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作成: 1998/02/14 山本 和高

データ番号   :030038
痴呆に至るアルツハイマー病に対する核医学的検査
目的      :核医学的画像検査法による老人性痴呆の原因であるアルツハイマー病の早期診断
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :123I、99mTc、18F
応用分野    :医学、診断

概要      :
 脳血流シンチグラフィ(SPECT)などの核医学検査は、他の画像検査で脳萎縮などの異常所見が認められない早期に、老人性痴呆の主要な原因となるアルツハイマー病において特徴的な所見を示し、アルツハイマー病の早期診断や、痴呆を来たす他の疾患との鑑別診断に有用である。アルツハイマー病の治療法はまだ開発されていないが、少しでも痴呆の進行を遅らせる可能性のある対策を実施するためにも、早期での診断は重要である。

詳細説明    :
 老人性痴呆は高齢化社会において重大な問題である。表1に示したように今後の老年人口の増加に伴い、1995年で123万人と集計された痴呆性老人は、2015年には247万人に倍増すると予測されている。2015年には65歳以上の老年人口が総人口の約24%、3千万人強、になり、その内の8%が痴呆性老人になると推定されている。

表1 総人口、老年人口、痴呆性老人の将来数の推計(原論文1より引用)
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 年次   総人口    65歳以上人口  痴呆性老人推計数
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 1995   12,526万人   1,815万人     123万人
 2000   12,698     2,151       150
 2005   12,866     2,438       179
 2010   12,945     2,727       213
 2015   12,885     3,077       247
 2020   12,690     3,197       274
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 痴呆の原因としては、日本においては脳血管性痴呆がアルツハイマー病より多いといわれてきたが、現在ではほぼ同程度であり、近い将来にはアルツハイマー病の方が多くなると推定されている。アルツハイマー病は進行すると高度の痴呆状態になり、神経細胞は消失し、び慢性に著しい脳萎縮をおこし痴呆に至る。その経過は、3期に分けられ初期には新しいことをおぼえ込むことが困難になる記憶障害が目立つ、この段階は”痴呆疑い”と呼ばれ、少しの援助があれば日常生活をおくることができる。その後混乱期、痴呆期と進み日常生活を送る上で援助や介助が必要となる。
 図1は99mTc-ECD([N,N'-エチレンジ-L-システイネート(3-)]オキソテクネチウム(99mTc)ジエチルエステル)を用いた'痴呆疑い'の患者の脳血流SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)像を示す。


図1 痴呆疑い(痴呆スケールは正常範囲)の患者の脳血流SPECT。(原論文1より引用)

 図中の1〜6とA,Bは、それぞれ右図の脳の1〜6およびA,Bの線で切ったときの断面像に対応した画像である。頭頂葉皮質部(5,6の矢印域)と両側の海馬(A,Bの矢印域)の血流低下が認められる。これは初期のアルツハイマー病に特徴的な変化で、磁気共鳴(MRI)画像では脳萎縮があまり明確ではない(図2)。


図2 同じ患者の磁気共鳴画像。(原論文1より引用)

 SPECT像で血流低下が認められた海馬部(矢印部)のMRI像では、萎縮はほとんど観察されないのでMRI診断だけでは見出されないと思われる。
 脳血管性痴呆では、脳血管の支配領域の部位に血流低下が認められ、ピック病では前頭葉皮質の血流低下が先行し、アルツハイマー病での所見とは異なっている。アルツハイマー病が進行すると海馬や頭頂葉皮質の血流の低下が進み側頭葉の後方部、さらには前頭葉にも血流低下の範囲が拡大する。
 脳血流SPECTでは、脳血流量の定量的な評価も可能であり、痴呆の程度と脳血流量は良好な相関を示し、アルツハイマー病の病態をより正確に診断することができる。脳血流SPECTには、123I-IMP(塩酸N-イソプロピル-p-ヨードアンフェタミン)や99mTc-HMPAO(エキサメタジムテクネチウム(99mTc))といった放射性医薬品も用いられる。
 一方、ブドウ糖代謝を示す18F-フルオロデオキシグルコースを用いるPETでは、脳血流SPECTよりも病変部の著明な低下が認められるが、PET検査を実施する施設が限られており広範な臨床応用は困難である。
 123I-イオマゼニールは、脳神経細胞に存在するベンゾジアゼピン受容体に選択的に結合するので、これを使用すれば、血流が低下している部位の神経細胞の残存の程度を評価することができる。アルツハイマー病の有効な治療薬はまだないが、音楽療法や回想療法といった療法により、痴呆の進行を遅らせることができる。このような療法はできるだけ早期に開始することが望ましく、アルツハイマー病を早期に確実に診断することができる核医学検査の有用性は高い。また、アルツハイマー病に対する治療薬が開発された場合においても、核医学検査は、その治療法の適応の選択、治療効果の予測、さらには治療効果の客観的、定量的評価などに重要な情報を提供するものと考えられる。
           

コメント    :
 高齢化社会において痴呆性老人の増加は深刻な問題である。アルツハイマー病に対する治療法の開発が望まれる。しかし、たとえ有効な治療が実施できるようになったとしても、病状が進展し神経細胞が著しく消失し脳萎縮が起こってしまった後では、治療は非常に困難と考えられ、やはり早期診断は重要であり、脳萎縮など形態学的な変化が認められるようになる以前に診断できる核医学検査の意義は大きいと思われる。

原論文1 Data source 1:
アルツハイマー病−早期診断の重要性−  
宇野 正威、朝田 隆、高山 豊、松田 博史
パンフレット、国立精神・神経センター武蔵病院 編 1996

キーワード:アルツハイマー病,Alzheimer disease,痴呆,dementia,脳血流シンチグラフィ,brain perfusion scintigraphy,  単光子放出断層撮影法, SPECT,[N,N'-エチレンジ-L-システイネート(3-)]オキソテクネチウム(99mTc)ジエチルエステル,Tc-99m ECD, 塩酸N-イソプロピル-p-ヨードアンフェタミン(123I),I-123 IMP,エキサメタジムテクネチウム(99mTc),Tc-99m HMPAO,画像診断,diagnostic image
分類コード:030301, 030106, 030401

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