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作成: 1997/11/10 山本 和高

データ番号   :030031
IVRによる脳動脈瘤の治療
目的      :IVRの手法を用いる未破裂の脳動脈瘤の治療
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :X線管(X線カメラ)
応用分野    :医学、治療、診断

概要      :
脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血は、40代前後に頻度が高く、致命的な結果を招くこともある。X線CTや核磁気共鳴画像(MRI)により、無症状の脳動脈瘤が偶然に発見される機会も増加している。全身麻酔下の開頭手術による治療法よりも、格段に侵襲の少ない、血管造影検査の技術を応用したインターベンショナルラジオロジー(IVR)の手法を用いて、未破裂の脳動脈瘤を離脱式コイルなどによりその内腔を閉塞して、動脈瘤の破裂を防止しようとする試みが行われている。

詳細説明    :
MRIを用いる脳ドックの普及により、自覚症状の無い脳動脈瘤が発見される機会が増加している。脳動脈瘤が破裂するとクモ膜下出血を引き起こし、死に至る可能性もあり、麻痺等の後遺症を残すこともまれではない。クモ膜下出血の原因となった脳動脈瘤の再破裂を防止する治療法としては、脳動脈瘤を露出してその頚部を直接、金属クリップで結紮する手術が行われるが、このためには全身麻酔や開頭術を含む大がかりな手術が必要であり、出血や合併症など手術自体による危険が避けられない。この外科的治療法を自覚症状もない未破裂の脳動脈瘤に対しても実施することには問題がある。
 IVRの手法を用いると、患者に対する直接的な侵襲は大腿動脈の穿刺だけで、そこから挿入したカテーテルを操作することにより、脳動脈瘤を塞栓し、その破裂を防ぐことができる。図1は離脱式コイルを用いる脳動脈瘤に対する塞栓術の模式図である。


図1 離脱式コイルを用いる脳動脈瘤塞栓術の模式図(原論文1より引用)

 通常、右大腿動脈の上部を穿刺して、まずガイディングカテーテルを挿入し内頚動脈の適当な位置まで進めて留置する。その内部を通してマイクロカテーテルを進め、その先端を動脈瘤内に誘導する(図1a)。動脈瘤の大きさを正確に測定してコイルのサイズを選択し、動脈瘤の壁に無理な力がかからないように慎重に操作してコイルの全長を動脈瘤内に挿入する(図1b)。電気離脱式のGDC (Guglielmi detachablecoil)では導入ワイヤと皮膚電極に通電することにより、先端部を切り離すようになっている。離脱が完了すると電流値が低下する。最初のコイルで形成されたフレーム内に少し小さなコイルを挿入して、動脈瘤の内腔をできるだけ密に詰める(図1c)。GDC は血栓形成能が低いので、密に詰めないと内腔の再開通を来す傾向がある。
 図2に動脈瘤塞術前後の造影を示す。


図2 脳動脈瘤塞栓術前後の造影像 a)塞栓術前  (b)塞栓術後(原論文1より引用)

 図2aは治療前の左内頚動脈造影で前大脳動脈に嚢状の動脈瘤(矢印)が描出されているが、塞栓術後(図2b)には動脈瘤はほとんど見えなくなっている。
 このようにIVRの手法を用いる脳動脈瘤塞栓術は、侵襲が低く、未破裂の脳動脈瘤に対する治療法として普及していくと思われる。ただし、マイクロカテーテルやコイルの先端が動脈瘤の壁を押すと動脈瘤破裂を来たし、クモ膜下出血や脳実質内出血を生じることもある。IVRの手法に十分に習熟していない医師が安易にこれを実施することは避けなければならない。また、挿入されたコイルが動脈瘤外に脱出しないように十分な注意が必要である。頚部の広い動脈瘤では、瘤内に挿入したコイルが親動脈に逸脱したり、血流で移動し、親動脈や抹消の脳動脈を閉塞し、脳梗塞などを引き起こす危険性がある。あらかじめ動脈瘤の形態をMRIやX線CTなどより3次元的によく検討し、適応を決定すべきである。
 IVRによる脳動脈瘤の治療において問題となるのは塞栓物質である。マイクロカテーテルから容易に動脈瘤内に留置でき、一旦、留置されると動脈瘤内から逸脱しない。動脈瘤頚部に内膜新生をおこさせ、器質化した後には生体に吸収されるといった条件を満たす塞栓物質が使用できるようになれば、IVRによる脳動脈瘤閉塞術の安全性や信頼性が大きく向上すると考えられ、脳ドック等で発見された未破裂の脳動脈瘤に対する治療法として広く利用されるようになると期待される。

コメント    :
IVRの手法を用いる脳動脈瘤塞栓術は、大がかりな開頭術を必要とせず、極めて小さな侵襲で脳動脈瘤を治療する優れた方法である。脳ドックの普及により未破裂の脳動脈瘤が検出される機会が増加するにつれて、その必用性は高まるものと思われる。しかし、脳動脈瘤を安全に、かつ確実に閉塞するためには、IVRの手技に十分に習熟していなくてはならない。IVRによる脳動脈瘤の治療をさらに普及させるために、IVRを実施できる医師の養成とともに、脳動脈瘤を塞栓する手技の改良、より使いやすいカテーテルや塞栓物質の開発が望まれる。

原論文1 Data source 1:
中枢神経系のIVR
石口 恒男
名古屋大学医学部
INNERVISION 臨時増刊,12(11),pp.47-53,1997

キーワード:IVR,interventional radiology、脳動脈瘤,cerebral aneurysm、脳動脈、瘤塞栓術,occlusion of cerebral aneurysm、離脱式コイル,detachable coil、X線カメラ、DSA, digital subtraction angiographic system
分類コード:030101,030102,030103,030402

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