肺癌、大腸癌の核医学検査

放射線利用技術データベースのメインページへ
作成： 1999/03/22 遠藤　啓吾データ番号　　　：030024 肺癌、大腸癌の核医学検査目的　　　　　　：肺癌、大腸癌患者を中心としたがん患者に対するPET検査法についての紹介放射線の種別　　：陽電子放射線源　　　　：¹⁸^F 応用分野　　　　：医学、診断、治療概要　　　　　　：　肺癌、大腸癌、卵巣癌、悪性黒腫(メラノーマ)などにおける画像診断法では、¹⁸Fで標識したフルオロ2-デオキシグルコース(¹⁸F-FDG)を用いたポジトロン・エミッション・トモグラフィ(PET)検査で優れた臨床結果が得られている。肺癌、大腸癌、悪性リンパ腫のPET検査結果を示すとともに、PET検査法の有用性について紹介する。詳細説明　　　　：　我が国の死亡率の第一位は悪性腫瘍であり、特に癌に関する関心が高い。核医学検査の行われている大病院では、癌患者の来院が多い。癌は早期発見により治癒できるために、画像診断法が有効であり、癌の治療に直結する。この画像診断には、¹⁸Fで標識したフルオロ2-デオキシグルコース(¹⁸F-FDG)が用いられ、肺癌、大腸癌、卵巣癌、悪性黒腫(メラノーマ)などで優れた臨床結果が得られていることから注目され、腫瘍の核医学検査が再び脚光を浴びている。肺癌による死亡率は、胃癌に次いで多く、大腸癌では肝臓がんに次いで第4位になっている。　核医学検査のうち、ポジトロン・エミッション・トモグラフィ(PET)検査を実施している医療機関は、我が国では26施設(1998.1月現在)でPET装置約40台が稼働している。一方、¹⁸F-FDGに適した汎用性のあるガンマカメラの開発が進展していることから、核医学検査は急速に普及することが期待できる。　 1.検査症例　肺癌の¹⁸F-FDGによるPET検査結果、全身像を図1に示す。図1　肺癌の¹⁸F-FDGによるPET検査、全身冠状面像(77歳、男性)（原論文1より引用）　全身Coronal像(冠状面像)であり、後ろから前へ1cm毎の断層像である。頭部には非常に多く取り込まれており、脳の活動が活発なことがわかる。左右の肺癌(①→)以外に、左肺門部リンパ節(②→)、右副腎(③→)への転移が認められる。　次に、大腸癌の全身Coronal像を図2に示す。図2　大腸癌の¹⁸F-FDGによるPET検査、全身冠状面像(57歳、男性)（原論文1より引用）　本患者は、5年前に左肺に肺癌を患い、放射線治療を実施し経過良好に今まで過ごしてきたが、血中CEA(癌胎児性抗原)濃度が上昇してきたために、¹⁸F-FDG によるPET検査を行った。上行結腸(①→)に強い取り込みが認められる。しかし、脳、心臓(②→)にもRIの集積が認められるのはやや異常であり、これは検査前の絶食が不十分であったためと思われる。　さらに、悪性リンパ腫の検査結果を図3に示す。図3　悪性リンパ腫の¹⁸F-FDGによるPET検査、全身冠状面像（原論文1より引用）　悪性リンパ腫の診断には、通常⁶⁷Gaによる核医学検査が行われるが、本患者の場合、⁶⁷Gaでの診断が困難であった。そこで、¹⁸F-FDGによるPET検査を行ったところ、脾臓(①→)、腸管(②→)、脊椎への集積が認められた。一方、検査前の排尿が不十分であったために、膀胱への集積が多い。　 2.FDGによるPET検査の有用性　がん細胞は正常細胞よりも、細胞増殖の速度が速い。したがって、細胞のエネルギー源であるブトウ糖の消費量も正常細胞よりも多い。そこでブトウ糖の誘導体である¹⁸F-FDGは、増殖細胞に取り込まれるから、その量を知ることは極めて臨床的に有用である。細胞に取り込まれた¹⁸F-FDGは、これ以上代謝されず細胞内に蓄積されるために、画像化された¹⁸F濃度はそのままブトウ糖代謝量を反映し、ブトウ糖代謝の活発な組織、部位を示すことになる。　一般的には、悪性細胞のブトウ糖代謝が亢進しており、悪性腫瘍の方が良性腫瘍より¹⁸F-FDGの取り込みが多い。しかし、腫瘍の良性、悪性の質的鑑別診断は慎重に行う必要がある。例えば、サルコイドーシスや肺の活動性炎症細胞は、良性であるにもかかわらず¹⁸F-FDG が取り込まれる。　¹⁸F-FDGによるPET検査が最も役立つのは、腫瘍の分布を知り病期(stage)を診断するときである。腫瘍が原発巣だけであるか、リンパ節や他の臓器への転移があるか、腫瘍の広がりを見るときに有効であり、術前検査に重要な役割りを果たす。コメント　　　　：　¹⁸F-FDGによるPET検査の長所は、次のようにまとめることができる。 ①投与1時間後に全身像を撮影できる。これは病期の診断、スクリーニングに有用であることを示す。②縦隔、腹部でのバックグランドが低い。これは腫瘍/正常細胞の比が高く、検出感度が優れていることを示す。③肺癌、大腸癌等のがん診療に役立つ。これは対象患者数が多いことから、機器の有効利用につながることを示す。原論文１ Data source 1：肺癌、大腸癌患者を中心とした癌患者における核医学検査の実際-現状と将来展望- 遠藤　啓吾群馬大学医学部大分総合画像診断研究会誌 2(1)、pp.34-37、1998 キーワード：ポジトロン・エミッション・トモグラフィ,positron emission tomography(PET),肺癌,lung cancer,大腸癌,colorectal cancer,悪性リンパ腫,malignant lymphoma,F-18-フルオロ2-デオキシグルコース,F-18-fluoro deoxy glucose(F-18-FDG),ブトウ糖代謝,glucose metabolism,全身冠状面像,whole body coronal image,画像診断,diagnostic imaging 分類コード：030301,030401,030501
放射線利用技術データベースのメインページへ