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作成: 1999/02/22 谷口 弘毅

データ番号   :030025
O-15を用いたポジトロンCTによる肝画像診断
目的      :肝局所血流量・血液量測定による慢性肝障害の診断
放射線の種別  :陽電子
放射線源    :陽電子放出核
応用分野    :医学、診断、機能定量

概要      :
 肝はその二重血流支配のために、これまでは肝血流量の定量的測定は不可能であった。しかし、ポジトロンCTにより動脈・門脈別の肝局所血流量の定量化が可能となった。局所動脈血流量は慢性肝障害が進行しても保たれているが、局所門脈血流量は慢性肝障害の進行とともに低下する。また、肝の局所血液量も慢性肝障害の進行とともに低下する。これらを組み合わせることにより、分肝機能・予備能を推定する事ができる。

詳細説明    :
 これまで肝血流量の定量的測定は不可能であった。それは、肝には動脈・門脈別の二重血流支配のためであり、多くの試みがなされてきたがいずれも定性的であった。しかし、ポジトロンCTを用いることにより肝局所血流量の定量化が可能である。すなわち、新しい肝血流モデルを構築し、これまでの肝シンチグラフィーの核医学的なcurve analysisをPET解析に応用することによって、生理的な動脈・門脈別肝局所血流量の測定が可能となる。ここで用いるポジトロン核種は、主に質量数15の酸素15Oであり、トレーサーとしてはC15O2(二酸化炭素)、H215O(水)、C15O(一酸化炭素)を用いる。図1にC15O2を用いた吸入定常法による診断結果の一例を示す。


図1 C15O2吸入定常法による血流動態評価 a)ポジトロンCT画像(左から非障害肝、慢性肝炎、肝硬変)(原論文1より引用) b)肝局所血流指数(図中のバーは、95%信頼区間を示す)

 これは、C15O2を吸入させつつ5分間PETスキャンを行なった結果である。この方法では動脈・門脈血流量の分離測定はできないが、C15O2が血中に溶けてH215Oになるので肝局所血流指数(肝組織の放射活性/動脈血の放射活性=局所血流量比)を知ることができる。図1a)は、左から非障害肝、慢性肝炎、肝硬変患者のPET画像であり、この順に血液量が減少している様子がわかる。さらにこれを局所血流指数で示したのがb)の図である。具体的にはこれまでの209例(非障害肝117例、慢性肝炎24例、肝硬変68例)の検討で、非障害肝が0.51±0.01、慢性肝炎では0.50±0.02、肝硬変では0.49±0.02(平均±95%信頼区間)が得られた(p=0.038)。
 H215Oを用いた静注動態法による診断結果の一例を図2に示す。


図2 H215O静注動態法による血流評価 a)非障害肝のポジトロンCT画像(撮影時間は左上から右下に向かって経過)(原論文1より引用) b)動脈・門脈別肝局所血流量(図中のバーは、95%信頼区間を示す)

 静注後5分間にわたって継時的にPETスキャンを行なうと、図2a)のように血流量が経時的に変化する画像が得られる。脾臓の放射活性値が、最初から最大値となるまでの時間で動脈血流量を求め、それ以後の時間で門脈血流量を求めている。図2b)は、これまで本法を施行してきた198例(非障害肝109例、慢性肝炎23例、肝硬変66例)について、動脈および門脈血流量を求めた結果である。局所動脈血流量は、非障害肝では37.64±2.82、慢性肝炎では35.74±8.78、肝硬変では34.54±3.29ml/100g/分(平均±95%信頼区間)と比較的保たれている(p=0.43)が、局所門脈血流量は、非障害肝では97.69±9.56、慢性肝炎では84.34±19.69、肝硬変では59.87±7.65ml/100g/分(平均±95%信頼区間)と、肝の慢性障害が進んでいくと低下してくることがわかる(p<0.001)。
 C15O一回吸入法による診断結果を図3に示す。C15Oを吸入すると、直ちにヘモグロビンと結合することを利用して、肝の局所血液量を知ることが出来る。


図3 C15O一回吸入法による血液量評価 a)ポジトロンCT画像(左から非障害肝、慢性肝炎、肝硬変)(原論文1より引用) b)肝局所血液量(図中のバーは、95%信頼区間を示す)

 a)の画像処理により、組織中の血液量を知ることができる。各種患者の163例(非障害肝92例、慢性肝炎20例、肝硬変51例)の検討から局所血液量の平均値を求めた結果をb)に示す。非障害肝が、20.96±0.88、慢性肝炎では17.18±2.09、肝硬変では15.59±0.95(平均±95%信頼区間)と、慢性肝障害が進行するにつれて肝局所血液量が減少する(p<0.001)。また、肝局所血液量は組織学的な肝線維量と相関するため、この方法で肝の線維化の程度を推定することができる。
 このように、各種ポジトロンCT検査を組み合わせることによって、慢性肝障害の程度を診断できる。肝局所血流量により肝予備能の推定も可能であり、肝局所血液量から肝硬変の程度を推定できるが、これらを肝の任意の部分で推定できる事に特徴がある。これまでの肝機能検査は肝全体の機能検査であったが、ポジトロンCTでは任意の部分の測定が可能であるので、分肝機能検査法としての意義が大きい。

コメント    :
 ポジトロンCTによる肝局所血流量・血液量測定法は、肝局所の肝機能・予備能の推定に有用な検査法である。

原論文1 Data source 1:
ポジトロンCTによる肝画像診断―15-Oを用いた肝局所血流量・血液量測定―
谷口 弘毅、山口 明浩、国島 憲、高 利守、北川 一智、大林 孝吉、山口 俊晴、山岸 久一
京都府立医科大学第一外科
臨床科学 34(12)、pp.1669-1676、1998

参考資料1 Reference 1:
Difference in regional hepatic blood flow in liver segments - Non-invasive measurement of regional hepatic arterial and portal blood flow in human by positron emission tomography with H215O
H.Taniguchi, A.Oguro,K.Takeuchi,K.Miyata,T.Takahashi,T.Inaba,H.Nakahashi
First Department of Surgery, Kyoto Prefectural University of Medicine
Annals of Nuclear Medicine 7: 141- 145, 1993

参考資料2 Reference 2:
Analysis of models for quantification of arterial and portal blood flow in the human liver using PET
H.Taniguchi,A.Oguro,H.Koyama,M.Masuyama,T.Takahashi
First Department of Surgery, Kyoto Prefectural University of Medicine
Journal of Computer Assisted Tomography 20(1), 135-144, 1996

参考資料3 Reference 3:
Quantitative measurement of human tissue hepatic blood volume by C15O inhalation with PET
H.Taniguchi, M.Masuyama,H.Koyama,A.Oguro,T.Takahashi
First Department of Surgery, Kyoto Prefectural University of Medicine
Liver 16: 258-262, 1996

キーワード:ポジトロンCT,PET,Positron Emission Tomography,酸素-15,O-15,oxygen-15,O-15-水,oxygen-15-water,O-15-二酸化炭素,oxygen-15-carbon dioxide,O-15-一酸化炭素,oxygen -15-carbon monooxide,肝局所血流量,blood flow,肝局所血液量,blood volume
分類コード:030301,030401,030501

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