aの狭窄病変部(矢印)がPTCA後(図2b)には、太くなり血液の循環していることがわかる。この段階で拡張が不十分であることが判れば、さらに上記の操作を繰り返す。
 バルーンを用いるPTCAでは下記のような合併症が起こることが報告されている。冠動脈の壁の損傷により生じる冠動脈解離あるいは穿孔,冠動脈の一時的閉塞により発生する心室細動等の不整脈,血栓、動脈解離、冠動脈の攣縮(spasm)、拡張された血管壁が弾性により元にもどるelastic recoilなどが原因となる急性冠閉塞等のいくつかの重篤な合併症を生じ、心筋梗塞を引き起こしたり、時には死亡にいたる場合もある。また、石灰化が強い場合、狭窄の範囲が長い場合、また高度に屈曲している場合や完全閉塞しているといった病変ではバルーンによる拡張が不可能であったり、困難なことがある。また、バルーンにより拡張された部分の再狭窄を起こす患者が3〜6ヵ月以内に30〜50%も発生するという問題もある。
 これらの問題点を克服するために新しい道具(new device)が使われるようになった。

2.New Device
2.1 ステントを用いる方法
 ステントは、金属製の筒状の金網で血管を内側より支えて拡張された冠動脈の内腔の断面積を保つ働きをする。現在利用されているステントの例を図3に示す。


図3 パルマッツステント

 ステントには編み目、材質、保護シースの有無、拡張の方法などにより多くの種類が考案されている。バルーンに装着して狭窄部に移動したステントをバルーンで拡張するバルーン拡張型(baloon expandable)のステントが多いが、ステント自身が拡張する(self expandable)ものもある。バルーン方式で急性冠閉塞の予防または離脱、さらには十分な拡張が得られなかった場合、再狭窄の予防などを目的として使用される。
 ステントの問題点は急性期から亜急性期におこる血栓性閉塞で、適切な抗凝固療法、抗血小板療法を行う必要がある。ステントの使用により急性冠閉塞に対して行われる緊急バイパス手術の頻度は減少した。再狭窄の発生率はバルーンのみの場合より減少したが、それでも20%程度は認められ、再拡張が必要となっているのが現状である。
2.2 その他の方法
 DCA(Directional Coronary Atherectomy)、ロータブレーター(Rotablater)といった器具を用いて粥状動脈硬化病変を直接的に削り取る方法も行われ、バルーンのみでは拡張が困難な症例に利用されている。

コメント    :
 PTCAは冠動脈疾患の治療法として今後も広く利用されると考えられるが、重篤な合併症を引き起こす危険性もあるので、充分に習熟した術者が慎重に行うべきである。new deviceと共に血管内視鏡や血管内エコーなどの新しい冠動脈イメージングも進歩しており、今後はそれぞれの病変に応じた、より安全で効果的なPTCAが実施されるようになるであろう。

参考資料1 Reference 1:
PTCA法の最近の進歩と最新症例
中川 義久、延吉 正清
社会保険小倉記念病院
映像情報MEDICAL 28(2),136-142,1996

キーワード:経皮経管的冠動脈形成術、PTCA(Perctaneus Transluminal Coronary Angiogrphy)、虚血性心疾患(ischemic heart disease)、狭心症(angina pectoris)、心筋梗塞(myocardial infarction)、冠動脈造影検査(coronary angiography)
分類コード:030101

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